猫が普段通りに見えるのに餌を食べないとなると、原因が分からず心配ですよね。体調不良が原因でないことも多いですが、重大な疾患を抱えているケースもあります。猫の食欲についての基礎知識や、餌を食べない原因と対処法についてチェックしてみましょう。
猫の食欲について
猫は季節により食欲が変化する生き物
あまり知られていませんが、野生動物には「冬は多く食べ、夏は少なく食べる」性質があります。
冬は自然界に食べ物が少なく、小動物を主食とする完全肉食である猫にとっては厳しい季節。そのため、冬に餌を見つけたら「とりあえず食べる」ため、人間が餌を与える飼い猫も残さず餌を食べてくれるのです。野生の名残ということですね。
また、体の体温を上げるためにカロリーを使うことから、冬の方が多くのカロリーそして食べ物を必要とするのです。
年齢・体重によって必要なカロリーは違う
猫は、年齢や体重によ手必要な餌の量が違います。
体重が少ない猫や老猫は必要なカロリーも少ないです。必要なカロリーとは、現在の体重を維持でいるだけのカロリーなので、体重が少ない猫はカロリーが少なくなるのは必然ですね。老猫は若い猫に比べて動きが少なくなるため、運動に使うカロリーが少なくなり、必要なカロリーも少なくなるというわけです。
1歳未満の子猫や成長期の猫、妊娠・授乳中の猫は多くのカロリーを必要とするため、餌の量も多くなります。また、避妊・虚勢手術を受けている猫は、未避妊・未虚勢の猫に比べて太りやすく体重も多い傾向にあるため、必要なカロリーや餌も多くなります。
猫には腹8分目の性質がある
猫は野生の名残から、お腹いっぱいになることを嫌うとされています。
猫が野生で生き延びるためには、身軽さが必須。飼い猫でさえ、その跳躍力や瞬発力は我々人間を驚かせ、身体能力の高さは野生動物の中でもピカイチといってよいでしょう。これらはすべてが猫の身軽さによるものです。身軽でなければ餌が取れませんし、敵から逃げて命を守ることができません。
人間でも、お腹いっぱい食べたときと腹8分目のときでは動きやすさが違いますよね。お腹がいっぱいになると眠くなったり「動きたくないな」と感じる人は多いでしょう。
猫もお腹いっぱい食べてしまえば、身軽さが失われ身体能力の高さを発揮できなくなります。身軽さを失うことは、猫にとって命の危機なのです。そのことから、猫はお腹いっぱい食べず、8分目に抑える性質があるといわれています。
猫は本来「ちょこっと食い」をする生き物
飼い猫では、決まった時間に決まった量を与え、猫はお皿の餌を全部食べることが多いでしょう。しかし、本来の猫の好みは、いつでも餌が用意されていて、つまむ程度に1日住食べることです。いわゆる「置き餌」ですね。
お腹いっぱいではなく8分目に抑える性質から、一気に満腹になるのでなく、少しの量をちょこちょことお腹に入れ続けるのが猫の好み。そうすることで身体が重くなるのを防ぎつつ、必要なカロリーをしっかり摂取しようとしているのだそうですよ。
元気なのに愛猫が餌を食べない…考えられる原因8つ
老化や老衰
人間は、年老いていくにつれ食事の量は減る生き物です。20代の若者と40代の壮年期、70代以降の高齢者では食べる量が違って当然ですよね。猫も同じで、年を重ねるにつれ食事の量は減って当然です。
まったく食べないなら問題ですが、食べる量が減ることは不自然ではありません。もちろん、年齢以外の可能性を探るために診察を受けさせることが大前提ですが、日常的に食事量が減るのは自然の摂理と思いましょう。命の終わりに近づいていると考え、必要なケアができるよう準備しましょう。
また、今まで元気に食べていた老猫が死ぬ2、3日前から食事を取らなくなることはよくあります。お別れの時期が近いのだと覚悟し、後悔のないよう看取りの準備をしたり、改めて猫との別れを考える必要もあります。
キャットフードの好き嫌い・餌に飽きた
まれなケースですが、猫が餌に飽きた可能性も考えましょう。
猫は飽きっぽい生き物ですが、それ以上に臆病な性質を持っています。そのため、新しいものを次から次へと試すより、同じものに安心することがほとんどです。「昨日も食べたこの餌は大丈夫だから、今日も同じものを食べよう」といった具合に、1度安心だと判断したものに固執するのです。そうすることで命や健康を守ってきた、野生動物としての名残でしょう。
しかし、猫の性格によっては餌に飽きて「もうコレ嫌だ」と拒絶を示す個体もいます。元々あまりその餌を気に入っていなかったり、「気に入ったものしか食べない」というプライドの高い猫、「飼い主が出すものなら何でも安心」と飼い主に全幅の信頼を寄せているケースが考えられます。
あまりコロコロと餌を変えていては、猫がどんどんワガママになっていってしまいます。「食べなければ別のものを出してくれる」と学習してしまうからです。そうなってしまうと、慢性的な病気を抱えた際の病気用の療養食を拒否し、病気が悪化してしまうことも……。
猫の言いなりになってしまうのではなく、ある程度の妥協点を見つけるか、好みのフードは多くても3種類をローテーションするようにしましょう。
環境の変化・ストレスによる食欲不振
猫はストレスに弱い生き物です。ストレスがすぐに体調に現れるため、ストレスから食事を取らなくなることは珍しくありません。
猫はとても臆病な生き物なので、環境が変化するのをとても嫌います。「借りてきた猫」という言葉があるとおり、知らない環境では怖くて身動きが取れずおとなしくなってしまうのです。普段は天真爛漫な猫やのんびりした猫でも、環境が変化するとプルプル震えて失禁することもあるくらいです。
猫にとっては「いつもと違うから、身を潜めていないと命の危機があるかもしれない」と、臆病になっているだけなのです。
部屋の模様替えや動物を含む新しい同居人、来客などさまざまな要素が考えられます。一時的なものであることが多いですが、餌を食べないことで体調不良となると食欲低下は続くでしょう。猫のいる環境をなるだけ変えないことが大事です。
繁殖期による食欲低下
猫の繁殖期は年に4回あるとされています。メインは春、次に秋ですが、真冬や真夏に繁殖する個体もいます。
繁殖期になると、猫は文字通り「寝食を忘れて」繁殖しようとします。発情期を迎えた猫にとって、最大の関心ごとは繁殖であり、食事や睡眠は二の次となるからです。食べないことによって体重が減ったり、いつもより遠くへ出かけて相手を探し回って体力を使い痩せることもあります。
繁殖本能が原因となるため、避妊・虚勢をしている猫に関してはこういった心配はないでしょう。
病気な食欲低下
食欲低下の際、飼い主がもっとも疑うのは病気ではないでしょうか。
症状として食欲不振があげられる病気は多く、食欲がなければ真っ先に病気を疑うのは正しいといえます。人間でも、具合が悪いときには食欲がなくなりますよね。
そもそも「食べたい」と思わないほど具合が悪かったり、餌を見たり匂いをかぐことで吐き気を催すこともあります。
誤飲・誤食による食欲低下
現代日本では、猫が食べるべきでないものは世の中に溢れています。そういった危険なものを食べてしまった猫は、食欲不振に陥ります。
猫は好奇心旺盛な生き物なので、面白そうなものがあればじゃれつきます。小さなものや柔らかいものにじゃれたり、噛みついて遊んでいるうちに飲み込んでしまう事故は日々起きており、猫が苦しみながら死に至ることも珍しくありません。
猫が異物を飲み込んだ場合、消化ができず胃や腸の中に異物が留まってしまいます。そのことから食欲を失ったり、食べても胃を通過せず吐き戻してしまうのです。異物が体内から出たあとも、食道など内臓が傷付いていれば食欲は低下するでしょう。
もっとも多く報告されているのは、紐やビニールでしょう。カサカサ音がしたりキラキラ光ったり、ゆらゆらと揺れたりするものは猫の狩猟本能を刺激します。食べてしまうことも十分に考えられますよね。
また、世の中にはウールサッキング・ウールチューイングといって、布やビニール、ティッシュ、紙などを餌であるかのように食べる性質の猫もいます。愛猫にそんな兆候が見られたら、危険なものは片づけてください。命の危機から愛猫を守りましょう。
怪我による食欲低下
内傷ではなく外傷の場合も、猫の食欲を奪ってしまいます。
人間でも、怪我をしていて気分的に落ち込んでいたり痛みがある場合には、食べる気持ちにならないですよね。猫も同じで、「怪我が気になって食事どころじゃない」ことはよくあります。
骨折や切り傷などがないか、確かめてみるとよいでしょう。
口内環境による食欲低下
口の中の傷や歯茎の腫れは、猫の食欲を低下させます。
人間の場合も、口の中が痛かったら食事をする気になりませんよね。猫も同じで、「食べると痛みを感じる」と判断したら、食べることをしなくなります。理由は簡単、痛いのは嫌だからです。
猫は歯磨きやうがいをしない生き物なので、加齢とともに口内環境はどんどん悪くなります。歯には歯石が溜まり、歯を失い、歯茎も腫れます。口内環境に問題を抱えていない猫はほとんどいないといっても過言ではありません。
猫の口の中を見ることは簡単ではありませんが、腫れや赤みがあるようなら、口内の痛みがあるのかもしれません。また、口を開けたときの匂いも判断材料になります。
何日食べないと食欲不振?病院に行くべき?
猫は48時間食べないと、肝リピドーシスという病気になるといわれています。
肝リピドーシスとは、栄養不足により、体内の脂肪の一部を生命維持エネルギーに使ってしまう病気です。「普段は食事からエネルギーをとっている回路がありますが、食事がないため、その回路を体内の脂肪に繋ぎ直してしまう」と考えると分かりやすいでしょう。この回路は一度形成されてしまうと治りにくく、食事を取るようになってからも元の回路に戻るまでに時間を要します。
「体内の脂肪を消費できるなら、ダイエットになるのでは?」と安易に考えてはいけません。結果的に肝臓に脂肪が蓄積し、機能不全を起こしてしまいます。
リミットは48時間とされていますが、あくまで目安。人間と同じように、猫にも個体差があるため、38時間で肝リピドーシスになる猫もいれば60時間くらい大丈夫という猫もいるでしょう。また、少しは食べるからと安心してはいけません。普段の食事量より少ない期間が1週間程度持続しても、肝リピドーシスになってしまいます。
あくまで目安のラインと考え、早めの受診をおすすめします。
【状況別】元気なのに愛猫が餌を食べない
少ししか食べない
少しでも食べるなら、一時的な食欲不振である可能性があります。明確な原因が思い当たらない場合、ただの気分かもしれません。
少しでも餌を食べるなら、誤飲や誤食の可能性は低いです。しっかりと胃に入っているからです。飽きや気分の可能性が高いですが、病気でも少量なら食べることがありますので、下痢など他の症状や普段の様子を診て総合的に判断しましょう。
ただし、少ししか食べない状況が3日以上続いたら、病気である可能性が高まります。そのときには病気でなくても、食欲不振が続くことで発症する病気や障害もあります。速やかに診察を受けるようにしましょう。
クンクンするけど食べない
餌の匂いを嗅ぐものの食べることはない場合、空腹感があり食べたい気持ちはあると考えられます。その餌に飽きていたり、自分の体調から適切でないと判断した場合は、こういった行動を取ることがあるのです。
病気や怪我も考えられますし、飽きただけという理由も考えられます。また、餌を食べる環境が適切でない場合も、「食べたいけどこの状況では食べられない」と判断してどこかへ行ってしまうことがあります。
無理に勧めるのではなく、餌を置いたら部屋を出て1匹にしてあげましょう。30分近く経って様子を見に行けば、完食していることもありますよ。多頭飼いなら、他の猫に食事を邪魔されることがストレスになっているケースもあるため、1匹にしてあげて食べるかどうかを判断してください。1匹なら食べるということなら、食事環境を整える必要があります。
おやつは食べる
餌を食べないのにおやつは問題なく食べるなら、食欲低下というよりえり好みしているだけの可能性が高いです。
おやつがきちんと体内に入るということは、内臓に問題がないということ。餌に飽きたか餌が嫌いなどの理由があると考えられます。
ただし、餌はスープ状、おやつは固形といった風に、餌とおやつの形状が違う場合は別の可能性も考える必要があります。口内に傷があってスープが染みるため餌を嫌がっているのかもしれません。また、逆の形状の場合でも、口内にある出来物に固形物がぶつかって痛みを感じている可能性があります。餌とおやつの形状が違う場合には、飽きと判断するのは早計といえるでしょう。
水は飲む
餌は食べないが水は飲むというケースがあります。脱水症状に陥る可能性は低いですが、あまり安心できるものでもありません。
というのも、ウェットフードでもドライフードでも固形物であることに変わりないため、水のような流動的なものとは比較することができないからです。
水だけしか飲まない場合にも、肝リピドーシスになる可能性があります。48時間というリミットがあることですから、早めに受診させましょう。
餌に見向きもしない・ぐったりしている
餌に見向きもせずぐったりしているなら、命の危機があります。一刻も早く病院にいきましょう。
病気がかなり悪化しているか、大きな怪我、内臓の損傷などが考えられます。また、病気や怪我でなく寿命で命が尽きる数日前にもこのような状況に陥ります。特に、急に食べなくなった場合は危険度が高いです。
餌を食べない愛猫の食欲を増進させる方法
食事環境を整える
落ち着いてゆっくりと食事できる環境を整えましょう。
人通りがある場所や餌を横取りする同居猫の隣など、猫がゆっくりと食事できない環境では、食事をしなくなるのも無理はありません。猫は繊細な生き物だと心得て、愛猫にあった環境を用意するべきです。
食事を与えたらじっと見ているのではなく、部屋で1人にしてみましょう。数分経って様子を見に行き、完食していれば、食欲不振の原因は環境ということになります。
適度な運動をさせる
猫に必要なカロリーの摂取量は、日ごろ消費するカロリー量によって違います。アクティブな猫は多くのカロリーを必要とし、寝ているだけのタイプならカロリーはそれほど必要としません。
人間でも、日常的に体を動かすスポーツ選手と運動嫌いの人とでは、食欲は違いますよね。動けば動くほど食欲は増すので、動かない老猫よりアクティブな若い猫の方が食欲があるということです。
若くて体調に問題がないのに、あまり運動せず食欲がないタイプの猫もいます。性格があるため無理はよくありませんが、興味を持ちそうなおもちゃを使って運動をさせるのもよいでしょう。猫は上下運動を好む生き物なので、キャットタワーやちょっとした台などを用意し、上下に移動させるとよいですよ。
餌を温める
猫の食欲がないときに、餌を温めるのはおすすめです。
猫は冷たい食事を嫌います。完全肉食の猫にとって、冷たい食事は死んでから時間が経った新鮮でない餌を連想させるからです。時間が経った肉は腐って体調不良の原因となることを、猫は本能的に知っているのですね。
また、餌を温めると匂いが出るため、食欲をそそることができます。美味しそうな匂いにつられて1口でも食べれば、呼び水となって2口、3口と食べ続けることも多いです。
キャットフードを変えてみる・スペシャルフードを用意する
口内環境や老化が原因で食べ辛さや痛みを感じたり、そもそもその餌を気に入っていない場合は、餌を変えてみるとよいでしょう。
ドライフードを食べない猫の場合は、ウェットフードへの変更がおすすめ。ドライフードに混ぜて与えるのもよいですね。餌を完食するようになったら徐々にウェットフードの割合を減らし、ドライフードに戻せば問題ありません。再び食べなくなった場合は、餌を完全に変更しましょう。
猫が食欲不振に陥ったときのためのポイント
好みの餌を把握しておく
猫が突然食事をしなくなり、慌てる飼い主は多いもの。すぐに病院に連れていければ、点滴や注射で栄養を体に入れることができますが、飼い主がすぐに対処できるとは限りませんよね。
猫は頑固でプライドの高い生き物です。「気に入らないものを口にするくらいなら」といわんばかりに、食事を拒否する猫もいます。意地を張っているうちに本当に食が喉を通らなくなり、命の危機に瀕することもあります。そんなとき、何でも良いので猫が大好きなものを与えるととりあえずは食事を取らせることができるでしょう。
猫によって好みはさまざま。刺身に目がない猫もいれば、タケノコをまるかじりするのが大好きな猫もいます。よほど体に悪いものでなければ、少しくらい与えてみて、食欲を刺激するための呼び水にしてもよいでしょう。
総合的に考える
食欲不振といっても、病的なものもあれば一時的なものもあります。そのため、病院に連れていくかを迷う人も多いでしょう。
そんなときには、餌を普段の何割食べたか、水は飲むのか、元気があるかないか、便はどうなのかなど総合的に判断しましょう。病院に連れていくにせよしないにせよ、問診で必要になることばかりなので、メモをしておくのをおすすめします。
嘔吐しているなら、嘔吐した時間をメモし、嘔吐物がどんな風かをスマホで撮影しておくとよいです。水を飲んだかどうかについては、最初に水の量を測っておくようにしましょう。可能なら、便を採取して病院に持ち込みましょう。
まとめ
人間でも食欲のないときはありますよね。体調不良以外にも、夏バテや気分、前回の食事からあまり時間が経っていないときには「食べたい」という気持ちにはなりません。それは猫も同じです。
食欲増進に関しても、人間と猫はよく似ています。
人間が美味しそうな匂いにつられて食欲増進するのと同じように、猫もおいしそうな匂いを嗅ぐと食べようとします。胃腸の調子が悪いときも同じで、人間は消化の良いおかゆやうどんを好むように、猫はドライフードよりウェットフードなら食べることがあります。
胃腸を休めている間に自分で回復することも珍しくありませんので、「自分だったらどうかな」と考えて行動をするとよいでしょう。
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