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お遍路でやってはいけないこととは?

お遍路とは、四国各地で弘法大師(空海)にゆかりのある88ヶ所の札所を巡る修行の旅です。江戸時代以降は弘法大師ゆかりのお寺を巡ってご利益に得たいという考えが浸透して、一般庶民も巡礼するようになりました。全長約1400キロの距離を巡るお遍路の旅は道路も整備され、交通機関も発達している現在の方が江戸時代よりも快適になったとはいえ、やってはいけないことがたくさんあります。この記事では、お遍路とはどんなものなのか、お遍路でやってはいけないことについて紹介していきます。

お遍路とは

お遍路でやってはいけないことを紹介する前に、お遍路とはそもそもどのようなものかを紹介しましょう。

お遍路の始まり

お遍路の始まりは、香川県善通寺に生まれた弘法大師に由来します。四国88ヶ所に点在する札所寺院は弘法大師が42才当時に修行しながら開創したと言われており、弘法大師に心ない振る舞いをした伊予の衛門三郎が許しを求めるために弘法大師を探しながら歩き続けたことがお遍路の始まりだとされています。

お遍路について語られている中に弘法大師と空海という2つの名前がよく出てきますが、弘法大師と空海は同一人物です。正確に言えば、空海の別名が弘法大師です。弘法大使には数多くの功績があり、中でも真言宗の宗派を開いた功績で知られており、そのときに名乗っていたのは「空海」でした。

お遍路の巡り方

全長約1400キロ、88ヶ所を巡るお遍路は1番目の札所から順に回らなければならないとか、1度の巡礼で88ヶ所の札所全部を回らなければならないなどの決まりはなく、次のような巡礼方法が可能です。

順打ち

お遍路で巡る札所には1番から88番まであり、これらの数字の順番通りに回るのが「順打ち」です。順打ちでは、徳島県鳴門市にある1番札所の「霊山寺」から香川県さぬき市にある88番札所の「大窪寺」まで右回りに順番で回ります。順打ちは道順が比較的にわかりやすく、基本的な巡り方です。

逆打ち

順打ちとは逆に88番目の札所から1番目の札所までを左回りに回るのが「逆打ち」と呼ばれる巡り方です。平安時代に弘法大師の許しを請うために20回も順打ちで回り続けても会えなくて困っていた伊予の庄屋・衛門三郎が21回目には逆打ちで回ったところ、ついに弘法大師に出会えたことが逆打ちの始めだとされています。

逆打ちは道順がわかりにくくて克服するのが困難なことから、功徳が大きいと言われています。

区切り打ち

一度にすべての札所を回るのではなく、何回かに分けて回る巡り方を「区切り打ち」と言います。順打ちでも、逆打ちでも、88ヶ所もの札所を全部回るのに比べて時間的にも経済的にも負担が少ない巡り方です。

乱れ打ち

札所の順序にこだわらずに、行けるところから参拝するのが「乱れ打ち」という巡り方です。

お遍路にかかる費用

お遍路にかかる費用は1日あたり10,000円ほどであり、決して安いものではありません。最も費用がかさむのが宿泊代で、1日あたり4,000~8,000円ほどになるでしょう。1日あたりの必要経費以外にも、お遍路に欠かせない金剛杖、白衣、菅笠、輪袈裟の購入も必要になりますから、40日~60日ほどの全日程ではかなりの出費を覚悟する必要があります。トータルで40万~60万円ほどの費用がかかると言われています。

お遍路の移動手段

お遍路の移動手段として、次のような方法があります。

歩き遍路

歩き遍路では1日で20~30kmほど歩くのが平均的だと言われているように、かなりの距離を歩くことになります。道路が舗装整備されて江戸時代などと比べてはるかに快適に歩けるようになったとはいえ、それだけの距離を歩くのは簡単ではありません。天候や体調によって歩くスピードも変わりますし、山道などのように歩く難易度が高い場所も少なくないです。お遍路の修行として最もハードルが高いのが歩き遍路だと言えるでしょう。

自転車遍路

自転車を使ったお遍路なら、サイクリングなどで自転車旅行に慣れている人なら1日で60~80kmの移動も可能でしょう。歩き遍路に比べてスピードが格段に速くなるのに対して、体力的な負担が減りますから、修行としてのお遍路から離れて、観光も楽しむ余裕ができるでしょう。

札所を巡っている途中でアクシデントが発生したとしても、スピードが速い分、遅れを取り返しやすいのも魅力です。折り畳み自転車にすれば、電車などにも持ち込みやすくてさらに便利です。

自動車遍路

歩き遍路なら40日~60日ほどかかるお遍路の札所巡りを自動車遍路なら1週間ほどで結願することも可能です。

地形や天候の影響を受けることが少ないため、事前に日程を立てやすいだけでなく、日程が狂う可能性が少ないのも魅力でしょう。1週間などの短期間に限定しないのであれば、お遍路と観光を組み合わせて楽しめます。

歩き遍路や自動車遍路のような体力的負担がほとんどないだけでなく、費用面でも安いのもメリットです。

観光バスなどの公共交通機関

歩き遍路しかなかった江戸時代とは違って、現代では観光バスや電車などの公共交通機関を利用できることも、お遍路を手軽に楽しめるようになった理由です。バスや電車が整備されていない場所にも札所がありますから、それぞれの札所に合わせて公共交通機関を適宜、利用するといいでしょう。

札所の場所によってはタクシーも活用すれば、歩く距離を最小限にできて便利です。

お遍路での服装

お遍路と言えば「白衣に菅笠、金剛杖」という恰好をイメージしますが、そのような本格的なお遍路装束の歴史は意外に浅く、昭和の時代に観光バスでの団体お遍路が流行した時期に広まったものです。

お遍路がブームになった江戸時代でも、普通の旅装束で札所巡りをする人が多かったと言われています。現代のお遍路でも、基本的に決まった服装はありません。ジーンズにスニーカーでも大丈夫です。

特に歩き遍路や自転車遍路では動きにくい服装だと疲れやすいだけでなく、危険なこともあります。札所では、お寺での略式正装である輪袈裟を身に着けるなどすれば、お寺での礼儀作法を尊重することができます。

状況に合わせて、臨機応変に対応するのがおすすめです。

お遍路に必要な持ち物

お遍路に必要な持ち物を紹介しましょう。

金剛杖など

金剛杖は「弘法大師そのもの」を表わすと言われているように、お遍路道中の無事を加護してくれるので、ぜひとも用意する必要があります。金剛杖以外にも、数珠、ろうそく、線香、納札、輪袈裟、勤行本、納経帳なども必要です。白衣やすげ笠は好みに応じて揃えましょう。

リュックサック

手で持つカバンでは長時間の歩き遍路などでは不便ですから、リュックサックを用意しましょう。宿利用ならば15~25Lぐらい、野宿をするなら40~60Lほどの大きさが基準になりますが、それぞれ必要な荷物に合わせて調整するのがおすすめです。荷物の割にリュックサックが大き過ぎると、中の荷物が左右に振れて歩きにくいです。

お遍路の道中での不測の事態に備えて傷薬やバンドエイドなども持参しておくと安心でしょう。また、予定より時間が遅れて、暗闇の中を歩く場合もありますから、ヘッドライトがあると便利です。

歩き遍路に便利な地図

歩き遍路に便利な地図も持つようにしましょう。スマホが普及している現在、インターネットで地図情報が得られるようになっていますが、お遍路に必要な情報がインターネットで得られるとは限りません。

お遍路に特化した地図や情報が豊富に掲載されているのが、一般社団法人へんろみち保存協力会が発行している「黄色い地図」です。お遍路さんたちにとってのバイブル的な冊子として知られ、お遍路に必要な道案内はもとより、飲食店や宿、史跡の情報など、お遍路の旅路に必要な情報が満載です。

札所での参拝の手順

お遍路では88ヶ所の札所を回ることになりますが、次のような手順で参拝します。札所への参拝ができる時間は7時~17時までで、手順通りに参拝すると30~40分ほどかかりますから、余裕を持った時間にしましょう。

山門で一礼してから入る

まず最初に山門の前で合掌し、一礼してから境内に入ります。境内は神聖な場所であり「これからお参りさせていただきます」という気持ちを込めるのがポイントです。

身を清める

手洗所で手を洗い、口をそそぐことで身を清めます。これらの手順には、身体の内側と外側の両方を清める意味があります。左手、右手の順に水をかけ、左手で水を取って口をすすぎましょう。最後に残りの水をひしゃくの柄に流して清めてください。身を清めることで、雑念が消えて参拝に集中できるようになります。

鐘楼堂での鐘打ち

鐘打ちは参拝前の合図になります。鐘打ちには、俗世間での煩悩を振り払う効果もあります。

本堂での納札・灯明・線香・浄財

納札を本堂に設置されている納札箱に納めます。納札にはあらかじめ名前や日付、住所などを書いておきます。次いで、ろうそくに火をつける「灯明」を行ない、線香もあげるようにします。灯明が1本、線香が3本です。

本堂での納経

本堂でお賽銭を入れた後、合掌礼拝し、経本を手に取って読経することで納経します。

大師堂での参拝

本堂で行なった納札・灯明・線香・浄財・納経を大師堂でもう一度繰り返します。

納経所で納経受付

納経所に行き、納経の証として納経帳にご朱印をいただきます。

門前で合掌して一礼する

門前で合掌、一礼します。以上の正しい手順を守りつつ、感謝の気持ちを持って参拝するようにしましょう。

お遍路での宿泊先

お遍路での宿泊先として、次のような種類があります。予算や目的に合わせて宿泊先を選びましょう。

遍路宿・民宿

お遍路で行く四国には、観光客があまり行かないような場所でも遍路道沿いには、お遍路さん向けの民宿が営業していて「遍路宿」とも呼ばれています。遍路宿では、宿主や同宿しているお遍路経験者たちからアドバイスを受けられることがあります。経験者からのアドバイスは貴重であり、自分のお遍路に活かせるでしょう。

小規模経営ならではの行き届いたお遍路さん向けの細やかなサービスを受けられることはもちろん、お接待文化の拠点になっているのも遍路宿の特徴です。

ゲストハウス

ゲストハウスでは必要最小限のサービスしか受けられないものの、安い料金で宿泊できるのが魅力です。古民家や商店だった店舗を改装してゲストハウスにしていることもあり、お遍路の旅を楽しくしてくれるでしょう。

宿坊

お寺が運営しているのが「宿坊」と呼ばれる宿泊施設です。昔の宿坊では参拝者、檀家さん、お遍路さんなどがお寺の大部屋やお堂の一部で雑魚寝していたのが一般的でした。現在では宿泊事情の変化に合わせて、個室を備えた旅館のような営業形態になっている宿防が主流になっています。

しかし、宿泊者数の減少などの理由により、札所であるお寺の中でも宿防を営業しているのはわずかに15ヶ所ほどまで減っています。お寺によっては、朝の勤行に参加できるなど、お寺ならではの体験が可能です。

四国霊場の種類

お遍路が行なわれる四国には次のように、弘法大師が修行した聖地や霊場と呼ばれる札所が多数あります。

四国八十八ヶ所霊場

現在でも最も多くのお遍路さんたちに巡礼されている四国霊場が「四国八十八ヶ所霊場巡礼」です。徳島県から高知県、愛媛県、香川県と四国全域に時計回りに88ヶ所の霊場と呼ばれる札所が設置されています。

すべての札所を巡り終えることは結願と呼ばれ、四国八十八ヶ所霊場で最初の札所に戻って参拝をすると円循環が完成する世界でも珍しいタイプの回遊型巡礼路になっているのが特徴です。

四国別格二十霊場

88ヶ所以外の霊場は「番外霊場」と呼ばれています。「四国別格二十霊場」は、番外霊場の中から20の霊場が集まって1968年に創設されました。88ヶ所の霊場と合わせると108もの霊場となり、巡礼対象になっています。

四国八十八ヶ所霊場奥の院

四国八十八ヶ所霊場のうち、いくつかの札所には「奥の院」が存在しています。奥の院は札所の起源を示すと共に、四国遍路がどのような歴史を辿ってきたかの痕跡も残されています。

高野山

弘法大師が開山した聖地高野山では、弘法大師が今も瞑想を続けていると言われています。四国霊場の巡礼を終えたお遍路さんたちは高野山を訪れる風習があります。高野山には弘法大師も辿ったとされる巡礼路「町石道」が今も残っていて、国内外から巡礼者や観光客が数多く訪れるほどです。

お遍路の参拝でやってはいけないこと

お遍路の参拝では、次のことをやってはいけないとされています。

左側通行を守らないこと

札所の境内では必ず左側通行になっていますから、それを必ず守りましょう。

手を打つこと

お遍路で参拝するときに、手を打ってはいけません。神社ならば「柏手を打つ」と言うように、手を叩いて参拝しますが、札所であるお寺では「手を合わせる」ことに意味があり、手は叩かないのが決まりです。

ひしゃくに口をつける

手洗所で身を清める際には、ひしゃくに口をつけてはいけません。人の口や息は邪悪なものだと考えられているため、水で口をすすぐ場合にも、ひしゃくに口をつけないのが正しい作法とされているからです。

他人が口をつけたひしゃくを使いたくないと考えるのが普通の心理ですから、マナーの問題とも言えます。

火でやってはいけないこと

火に関しては、次のことをやらないように注意しましょう。

もらい火をすること

他人のローソクから火をもらうことは「もらい火」と言って、他人の悪縁や災いも一緒にもらってしまうことになるので、避けるべきこととされています。また、火を息で吹き消すこともやってはいけません。

ろうそくや線香を手前に置く

ろうそくや線香を手前に置いてはいけません。札所の本堂では、ろうそく1本と線香3本を立てますが、手前に置かないように注意しましょう。手前に置くと、後から参拝に来た人が奥の方にろうそくや線香を置くときに火傷する危険があるからです。ろうそくや線香は必ず奥から先に置くようにしてください。

帽子のマナーを守らないこと

札所では菅笠以外の帽子を脱ぐのがマナーです。菅笠は正装なので問題ないですが、帽子は失礼に当たります。

鐘についてやってはいけないこと

鐘について、次のことをやってはいけません。

帰り際に鐘を打つこと

鐘を打つのは参拝に訪れたことの合図であり、参拝前に打つのが正しいタイミングです。ゆっくりと2回打ち、時間帯としては朝7時から午後5時までです。早朝や深夜に鐘を打つと、近所迷惑になるので避けましょう。

帰り際に鐘を打ってはいけません。「戻り鐘」と呼ばれ、それまで積んだ功徳が消える縁起の悪い行為とされているからです。もし、鐘を打つのを忘れたなら、そのまま打たずに帰るか、始めからやり直すことになります。

大きな音を立てること

鐘を打つときは大きな音を立ててはいけません。鐘は仏様に届けるために打つものであり、必要以上に大きな音は必要ないだけでなく、近所迷惑にもなりますから避けましょう。

お賽銭についてやってはいけないこと

お賽銭について、次のことをやってはいけません。

お賽銭を投げ入れる

お賽銭を投げ入れてはいけません。お賽銭をぞんざいに扱っていることになり、仏様にも失礼です。お賽銭箱に近づいて、そっと静かに入れるようにしましょう。

お賽銭なしの参拝

お賽銭の金額についての決まりはありませんが、お賽銭なしの参拝はいけません。お賽銭は気持ちで入れるものですから、お賽銭なしだと、仏様に対する感謝の気持ちがゼロだということになるからです。金額には決まりがないとはいえ、10円玉は「とおえん」「遠い縁」とも読め、あまり縁起が良くありません。

納札についてやってはいけないこと

納札について、次のことをやってはいけません。

個人情報を必要以上に詳しく書くこと

納め札には名前、住所、願い事を書く欄がありますが、個人情報を特定できる部分について、あまりにも詳しく書くのはやめた方がいいでしょう。名前や住所を詳しく書いてしまうと、ストーカー被害につながる危険がありますから、名前なら苗字だけ、住所は市町村程度までにとどめるのがおすすめです。

住所以外にも電話番号やメールアドレスまで書く人がいますが、個人情報がわかることは最小限にすべきです。

色の違うお札を使うこと

納札の色は札所を巡った回数によって違います。1~4回なら白色、5~7回なら緑色、8~24回なら赤色、25~49回なら銀色、50~99回なら金色、100回以上ならカラフル模様の錦というように決められています。

自分が実際に巡礼した以上の回数の色を使う人がいますが、それはNG行為です。

お札収め箱を漁って納札を持ち帰ること

お賽銭箱の隣にあるお札収め箱から他人の納札を持ち帰ってはいけません。錦、金、銀などの納札を欲しがる人がいますが、それらは他人が仏様やお大師様にお供えしているものですから、勝手に持ち帰るのはNGです。

納経帳を先に出すこと

納経帳を先に出してはいけません。納経帳は読経をした後に、お経を収めた証として書いてもらうものなので、読経をする前に出したのでは順番が違います。納経帳の意味を知っていれば、読経後に出すのが当たり前なのがわかるでしょう。必ず読経後に納経帳を出すという順番を間違えないようにしましょう。

金剛杖でやってはいけないこと

金剛杖について、次のことをやってはいけません。

金剛杖の上部を握ること

金剛杖の上部を握ってはいけません。金剛杖の上部のカクカクしたところにある卒塔婆(そとば)は仏様のお身体を示していますので、そこは握らないようにしてください。金剛杖を購入すると、卒塔婆を覆っているカバーがついていますから、そのカバーの下あたりを握るようにしましょう。

橋の上で金剛杖を突くこと

橋の上で金剛杖を突いてはいけません。その理由として伝えられているのが弘法大師が四国を巡礼中に日暮れを迎えたときの話です。周囲には田園しかなく、宿泊場所が見当たらなかったため、弘法大師は仕方なく小川に架かる橋の下で一夜を過ごすことにしましたが、暗く長い一夜が十夜にも感じたそうです。

そこで、弘法大師は「行き悩む浮世の人を渡さずば、一夜も十夜の橋とおもほゆ」という歌を詠んだと言われています。この言い伝えが元になって、お遍路ではお大師様が安眠できるように橋の上で金剛杖を突かないことが風習となりました。現在でも、その風習が生きていて、橋の上での注意事項として語り継がれています。

トイレに持ち込むこと

金剛杖や輪袈裟をトイレに持ち込んではいけません。トイレは不浄な場所であり、神聖な金剛杖や輪袈裟を持ち込むのは間違っているとされています。トイレを使用するときは輪袈裟を外して同行者に預けるか、それが無理なら最低でも、カバンに入れて外から見えないようにしましょう。

水で清めないこと

宿泊先に到着したなら、まずやるべきことが金剛杖を水で清めることです。金剛杖は弘法大師の化身と言われるほど神聖なものですから、弘法大師を大切にする意識を持つためにも、必ず水で清める必要があります。

雑に扱うこと

金剛杖は弘法大師の化身であるため、決して雑に扱ってはいけません。地面を引きずったり、刃物を当てるなどのように、金剛杖を傷つける可能性があることは避けましょう。また、弘法大師をリスペクトするためにも、決して足を向けて寝ないことも重要なポイントです。

靴選びでやってはいけないこと

お遍路では毎日、かなりの距離を歩きますから、靴選びが重要になります。もともと履き慣れた靴があるなら、その靴を使うのがおすすめですが、新たに購入するなら次のような選び方をしてはいけません。

フィツトしていない靴を選ぶこと

歩き遍路では特に長距離を歩きます。多くのお遍路さんたちが使用しているのが歩きやすいランニングシューズやトレッキングシューズ、登山靴などですが、フィット感が合わない靴を選んではいけません。フィット感が悪い靴で長距離を歩くと、すぐに疲れてしまいますし、ケガの原因にもなります。

サイズそのものが合っているようでも、靴幅や高さが合っていないとフィット感が悪くなります。靴を購入する際にはネットではなく、直接靴屋やスポーツ店で購入するのかおすすめです。

実際に履いてみて、フィット感を確認してから購入しましょう。

重過ぎる靴を選ぶこと

重過ぎる靴を選ぶと疲れやすいので避けた方が無難です。フィット感が良くても、履いてみて重いと感じたら、もっと軽い靴にした方がいいでしょう。普段履きであれば、重さがそれほど気にならなくても、お遍路の巡礼のように長時間歩く場合には重過ぎることが大きくマイナスになります。

特に、体力に自信がない人はできるだけ重量が軽い靴を選ぶのがおすすめです。

お接待でやってはいけないこと

お接待では、次のことをやってはいけません。

お接待を断ること

お遍路の旅の途中で地元の人たちからお茶やお菓子をもらえる「お接待」を受けることがありますが、断らないのが礼儀だとされています。地元の人たちは、お遍路で札所を巡る旅が過酷なことを知っているので、応援する気持ちからお接待をしています。お遍路には1人で歩いていても、常に弘法大師と一緒であるという「同行二人」という考え方があり、お接待は弘法大師に対するお供えとしての意味もありますから、断ってはいけません。

お接待を当たり前だと思うこと

お接待を受けることを当たり前だと思ってはいけません。お接待はあくまでも地元の人たちの善意によるものであり、決して義務なわけではないからです。もしも、お遍路さんたちがお接待を受けることを当たり前だと思う傲慢な気持ちになるようだと、お接待という文化が次第に廃れていくかもしれません。

お接待の文化を後世に残すためにも、地元の人たちに感謝の気持ちを持ち、必ずお礼を言うようにしましょう。

お接待の返礼として渡す納札に願い事を書くこと

88ヶ所ある札所の本堂・大師堂で納める2枚の他、お接待をしてくれた人に返礼として納札を渡すのがお遍路のマナーですが、返礼の納札に願い事を書いてはいけません。仏様や弘法大師なら、お遍路さんの願い事を叶えてくれる力があるでしょうが、お接待をしてくれる地元の人たちにはその力がないのが当たり前だからです。

普通の人間である地元の人たちに札所でのように願い事をするのは、大きな負担にもなり、場合によっては失礼に当たります。お接待の返礼としての納札には願い事を書かずに渡しましょう。

十善戒(じゅうぜんかい)を破ること

十善戒はお遍路の行動規範として作られたものです。お遍路中に十善戒が守られているかに注意しましょう。

不殺生(ふせっしょう)

生きているもの、すべての命を大切にするのが「不殺生」です。生きているものとは人間だけを意味しているのではなく、動物も植物も含めた広い概念です。いくら人間の命を大切にしても、動物や植物の命を軽んじているのでは、十善戒を破ることになります。動物にも植物にも命や感情があることを意識しましょう。

不偸盗(ふちゅうとう)

物を盗まず、他人のものを大事に扱わないといけないという考え方が「不偸盗」です。物を盗むことは道徳的にやってはいけないだけでなく、立派な犯罪ですから絶対にやってはいけません。

不邪淫(ふじゃいん)

性は尊いものであり、節度をもって性を考えるのが「不邪淫」です。子供を産んで育てることで持続させていく人間社会では性を避けて通れないものの、快楽のために性を乱用してはいけません。

不妄語(ふもうご)

嘘、偽りは言わず、真実を話すことを心掛けるのが「不妄語」です。今も昔も世の中は嘘で溢れているのが現実です。しかし、その現実に流されることなく、真実を話すことがお遍路を通じて成長することにつながります。

不綺語(ふきご)

虚飾の言葉は話さず、飾らない本当の言葉で話すのが「不綺語」という考え方です。虚飾の言葉で話す人間が多い世の中だからこそ、飾らない言葉が輝きます。もともとは俗世間にまみれて虚飾の言葉を話していたような人でも、お遍路の修行を重ねることで、飾らない本当の言葉で話せるようになるでしょう。

不悪口(ふあっく)

悪口は言わず、相手を思いやる言葉で話をしなさいというのが「不悪口」の考え方です。よほどの聖人君子でもない限り悪口を言わないことはないとしても、相手を思いやる気持ちになれば、自然と悪口が出なくなります。

不両舌(ふりょうぜつ)

どの人に対しても、二枚舌を使わず、温かな気持ちで話しなさいというのが「不両舌」の考え方です。自分では二枚舌であることを隠しているつもりでも、案外簡単にバレてしまいます。他人に対して誠実な気持ちを持ち、温かな気持ちで話すようにすれば、二枚舌で話すことができなくなるでしょう。

不慳貪(ふけんどん)

強欲を張り、貪ることなく、感謝の気持ちで過ごしなさいというのが「不慳貪」の考え方です。人間は誰でも欲があり、特に金銭欲と名誉欲には限りがありません。しかし、だからこそ強欲を貪ることなく感謝の気持ちで過ごすことに価値があります。お遍路の修行を通じて自分ひとりの力で生きているのではなく、天や社会によって生かされていることに感謝できるようになるでしょう。お遍路は魂の修行としても意味があります。

不瞋恚(ふしんに)

怒りを抑え、心を落ち着けて、優しい気分で過ごすようにというのが「不瞋恚」という考え方です。人間は誰であっても怒りの感情を抑えられなくなることがありますが、そういうときこそ、心を落ち着けて優しい気持ちで過ごすことが人間的な成長につながります。お遍路の旅は怒りを抑えて心を落ち着ける修行にもなります。

不邪見(ふじゃけん)

邪な間違った考えを捨て、どの人にも平穏な気分で接しなさいというのが「不邪見」という考え方です。邪な考えを持つことは人間の心を歪ませて、間違った行動につながる危険があります。お遍路で札所を巡る過酷な修行を積むことが邪な心を浄化して、本来の平穏な気持ちを取り戻してくれるでしょう。

移動手段でやってはいけないこと

お遍路では、さまざまな移動手段がありますが、次のようなことをやってはいけません。

歩き遍路でやってはいけないこと

歩き遍路では、次のようなことをやってはいけません。

無理なスケジュールを組むこと

歩き遍路は平均して1日20~30kmも歩く過酷な旅になりますから、無理なスケジュールを組まないように注意が必要です。ほとんどの道路が舗装されている現在は江戸時代のお遍路に比べて歩きやすいとはいえ、山に入った遍路道になればアップダウンが激しく、思ったほどのペースを維持できない可能性が高いです。

体力に余力がある旅の序盤に大きく距離を稼ぐようなスケジュールを組んでしまうと、後半になるほどスタミナが切れて苦しくなります。お遍路は40~60日にも及ぶ長期間の旅なだけに余裕を持った計画にしましょう。

季節選びを間違えること

季節選びを間違えることも歩き遍路では大きなマイナスになります。道路事情が良くなっている点では江戸時代よりも楽になっているとはいえ、現代の夏の猛暑は江戸時代とは比較になりません。

冬にしても、雪が降る中で歩き続けるのは危険と隣り合わせですから、夏と冬のお遍路は避けた方がいいです。特に体力に自信がない人やお遍路が初めての人ほど夏と冬のお遍路は余計にきつくなります。

どうしても夏や冬の季節を選ぶのであれば、熱中症対策と防寒対策をしっかりする必要があります。

車(バイク)遍路でやってはいけないこと

車やバイクを使ったお遍路は歩き遍路に比べて格段に距離を稼げますが、免許を取って間もない人の場合は運転レベルが上達するまでは、お遍路に出ない方がいいでしょう。江戸時代と違って現代の道路はほとんど舗装済みなので、一見問題なさそうに思えるものの、お遍路の道は舗装されていない悪路も少なくないからです。

舗装されていても、対向車とすれ違うのも難しいほど狭い道もありますし、舗装されていない山道などでは予期しないトラブルが起きる可能性もあります。できるだけ運転技術が向上してから挑戦するようにしましょう。

宿泊先でやってはいけないこと

お遍路の宿泊先では、次のようなことをやってはいけません。

長期的な宿泊予約をすること

特に歩き遍路では事前に立てた計画した通りに進めない状況が少なからず発生しますから、長期的な宿泊予約をすると後で困る可能性があります。途中のアクシデントで一度でも計画が狂うと、全体計画を変更する必要が出てくるのに対して、長期的な宿泊予約をしてしまうとキャンセル手続きなどが大変です。

宿泊予約はある程度確実に予測が立つところまでに抑えた方が安全です。宿泊予約をキャンセルしたり、変更の必要になった場合には、できるだけ早く連絡して状況を説明しましょう。

状況確認をしないこと

お遍路の旅は歩き遍路を始めとして、長期間に及びますから、宿泊先の状況を確認する必要があります。状況の確認が甘いと、宿泊予約が取れないトラブルに見舞われる可能性があります。

お遍路さんがよく利用する小規模運営の遍路宿などは春と秋だけの営業だったり、定休日が不定期だったりするので、イレギュラーな運営状況を常に確認しておきましょう。

また、宿泊施設の経営者の高齢化により廃業していることもありますから、事前のチェックが欠かせません。

無料宿や野宿でやってはいけないこと

お遍路さんの中には宿泊施設を利用せずに野宿する人も少なくありません。過去の歴史を見ても、野宿の巡礼者が多かったため、お寺の通夜堂や遍路小屋、善根宿など、お遍路さんのための無料の宿泊場所があり、今でも残るお接待文化として活用されています。野宿でのお遍路には、宿泊費用がかからないメリットもあります。

野宿しているお遍路さんたちが困らないようにと、お寺や地元の有志により運営されている無料宿ですが、近年では利用者のマナーが悪いことが問題になって閉鎖されてしまう例が少なくありません。野宿でお遍路の旅を続ける場合には、無料宿でのマナーを守り、感謝の気持ちを持って利用する必要があります。

無料宿を利用しない完全な野宿をする場合でも、公園や公共的な場所のように野宿が禁止されている場所では避けるようにしましょう。管理者がいる場所で野宿する場合には、必ず管理者の許可を取るのが原則です。

一般常識やマナーとしてやってはいけないこと

お遍路でも、次のような一般常識やマナー違反をしてはいけません。

タバコやペットボトルのポイ捨て

タバコやペットボトルのポイ捨てなどは絶対にやってはいけません、お遍路とは関係なくやってはいけないことですが、修行として行なっているお遍路でのポイ捨ては余計に悪質です。

タバコを吸う場合でも、必ずタバコを吸える場所に限定すること、火を必ず消す必要があります。間違って火がついたまま捨てて火災にでもなったら大変です。タバコの不始末には特に注意しましょう。

落書きなどの迷惑行為

88ヶ所の札所を巡るお遍路の旅では、境内などへの落書きなどの迷惑行為も問題になっています。お遍路の記念にぐらいの軽い気持ちで落書きするのかもしれませんが、絶対にやってはいけないNG行為です。

一般社会のどこであっても落書きはやってはいけないことですが、札所である霊場は神聖な場所であり、絶対に落書きで汚してはいけません。落書きをするような人はお遍路をする資格がないと言えるでしょう。

大声で騒ぐ行為

お遍路さんたちが宿泊施設で知り合って、大声で騒ぐような迷惑行為も絶対にやってはいけません。宿泊施設はもちろん、野宿する場合でも、近隣の迷惑になる行為は避けてください。大声で騒いでいると、住民とトラブルになったり、警察を呼ばれて注意されることもあります。

休憩所を汚す行為

お遍路さんのために無料で開放されている休憩所を汚すことも絶対にやってはいけません。地元の有志によって運営されているのが休憩所ですから、お遍路さんに汚されるような悪質行為が増えていけば、せっかくの休憩所も閉鎖される可能性があります。実際、やむを得ず閉鎖に至っている例もありますから、それぞれのお遍路さんが自覚して、清潔に休憩所を利用するように意識しましょう。

おわりに

四国に点在している札所88ヶ所を巡るお遍路の旅は精神的な修行になるだけでなく、ご利益にもあやかれることから、団体ツアーが組まれるほどの人気があります。しかし、いくら団体ツアーで注目されていても、お遍路の本質を味わうためには、自分の足で進む歩き遍路がおすすめです。

自転車でのお遍路、車やバイクを活用したお遍路ならば、時間を大幅に短縮できて、お遍路と観光を両立できるメリットもあります。江戸時代などと比べて道路事情が大幅に改善していることが快適にお遍路の旅をしやすくなった理由のひとつですが、山道などはまだまだ車やバイクで走りにくい場所が多いです。車やバイクで札所巡りをするなら、免許取り立ての人は避けた方がいいでしょう。

お遍路でやってはいけないことをしたとしても、法律による罰則があるわけではありません。やってはいけないことを自制できるかどうかはお遍路の旅をする個々人の意識にかかっています。これからも後世にお遍路文化を残すためにも、マナーを守り、感謝の気持ちを持ってお遍路巡礼の旅をするのがおすすめです。

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