「最近、体調がすぐれない日が多い」「気分が上がらない日が続く」「今まで楽しいと思っていたことに楽しさを感じなくなった」など、現代社会では心身の不調を感じる人も多いと思います。
明らかに不調を感じるため心療内科で診察してもらったものの、「病気ではない」と診断されるケースもあるようです。
こちらの記事では、心療内科で「病気じゃない」と言われたとき、どうすべきか? その対処法や体験談をご紹介します。
「臨床心理士&公認心理師」として、国立病院や精神障害者デイケア施設、スクールカウンセラー、発達障害者就労支援センター、障害者就労移行支援事業所、療育の現場で「心の専門家」として20年勤務してきました。今までのべ2000人以上の方のこころの相談を受けてきました。日々のカウンセリングの中で得た発見や知識を体系的にお伝えしていければと思っております。「相談が終わったときには、来てくださった人が笑顔になるようなカウンセリング」を心がけて日々相談に乗るようにしています。
心療内科で病気ではないと診断されても、問題はあることが多い
明らかな不調があり、勇気を出して受診したのにもかかわらず、異常がないと言われてしまうと「やっぱりそうなのかな」「甘えなのかな」と自分を責めてしまったり、つらい症状を我慢し続けてしまったりする方もいるのではないかと思います。
しかし、つらい症状や気持ちを「気のせいだったのかもしれない」と閉じ込めてしまうのは危険です。
「つらい」と感じたことや悩んでいるということは事実です。
病気ではないと診断された=元気である、ということではないでしょう。
病気ではないと診断された事実だけを強く受け止めるのではなく、自分が感じた症状や気持ちをないがしろにしないことが大切です。
心療内科で病気じゃないと言われたとき、どうするべき?
不調を感じたり、その不調により仕事や人間関係にも支障が出始めたりしているとき。仕事を休みたいと思っていても、病院で「病気じゃない」と診断されると、休むことも難しくなってしまいますよね。
では、心療内科で病気ではないと診断されたとき、どうするのが良いのでしょうか?
別の専門家の意見を求める
明らかに調子が悪いのに、異常がないと診断された場合、他の病院を受診してみるのも良いといえます。
心の不調は数値などで判断するのが難しく、また、気分に波がある場合は特に、受診した日はたまたま元気そうに見える状態だったということもあり得るのです。
また、病院によって治療方針が異なることや、医師との相性の良しあしもあります。
たまたまその病院や先生が自分には合わなかったというだけかもしれません。
何より、自分自身が「何かがおかしい」と感じたまま過ごし続けることも、心身にとってよくありません。安心して生活するためにも、これ以上悪化させないためにも、別の病院を受診してみましょう。
初診では診断をくださないこともある
心療内科の初診は問診がメインで、30〜40分間、時間をかけて話をすることが多いです。それは症状を確認し、また医師と患者の信頼関係を構築する大切な時間でもあります。
すぐに判断するのが難しい場合、初診で診断をくださないこともあります。
また、経過を踏まえ、初診での診断を変更するケースもあります。
そのため、初診で「異常なし」と言われても、経過を見ていく中で変わることもあるのです。
心の病気においても早期発見が重要です。しかし、心の病気は心身どちらの症状もあるため、病名の判断は容易ではありません。
心の病気に見えて実は別の病気だったという場合もあるため、慎重に診断する必要があるのです。
一度目の診断で異常がないと言われても、やはりおかしいと感じる場合には同じ病院をもう一度受診して、経過を伝えてみるのも良いでしょう。
うつ状態とうつ病は違う
気分が数日間落ち込んでいる時、あなたはどう感じますか?
そのような状態を「うつ状態」と言います。心療内科や精神科で診てもらっても、「うつ状態」としか診断されないことが多いのです。
「うつ状態」とは文字通り「状態」を指し、病気とは異なります。そのため、「病気ではない」との診断を受けることも少なくありません。
しかし、2週間以上気分の落ち込みや不眠、食欲の低下が続いている場合、その状態は「うつ病」と疑われることが増えてきます。実は、「うつ病」という診断は、これらの症状が2週間以上続いた場合に初めてつけられるものなのです。診断の基準としては、DSM-ⅤやICDー11という専門の参考図書が存在します。
短期間の不眠や食欲不振、気分の落ち込みだけで「うつ病」と診断されることはありません。しかし、自分の体や心の変化に気付き、適切な時期に専門家の意見を求めることが大切です。
落ち着いて受診する
心療内科を初めて受診する場合、「うまく症状を伝えられるだろうか」「医師に分かってもらえるのだろうか」という不安から緊張してしまったという人も多いのではないでしょうか。
全てのことをうまく話そうとしなくても大丈夫。
緊張しそうだという方やうまく話せるか不安を感じている方は、「どんなタイミングで、どんな症状が出るのか」「何に困っているのか」など、自覚している症状を記録しておくと安心です。
初診では緊張してうまく話せなかったという方は、安心して受診できるよう前もって準備しておきましょう。
また、リラックスした状態で臨めるよう、着心地の良い服を着ていくなどの方法もおすすめです。
信頼できる医師を見つける
上述した通り、心療内科での問診は症状を確認するだけでなく、医師と患者の信頼関係を構築するという目的もあります。
そのため、回復に向かう上で医師との信頼関係は非常に重要であるといえます。
心の病気でなくても、信頼関係が築けていない医師に診てもらうのは怖いですよね。
いくつかの病院を受診して、信頼できると感じた病院で診てもらうのも一つの方法です。
仮面うつの可能性
体の症状を診てもらっても「異常なし」と診断されるケースは少なくありません。このような場合、精神症状よりも身体症状の方が強く出ている「仮面うつ」の可能性が考えられます。疲れやすさや体のだるさ、頭痛や肩こりなどの身体症状が続いて、次第に「なんだかつらい」という精神症状を感じるようになります。
身体症状だけで「うつ病」と気づくのは難しいことがあります。そのため、症状を我慢せず、早めに専門家に相談することが大切です。特に、年齢によっては更年期障害や婦人科系の疾患、若年性の認知症など、他の疾患の可能性も考えられます。
もし体を診る病院で「異常なし」と診断された場合、その後に「仮面うつ」を疑ってみるのも一つの方法です。症状が出ている時期やタイミングをしっかり記録して、専門家に詳しく伝えることで、より適切な診断やアドバイスを受けることができるでしょう。
特に「仮面うつ」の場合、認知症や更年期障害、婦人科関連の疾患など、器質的な疾患がないかを先に診ていただく必要があります。体の疾患から気持ちが沈んでしまっていたり、体に症状が出ているのが精神疾患とは限りません。ですので、先に体の状態を診ていただくことが先で、そこで「異常なし」となったら心療内科へ、という順番になります。
発達障害の可能性
「うつ病」との診断が下されなかったとしても、気分の落ち込みや焦燥感などの背後には「発達障害」の可能性があるかもしれません。
例えば、仕事でのミスが多い、2つのことを同時に行うのが難しい、コミュニケーションのズレからのストレスなど、これらの症状が見られる場合、発達障害を診てもらう専門の精神科への受診を検討する価値があります。
実際に私が診察していたケースで、ある患者さんは最初「気分変調症」として診断されました。しかし、投薬治療による症状の改善は見られず、後に別の病院で「発達障害」との診断が下されました。このように、症状や診断名には個人の体験や背景が深く関わっていることを理解することが重要です。
心気症(病気不安症)の可能性も
心気症、現在では「病気不安症」として知られるこの疾患は、医学的な診察や検査で明確な身体の疾患が確認されないにも関わらず、自身が深刻な病気にかかっているのではないかという強い不安や思い込みに取り囲まれることを特徴とします。
一般的な症状としては、体に何らかの異常があるとの確信を持ち、様々な医療機関を受診するも「異常なし」との診断を受けるケースが多く見られます。
この疾患には、通常の治療薬を出すことはありません。
もしこのような症状が見られる場合、精神的なサポートやカウンセリングを受けることを強くおすすめします。
医師としての薬の処方は限られており、主に抗不安薬が考慮されることが多いですが、心療内科だけでなく、適切なカウンセリングやサポートを受けることが、この疾患の対処には最も効果的であると言われています。
一度の受診で諦めない
はっきりと異常がないと言われたり、「気分の問題」「甘えだ」というような強い言葉で話されたりすると、病院に行くこと自体が嫌になったり、別の病院でも理解してもらえなかったらどうしようと不安になったりすることもあると思います。
しかし、最初に行った病院が全てではありません。
強い言葉に傷ついたという方も、「そういう先生もいるのだ」と割り切って、別の方法を探しましょう。
大切なのは、そこで立ち止まって症状を悪化させてしまうことではなく、周囲のサポートを受けながら回復するために進んでいくことです。
一人で抱え込まないことが大切
心身の不調は、誰にでも気軽に話せることではありません。
その上、病院で病気ではないと診断された場合、より一層相談しづらくなるでしょう。
しかし「誰にも分かってもらえない」と心を閉ざし、一人で抱え込むことは大変危険です。
一人で抱え込み、悩み続けることで症状がより悪化してしまう可能性もあります。
家族や友人など心を許している人に相談しつつ、別の病院に行ってみるなど、周りの人に相談して頼りながら考えましょう。
もしかすると、相談した相手がいい病院を紹介してくれたり、適切なアドバイスをくれたりするということもあるかもしれません。
相談窓口のサポートを受ける
不調の原因が仕事や会社にある場合、会社の産業医や社内の相談窓口などに相談するのも一つの方法です。
また、社内の人に知られたくない場合や、社外で相談したいという場合は、メンタルヘルス相談機関への相談を考えてみるのも良いといえます。
例えば、厚生労働省の「こころの耳」というポータルサイトには、さまざまな相談窓口の案内が掲載されています。
一人で悩まず、相談することで客観的な意見を取り入れ、問題解決に向けて一歩を踏み出すためのポータルサイトです。
「仕事」「ハラスメント」「生活」など、相談したい内容ごとに適切な窓口がまとめられています1。
もし不調や悩みの原因に心当たりがある方は、相談内容に合う窓口に相談してみるのもおすすめです。
症状を悪化させないためにできること
周囲の人や窓口に相談したり、さまざまな医療機関を受診したりする間、症状を悪化させないためにセルフケアをすることも大切です。
十分な睡眠をとることや気分転換をすること、バランスの良い食事をとること、体を動かすこと、生活を整えることなど、早期のセルフケアは重要だといえます。
また、誰かに相談する気力がないという方もセルフケアをすることにより、自発的な相談行動が増える可能性があるといわれています。
もし睡眠不足やバランスの良い食事がとれていないなど、自覚することがあれば、そこからケアしていくことが良い方向へ向かっていくためのカギになるでしょう。
心療内科で病気じゃないと言われたけど、別の病院に行ったら病気だった体験談
実際に心療内科を受診し、病気ではないと診断されたけど、別の病院で受診したら病気だったというケースもあります。その体験談をご紹介します。
私はずっと不安や憂鬱(ゆううつ)な気分に悩まされていました。仕事や人間関係にも支障が出ていたので、心療内科に行ってみることにしました。
そこで診察を受けた先生は、私の話を聞いて「あなたは病気ではない。ただの気分の問題だ。自分で気を持ち直せば治る」と言いました。薬も処方してくれませんでした。私はショックを受けました。自分ではどうにもならないのに、病気じゃないと言われてしまったのです。先生は私の苦しみを理解してくれなかったのだと思いました。
しばらくして、友人に相談したところ、別の心療内科を紹介してくれました。そこで診察を受けた先生は、私の話をじっくり聞いてくれました。そして、「あなたはうつ病です。病気として認められるものです。自分で治せるものではありません。薬やカウンセリングが必要です」と言ってくれました。薬を処方してくれるとともに、カウンセラーとの面談も取り付けてくれました。私は涙が出ました。やっと自分の状態が認められたのだと感じました。先生は私の苦しみを理解してくれたのだと思いました。
その後、薬やカウンセリングを続けて、少しずつ回復していきました。今では仕事や人間関係にも前向きに取り組めるようになりました。心療内科で病気じゃないと言われたことは、私にとってつらい経験でしたが、別の病院に行って良かったと思っています。
勇気を出して心療内科に行ってみたものの、「ただの気分の問題」と言われるとショックを受けますよね。
しかし、この方は友人に相談し、別の心療内科を受診することで回復に向かっています。
一人で抱え込まないことや、別の病院も受診してみることの重要性が伺えます。
もし同じような状況の方がいたら、こちらの体験談を参考に別の病院を受診してみるのが良いといえるでしょう。
おわりに
心療内科で「病気じゃない」と言われたとき、どうすべきか? その対処法や体験談をご紹介しました。
ストレスの多い現代社会では、心身の不調を感じている方も多いでしょう。
初診で異常がないと判断されても、何かがおかしいと感じる場合は、一人で抱え込んで我慢し続けず、周囲の人や相談窓口に相談したり、別の病院を受診したりしましょう。
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