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親切の効用

親切の効用

みなさんは最近,いつ何処で親切な行為をしましたか? 

電車やバスで人に席を譲るなどの相手の要望を聞く前に率先して動くことをしましたでしょうか。 

親切とは,自分以外の人に向けられた利益をもたらす行動であると定義されます。また親切はしばしば利益を得るためではなく,罪の意識を回避するために他の人を助けたいという願望から生じると考えられています。 

このように親切は何かしらの動機があって引き起こされると考えられており,今まで親切を対象に様々な実験と調査が行われていました。

親切をすることによって得られるメリットは何でしょうか。自分は親切をすることによって得られるのは人の温かみであったり、気分の改善であったり、精神的な充足が思い浮かびます。

例えば,駅で道に迷っている人から声をかけられ道を尋ねられた時に,「あっちのほうですよ」と方向性を示すだけでなく,目的地にたどり着くまで案内をしてあげる。

このような行動をしたときに,相手の方から感謝されること以外の,自分自身や親切な行為を受けた人にもさまざまな影響が及んでいるはずです。

親切がもたらすプラスの効果を調べた研究を見れば,精神的な充足だけでなく他にも多くの恩恵を受け取ることが可能であることが分かります。 

親切は人をより幸福にし(1)、心臓に良く(2)、人間関係を改善します(3)。 

「情けは人の為ならず」という諺があるように,人に情けをかけるとめぐりめぐって自分にいいことが返ってくると言いますが,親切は私たちが思っている以上に自分にプラスの効果があるのです。つまり私たちは親切をするだけでお釣りが出る位のメリットを受けているのです。このメリットは親切される側だけなく親切をする側に生じることが面白いところです。 

今回の記事では,親切がもたらす4つのポジティブな影響について述べていきます。前述した通り,親切は精神的,身体的な面の両面にメリットをもたらします。これは親切の本来の目的とは違うところでプラスの副作用をもたらします。 

そして最後に親切をすることの周りの人に対する波及効果について述べていきます。 

親切をすることはその行為自体で完結するのではなく,親切された人や行為を見た人に影響を与え,さらに親切な行為を呼びます。本記事を読めば,「情けは人の為ならず」と言う言葉があるように,人に情けをかけると巡り巡って本人が気づかないところで自分に良いことが返ってくることが理解できると思います。 

(1)Lyubomirsky, S., Tkach, C., & Sheldon, K. M. (2004). Pursuing sustained happiness through random acts of kindness and counting one’s blessings: Tests of two six-week interventions. Unpublished raw data.  
https://www.scirp.org/(S(351jmbntvnsjt1aadkposzje))/reference/ReferencesPapers.aspx?ReferenceID=671640) 

(2)The New Heart Health: Discover the Power of the Endothelium 
(https://www.abebooks.com/New-Heart-Health-Discover-Power-Endothelium/31016911513/bd

(3)Schnall, S., Roper, J., & Fessler, D. M. (2010). Elevation leads to altruistic behavior. Psychological science, 21(3), 315–320.  
(https://doi.org/10.1177/0956797609359882) 

親切のメカニズム

近年の研究では人間の社会的、協力的、または排他的行動に対して数多くの説明が心見られています。それらの理論は様々な状況下での家族や友達、そしてより大きいコミュニティーを援助する事に関して人間は喜びを抱くことが予測されています。 

過去の親切がもたらすポジティブな効果に関する489件の研究をまとめ分析した結果によると,その効果は性別や年齢人種にかかわらずプラスの効果が期待できる事を示しています(1)。具体的に親切な行動とはどのような行動を指すのでしょうか。愛や同情,感謝に関わる様々な親切が存在するとこの論文が述べられています。 

・ゴミを拾う 
・席を譲る 
・同僚を褒める 

今回の親切の効果に関する研究で対象には聞いたのは上記のような小さな行動です。特に注目されているのは親切を受けた側ではなく親切をした側が得られるポジティブな効果が近年になって明らかにされていることです。親切な行動の原点となるものは何なのでしょうか。この論文では他人に利益を施そうとすることだと述べられています。 

では一体どのような状況でどのような理由で他人に向社会的,協力的,愛他的な行動をするのでしょうか。 

・遺伝子的に近いものへの親切 

人間は社会的動物だと知られています。5000年前から社会的な集団を作ってその中で暮らしてきました(2)。人間がこのような社会的集団の中で過ごしてきた歴史が私たちの向社会的,協力的,愛他的な行動を形作ったと言っても過言ではないでしょう。京成初期から集団の中での生活は数多くのお互いに利益の伴う協調的な相互作用をする機会を提供したに違いありません。 

しかし初期で形作られた社会的な集団は今とは全く違うものだったと考えられます。おそらくその集団はほとんどが血の繋がった個体同士で形成されていたでしょうし、よく知り得ない個体がその集団の中に存在する事は稀であったと考えられます。 

ここから考えられるのは他人に対する親切な行為の根源にあるのは家族の成員に対する親切な行為だと言うことです。親切に関する理論でも遺伝子的に結びつきのつよい他者によってあいや過去、そして道場の形としての親切な行為が誘発されることが予測されています。それが子供であればより強くなるのです(3)。 

・自分が属する社会集団への親切 

自然選択は相互に利益を受ける形で自らが属する集団の成員と協力し、調和する傾向を好みます。 

自然を見ても集団集まって防衛することや協力して狩りをする事を目的としていることが多いです(4)。人間ではお互いに利益がある集団を維持したりお互いの利益を促進する行為として行われています。 

つまり同じアイデンティティーを持つ集団の成員によって新卒をする行動が促進されているとも考えられています(5)。 

・お返しとしての親切 

後々見返りがあるものに関して親切をする傾向があることがわかっています。これは自分をした事と手にすることの利益が釣り合うことを期待しているからと言えるでしょう。 

人間は時として見返りがなくても、また会う可能性がなくても親切をすることがわかっています。この見返りを期待した親切は同情や信頼,感謝や友情の表れだと説明されます。 

この親切は過去に会ったことがある相手や将来会う可能性があるものによって引き起こされます(6)。 

またこの親切は上記の2つの家族・所属する集団に対する親切とは異なり,見たことがない人に対する親切を含み,まだ知らない他者を自分と関連づける方法であるとも考えられています。 

競争的な親切 

親切には他者を攻撃したり、同胞を抑圧するものもあることがわかっています 。

多くの動物では自分の地位を保持するために身体的な衝突が生じることがありますが、人間をはじめとする一部の種では自分の周りの人間に利益のある,親切な行動をとることがあります。 

この親切が行われるのは自らの地位を向上させるためであり,また周りに利益をもたらすことによってその見返りを期待していると考えられています(7)。 

上記で述べた通り親切にも様々な形があることを述べてきました。それらの京都でのしてあげられるのは最終的に利益を求めていることです。個人としての利益や集団としての利益を期待できるからこそ新設をする価値がある情報と過去の研究は教えてくれています。 

では親切な行動することによって精神的な状態が変化したりはしないのでしょうか。親切をすることによっていい気分になる事は読者の皆さん経験があると思いますが,それが科学的に証明されていたりはしないのでしょうか。 

実際先行研究では親切と幸福感の間には関連があることがわかっています。 

また長期的にその効果を検討した研究ではボランティアをしていない人はボランティアをしている人よりも短命であること、またその関係は自分自身に対する援助ではなく他者を援助することによって成立することが確認されています(8)。 

ここからのセッションではより具体的にどのような状況でどのような相手に親切をすれば親切によるプラスの効果を得られるのかを説明していきたいと思います。 

(1) Curry, O. S., Rowland, L. A., Van Lissa, C. J., Zlotowitz, S., McAlaney, J., & Whitehouse, H. (2018). Happy to help? A systematic review and meta-analysis of the effects of performing acts of kindness on the well-being of the actor. Journal of Experimental Social Psychology, 76, 320-329. 
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022103117303451

(2) Shultz, S., Opie, C., & Atkinson, Q. D. (2011). Stepwise evolution of stable sociality in primates. Nature, 479(7372), 219–222.  
(http://www.nature.com/nature/journal/v479/n7372/abs/nature10601.html#supplementary-information.) 

(3) Platek, S. M., Burch, R. L., Panyavin, I. S., Wasserman, B. H., & Gallup, G. G., Jr. (2002). Reactions to children’s faces: Resemblance affects males more than females. Evolution and Human Behavior, 23(3), 159–166.  
https://doi.org/10.1016/S1090-5138(01)00094-0) 

(4) Balliet, D., Wu, J., & De Dreu, C. K. W. (2014). Ingroup favoritism in cooperation: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 140(6), 1556–1581.  
(http://dx.doi.org/10.1037/ a0037737.) 

(5) Whitehouse, H., & Lanman, J. A. (2014). The ties that bind us ritual, fusion, and identification. Current Anthropology, 55(6), 674–695.  
(http://dx.doi.org/10.1086/678698.) 

(6)Kraft-Todd, G., Yoeli, E., Bhanot, S., & Rand, D. (2015). Promoting cooperation in the field. Current Opinion in Behavioral Sciences, 3, 96–101.  
(http://dx.doi.org/10.1016/j. Cobeha.2015.02.006) 

(7) Gintis, H., Smith, E. A., & Bowles, S. (2001). Costly signaling and cooperation. Journal of Theoretical Biology, 213, 103–119.  
(http://dx.doi.org/10.1006/jtbi.2001.2406.) 

(8) Konrath, S., Fuhrel-Forbis, A., Lou, A., & Brown, S. (2012). Motives for volunteering are associated with mortality risk in older adults. Health Psychology, 31(1), 87–96.  
(http:// dx.doi.org/10.1037/a0025226.) 

幸福度が高まる

このセッションでは親切な行為をすることで,幸福感が高まることについて述べていきます。親切をすることで気分が良くなるのは誰でも日常的に経験したことがあると思います。 

その気分の高揚は今までの親切に関する科学的研究でも同じ結果が出されているといえます。 

前のセッションで取り上げた,2018年に過去に行われた「親切な行為の効果」に関するメタ分析でも,プラス効果があると示されています。

では具体的にはどのような実験で親切の効果が確認されたのでしょうか?

2004年にカルフォルニア大学リバーサイド校の心理学者ソニアらが行った研究では親切をすることが幸福感をどう変えるのかを調査しています(1)。 

実験参加者を無作為に2つのグループに分けました。
グループの内容は以下の通りです。 

<グループ1>
1週間に意図的に5つの親切を他人に知ってもらう 

<グループ2>
1週間の間,意図的に親切をしない 

実験参加者が具体的に行った親切な行為は献血や友達の宿題を手伝うこと,病気の親戚を訪ねるなどのさまざまでした。 

実験の結果,親切を行ったグループの実験参加者は親切を意図的に行なったグループよりも幸福感が高まっていました。 このように意図的に親切な行為を行なってもポジティブな影響を親切から得ることができるのです。

2008年にコロンビア大学のエリザベス・ダンらはお金と幸福度の関係について調査を行っています。 

収入と幸福度の関係は昔から調べられており,やはり収入が高いと幸福度も高い傾向があります。

しかし単純に収入が上がれば上がるほど,幸福度が高まるわけではありません。

幸福度が高まる上限が約750万円であるという結論になっている研究もあれば(2),約1,000万円であると結論付ける研究もあります(3)。また,収入と幸福度の関係には上限はなく,幸福度は収入が上がれば上がるほど,対数的に上がることを示すものもあります(4)。

なぜこのような違いが生まれてくるのでしょうか?

それは収入が多いこと以外にもお金が幸福度に与える影響があるはずですし,その影響も検討しなければならないと言うことです。

そこで今回の論文ではお金の使い方に焦点を当てています。

実験の対象になったのは46名でした。

実験参加者を無作為に2つのグループに分け,実験の当日の午前中にお金($5,$20)を渡し,その時の幸福度について回答したのち,お金を夕方までに使ってもらいました。グループの違いは以下の通りになっています。

<グループ1>
自分のためにお金を使う 

<グループ2>
他人のためにお金を使う 

そしてお金を使ってもらった1日の終わりに,電話で実験参加者の幸福度を尋ねました。

たったこのようなお金の使い方のみを指定した介入によって幸福度は変わったりするのでしょうか。

実験の結果,与えられた金額にかかわらず,自分のためよりも他人のためにお金を使った実験参加者がより幸福度が高くなっていた。 

この研究では632人に1ヵ月何の用途でお金を使ったのか記録してもらう調査も行っています。

その結果では,幸福度が高い人は自分のためよりも他人のためにお金を使うことが多い傾向にあることが示されています。

読者の皆様はこの実験や調査の結果を予測できましたでしょうか?

実際に,大学生109名に実験の手順の概要を説明し,自分のためにお金を使ってグループと他人のためにお金を使ったグループのどちらが幸福感が高まるのかを答えてもらっています。

その結果では,調査の対象となった大学生の半数以上が自分のためにお金を使った方が幸福感が高まるはずであると答えました。また金額の違いでは学生の3分の2以上が20ドルの方が5ドルよりも幸福感は高まるだろうと回答しています。

この結果から分かるようにお金の使い方が幸福感を高める,この実験の結果を予測する事は難しいと言えるでしょう。

自分のためと他人のための親切の決定的な違いは他者の存在があるかどうかです。 人間は社会的動物であり,他者との関わりを持つことで幸福感が得られるのだと論文では考察されています。

しかし,ここで疑問が残ります。

この実験では他人といっても様々で,友人の場合もあれば家族である場合もあります。他人といっても一概にそれを定義することができず,親切の対象がどの人物なのかによって得られるプラスの効果は変わってくるはずです。

具体的に誰に対して親切にすれば幸福度が高まるのでしょうか?

2016年のネルソンらの実験では,親切をする対象によって幸福感や感情に変化はあるのかどうかを調べました(5)。 実験の対象となったのは約500人で,実験参加者は無作為に4つのグループに分けられました。4つのグループの内容は以下の通りになっています。 

<グループ1>
赤の他人に親切をする 

<グループ2>
世間に対して親切をする 

<グループ3>
自分に対して親切をする 

<グループ4>
親切な行為は一切行わない 

実験の期間は6週間で実験の前後に実験参加者一人ひとりの心理的,感情的な満足度が質問紙で回答されていました。実験の結果,他人と世間に対して親切な行為をしたグループ1と2の実験参加者は他のグループに比べて幸福度が高まりました。自分に対グループ3に関しては幸福度に大きな変化はありませんでした。 

他の研究でも,ボランティアや他人に親切を行った人は幸福度が高く,自分の生活により満足していると回答する割合が高いことがわかっています。 

幸福度に大きな違いを生むのは人とのつながりが大きく,人間の幸福感の高低に関係があるからだと考えられています。

2015年にヨーク大学の心理学者であるモングレイン教授が思いやりが幸福感に与える影響について調査を行っています(6)。 

調査の対象になったのは719名で,調査対象者を無作為に2つのグループに分けられました。グループのとった行動の違いは以下の通りです。 

<グループ1>
1週間思いやりのある行動を行う 

<グループ2>
1週間思いやりのある行動行わない 

思いやりのある行動行うグループ1はホームレスの人に話しかけるなどの具体的な行為を行いました。 

実験開始時からの6ヶ月にわたって2週間思いやりのある行動行ったグループ1番幸福感と自尊心が高まると言う結果になりました。つまり思いやりのある行動と言う親切を行うことによって幸福感と自尊心が高まったのです。 

これらの研究に関連するところで感謝をすることで,幸福感が高まることも知られています。

2003年にカルフォルニア大学のエモンズらが行った調査によれば,不満を抱くよりも感謝の気持ちを持った方が幸福感が高くなることを示しています(7)。

実験の対象となったのは大人192名でした。実験参加者は無作為に3つのグループに分けられ,実験期間(10週間)の1週間ごとに1度,日常的な出来事について記録してもらいました。

3つのグループの違いは以下の通りです。

<グループ1>
5つの感謝できる出来事を記録する

<グループ2>
5つの不満を抱いた出来事を記録する

<グループ3>
5つの一般的な出来事を記録する

例えば,感謝できる出来事を5つ書き出すグループ1であれば,「気をきかせてくれた友人」,または「いつも支えてくれている両親」に対して感謝する事柄を書き出し,記録しました。

そして,実験期間の10週間後に,幸福度や感情面などの自分自身の状態についての質問紙に答えてもらい,グループ間ごとの評定の差異を比較しました。さて,実験期間の間の自分に関する,どんな出来事を記録するかの違いで,幸福度や感情面で変化は見られたのでしょうか?

実験の結果,実験期間に感謝した出来事を書き出していたグループ1は不満を感じた出来事について書き出したグループ2と比較して,幸福度が高くなり,生活する中でポジティブな感情を抱くことが多かった。

上記で取り上げた実験の結果から,親切な行動は自分自身の幸福度を高めることにつながり,周りに対しても幸福度や感情面においてプラスの影響を及ぼすことが分かったかと思います。

また最後に紹介した実験では,他人の親切などの自分自身が他人に対して感謝した出来事を書き出すだけでも幸福度などの面にプラスの効果があることを取り上げました。今1度周りに目を向けて,自分は周りの人からどのような親切を受けているのか書き出してみてください。

私たちには他者からの親切を過少に少なく見積もる傾向があるようで(8),実際に書き出してみることで予想より多くの親切を周りから受けていることに気づくはずです。

(1)Lyubomirsky, S., Tkach, C., & Sheldon, K. M. (2004). Pursuing sustained happiness through random acts of kindness and counting one’s blessings: Tests of two six-week interventions. Unpublished raw data.  
https://www.scirp.org/(S(351jmbntvnsjt1aadkposzje))/reference/ReferencesPapers.aspx?ReferenceID=671640) 

(1)Dunn, E., et al. (2008). Spending Money on Others Promotes Happiness. Science, 5870, 1687-1688. 
https://science.sciencemag.org/content/319/5870/1687.full

(2)Kahneman, D., & Deaton, A. (2010). High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proceedings of the national academy of sciences, 107(38), 16489-16493.
https://www.pnas.org/content/107/38/16489

(3)Jebb, A. T., Tay, L., Diener, E., & Oishi, S. (2018). Happiness, income satiation and turning points around the world. Nature human behaviour, 2(1), 33–38.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30980059/

(4)Killingsworth M. A. (2021). Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 118(4), e2016976118.
https://doi.org/10.1073/pnas.2016976118

(5)Nelson, S. K., Layous, K., Cole, S. W., & Lyubomirsky, S. (2016). Do unto others or treat yourself? The effects of prosocial and self-focused behavior on psychological flourishing. Emotion (Washington, D.C.)16(6), 850–861.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27100366/

(6)Mongrain, M., Chin, J. M., & Shapira, L. B. (2011). Practicing compassion increases happiness and self-esteem. Journal of Happiness Studies: An Interdisciplinary Forum on Subjective Well-Being, 12(6), 963–981.
https://doi.org/10.1007/s10902-010-9239-1

(7)Emmons, R. A., & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: an experimental investigation of gratitude and subjective well-being in daily life. Journal of personality and social psychology84(2), 377–389.
https://doi.org/10.1037//0022-3514.84.2.377

(8)Flynn, F, J. & Lake, V. (2008). If you need help, understanding compliance with direct requests for help. Journal of Personality and Social Psychology, 1, 128-143.
https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/publications/if-you-need-help-just-ask-underestimating-compliance-direct-requests

人間関係をよくする

親切な行為は人間関係の質を良くし,良好な関係を長期的に保つことを可能にします。これまでのささいな心遣いや親切,相手に対するポジティブな反応を対象に行われた実験や調査は,それらの行為が人間関係にプラスの効果をもたらすことを教えてくれます。このセッションでは,「結婚相手に求める要素とは何か?」という普遍的な問いを検討した大規模な調査をはじめに紹介します。

あなたは結婚相手にどのような性格を求めますか?

答えは様々でしょう。

優しい人がいいと言う人もいれば、誠実な人や外交的な人がいいと言う人がいるかもしれません。夫婦が似たような性格や全く違う性格から形成されるなどの俗説的な考えから考えれば、自分と同じ性格、あるいは全く違う性格を望むかもしれません。

このような問いを世界33カ国の10,000人以上を対象に行った大規模な調査があります(1)。

将来の結婚相手を選ぶことは有能な子孫を残すことやより良い生活を送っていくと言う自然選択の面についても重要な意思決定です。

そのような人生を左右する選択において文化を超えた共通点はあるのでしょうか?

その調査では20歳から25歳までの年齢の男女に対し将来の結婚相手に何を1番望むのかを尋ねてみたところ、文化の差異を超えて,「親切」が求められていることがわかりました。

皆さんは「身体的な魅力度」や「経済的な余裕」が一番を占めるのではないかと思ったのではないでしょうか。それらの要素も人間が生きていくうえで,「身体的な魅力度」であれば,優秀な遺伝子を持っていることの証明であると考えれていますし(2),「経済的な余裕」であれば,社会的に認められているからこそお金を有していると考えられ,パートナーとして選ばれる確率は高まるかでしょう(3)。

しかし,最初のセッションで親切が人間の生活の基盤に根ざしていることを述べました。

人間は社会的動物であり、他者との関わり(昔であれば,血のつながっているものとの関わり)がなければ、生命が脅かされる状況にあったのです。

この環境で多くの時間を過ごしてきた私たち人間はお互いに助け合うことを本能的に刻まれています。

このようなお互いに助け合う行為が昔から受け継がれてきた理由として、それが低コストで効率的であるからであると考えられます。また野生動物や他の部族からの脅威に立ち向かうには集団が結束して対抗する必要があります。

このような歴史が私たちが親切をすることに人間関係を築き、集団を強化することを本能的に持っていることにつながったと言えるでしょう。

でも本当に親切な行為は人間関係の質を向上させるのでしょうか?

1989年にワシントン大学の心理学教授であるジョンゴットマンは夫婦関係と結婚生活の関係性についての研究を行っています(4)。

対象となったのは25組の新婚夫婦でした。

実験参加者の夫婦には,金銭などに関する互いが問題だと思っている話題について話し合って貰いました。その時の様子をビデオカメラで録画し,新婚夫婦が話し合いの中で見せる複雑な行動を秒単位で細切れに分析しました。

ここでは争点となる話題を話し合いの中で,片方が自身が問題だと思っている部分について語っているときに相手がその人の顔を見ているかどうかなどの観察できる行動面が分析対象となりました。

また夫婦が議論している間の心拍数などの生理指標を測定する装置なども導入し身体的な変化も記録していました。

そしてその夫婦を3年間追跡調査を行い,結婚してる状態を維持しているのか,もしくは破綻しているのかを調べました。

追跡調査の結果実験参加者となった夫婦の会話の分析から,3年後も夫婦が良好な状態なのかそうでないかを約90%以上の精度で予測することができました。

特筆すべき点はその分析をするのに足る時間は夫婦が話し合っている時間のたった3分ほどでその予測を出せたことです。

ではどのような行動が3年後の結婚状態を予測するのに役立ったのでしょうか?

それはポジティブとネガティブな言動の比率が5:1を保っているかでした。

ここでのポジティブな言動には,親切や愛情,耳を傾けることなどが該当します。一方でネガティブな言動は軽蔑や怒り,無関心などを指します。

3年後も良好な関係を築いていた夫婦はネガティブな言動を1つするのに対し,ポジティブな言動を5つすると,5対1の比率が保たれていました。

例えば,5対1の比率を保つためには,夫が妻の高価な服を買うという行動を1つ非難するのであれば,普段の家事や人格の良さのポジティブな部分を5つ挙げ肯定する必要があります。

このような結婚相手に対する親切や気遣いが良好な関係を続けていけるかの予測因子になるのです。

またゴットマンによる別の研究によれば,結婚相手の呼びかけに対して,どのような反応するのかによっても結婚生活が高い確率で予測できることを明らかにしています(5)。

調査の対象となったのは新婚のカップル130組でした。新婚夫婦の日常的な1日を分析対象とし,どのような行動が夫婦の関係を良好に保つ上で重要なのか調べました。

その観察の中で特に重要なのが,「呼びかけ」であり,夫婦の片方の呼びかけに対して相手方がどのように反応するかによって6年後の結婚生活を予測できることを示しました。

ゴットマンは夫婦の方方からの呼びかけに対し相手方の反応が大きく分けて,「相手に顔を向ける」場合と「相手から顔を背ける」場合の2つのパターンがあることを見つけました。

実際の分析の結果,6年後も結婚生活が続いていた夫婦は,相手の呼びかけに対し87%の時間,相手に顔を向けると言う行動とっていました。

一方で,結婚生活が続かなかった夫婦については相手の呼びかけに対して50%以下の約33%の時間しか相手に顔を向けていませんでした。

相手の顔を見ることは,自分がその人のことに注意を向け興味を持っていることを示す役割があります。何気ない会話の中でも相手の注意を向けること,こうした小さな行動が人間関係を長続きさせる大きな影響を持っているのです。

小さな行動は他にもあります,相手の話を聞く,作業を手伝う,などのほんの小さな親切(相手のことを考えてする行動)も含まれるといえるでしょう。

他にも小さな行動が良好な関係を長期的に続けていくことにつながることを示す研究があります。

2004年にカルフォルニア大学の心理学者シェリー・ケーブルらが行った調査では,互いの会話中で示す反応によってカップルや夫婦の関係の質とその関係が維持できるかどうかに大きな違いが生じることを示しています(6)。

行動の違いは以下の4つパターンが挙げられています。

・「積極的で建設的」な行動
興味を持っている反応を見せ,心から喜ぶ

・「受動的で建設的」な行動
表面的には興味がないように見えるが,実際には興味がある

・「積極的で破壊的」な行動
相手を否定したり,可能性がないことを示し,ネガティブな心境にさせる

・「受動的で破壊的」な行動
興味があるように見えるが,実際には興味がない

調査の対象となったのは148組のカップルでした。そのうちの58組は平均で14ヶ月付き合いを続けていました。

残りの89組は平均して結婚生活を10年以上継続していました。調査対象者には関係について「私が良い出来事を伝えた時に,,,」の後に,パートナーがどのような反応をするのか,上記の4つのタイプのどれに該当するのかを質問紙で答えてもらいました。

調査の結果,「積極的で建設的」な反応を見せたカップルが2人の関係の質が高く,今後も長続きする可能性が高いと考えられる,信頼度や満足度,親密さの度合いが最も高かくなりました。また論文の中での後続の調査では,カップル以外の友人や兄弟姉妹,親を対象に「積極的で建設的」な反応が人間関係にどのような影響与えるのかが検討され,プラスの感情と人生の満足度が高められることが示されています。

このように相手の反応に対して,「積極的で建設的」な反応を示すことや相手の呼びかけに対してきちんと反応することなどのささおな心遣いや親切は人間関係を良好にする事がわかっています。

そのような反応を得た周りの人は,自分の存在が受け入れられたと感じ,会話やしぐさ等の相互作用からプラスの影響を受けることができるといえるでしょう。

(1)Buss, D. (1989). Sex differences in human mate preferences: Evolutionary hypotheses tested in 37 cultures. Behavioral and Brain Sciences, 12(1), 1-14.(https://www.cambridge.org/core/journals/behavioral-and-brain-sciences/article/sex-differences-in-human-mate-preferences-evolutionary-hypotheses-tested-in-37-cultures/0E112ACEB2E7BC877805E3AC11ABC889

(2)Buss, D. M. (1994). The strategies of human mating. American Scientist82(3), 238-249.
https://www.researchgate.net/publication/41391479_Strategies_of_Human_Mating

(3)Lewis, D. M., Conroy-Beam, D., Al-Shawaf, L., Raja, A., DeKay, T., & Buss, D. M. (2011). Friends with benefits: The evolved psychology of same-and opposite-sex friendship. Evolutionary Psychology9(4), 147470491100900407.
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/147470491100900407

(4)Gottman, J. M., & Krokoff, L. J. (1989). Marital interaction and satisfaction: a longitudinal view. Journal of consulting and clinical psychology, 57(1), 47.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2487031/

(5)Gottman, J. M., Coan, J., Carrere, S., & Swanson, C. (1998). Predicting marital happiness and stability from newlywed interactions. Journal of Marriage and the Family, 5-22.https://psycnet.apa.org/record/1998-00570-001

(6)Gable, S. L., Reis, H. T., Impett, E. A., & Asher, E. R. (2004). What do you do when things go right? The intrapersonal and interpersonal benefits of sharing positive events. Journal of personality and social psychology, 87(2), 228.
ISO 690https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15301629/

親切は親切を呼ぶ

この記事では,これまで親切が幸福感や人間関係などにプラスの影響を及ぼすことを示す実験や調査の結果について述べてきました。

ここでは,親切な行為をする,または見ることでさらに親切な行動が誘発されることを示す研究について述べていきます。

「新設のメカニズム」のセッションでは,多くの動物が生きていくうえで集団での生活をすることが必要であり,長い歴史が私たちに他者に対して利益のある行動をとることをプログラムしているとの説明を用いました。

この影響は,意識できないところまでいると考えれ、私たちの認知や行動を深く関係しています(1)。

しかし,声掛けや気遣いなどの親切は時間や資源を投じ,行われるためコストがかかることも見過ごせません(2)。

この他者の利益になることをする行動は自動的で,なおかつ意識していないところで生じる側面が,このコストを顧みない行動を引き起こしているとも考えられます。

では,親切などの他人に利益をもたらす行動はいつから私たちの行動の中で現れ始めるのでしょうか?また,そのような行為は周りの親切な行動や人間関係の良さを誘発するような言動によって引き起こされたりするのでしょうか?

2009年にカーディフ大学のハリエット・オーバーらが愛や親切を表現する写真を見せることで,幼児が親切な行動を自発的にするようになるのかどうかを調べた(3)。

実験の対象になったのは,生後18か月の幼児60名でした。

幼児はランダムに4つのグループに分けられ,実験者と少し遊び,退出した後に,ヤカンが中央に映っており,その写真の端に人形やつみきがある写真を見せられた。グループ間の見せられた写真の違いは以下の通りです。

<グループ1>
傍らに映った人形が向かい合っている

<グループ2>
人形が1人だけ立っている

<グループ3>
積み木が積みあがっている

<グループ4>
傍らに人形が立っているが,それぞれ違う方向を向いている

この実験では,グループ1に見せられた写真はお互いに向き合っていることもあり,愛や一体感を表現するものとして用いられ,グループ2や3の写真は愛や一体感を書いているものとして用いられました。

そして写真を見せられた後,実験者が実験室に戻ってくるときに,遊び道具をうかっり落として幼児がそれをとるのを手伝うのかを観察しました。

実験の結果,人形が向き合っている写真を見た幼児は他の写真を見た幼児よりも実験者の手伝いをした。

具体的には人形が向き合っている写真を見た幼児の約60%が実験者がおもちゃを落としたと同時に手伝いだしたのに対し,ほかのグループの幼児は約20%という結果になった。

また,このように人間同士の関わり合いを目にすることで,他人に対する気遣いや親切を促進することが確認された研究がある(4)。

・実験参加者の子どもにボウリングの優勝者が賞状を寄付に出すビデオを見るグループとその場面をカットされたビデオを見るグループの2つのグループに分け,最後に子どもに賞状を渡すと,寄付に出す様子を見た子どもは自分の賞状を他の人に渡そうとする確率が高い

・子犬を助けるシーンがあるビデオとないビデオを見た子どもでは,子犬を助けるシーンを見た子どもは他の人や動物に対して援助行動をとる確率が見ていない子どもよりも高い

逆にネガティブなシーンを目撃することで,攻撃が誘発されることを示す研究もあります。

・人形を攻撃するような遊び方をするグループとおとなしく遊ぶグループでは,大人が人形を攻撃する場面を観察するグループは,攻撃的な行動を模倣し,人形に対する攻撃的な行動が増える(5)

このように子どもの援助行動は周りからの影響を受けることが多い。

実際に,2012年にアリゾナ州立大学の124名の児童を対象に行われた調査では,向社会的(社会的に望まれる性格)の子どもとよく遊ぶ子どもはポジティブな感情を抱くことが増え,一方でネガティブな感情が減ったことが分かった(6)。

これらの他者の行動から受ける影響は子どもだけに留まらず,大人にも見られる。

2013年にカリフォルニア大学のジョセフ・チャンセラーの行った調査では,職場において親切な行動が波及効果をもたらし,さらに親切を呼ぶことが分かっている。

調査の対象になったのは大人94名でした。

調査対象者は無作為に3つのグループに分けられ,実験期間(4週間)の間,割り当てられた役割をこなしてもらいました。グループの違いは以下の通りです。

<グループ1>
親切をする

<グループ2>
親切を受ける

<グループ3>
何もしない

そして,実験期間終了時と,1・2か月後にフォローアップで幸福度などの質問紙に答えてもらいました。

調査の結果,親切をする人,される人ともに幸福度の向上が見られた。またそれに加えて,親切をされた人は誰か別の人に親切をする傾向が見られました。

つまり,親切を受けた人はさらにほかのだれかに親切をする行動をする傾向が見られ,親切の波及効果が確認されたのです。

このセッションでは,親切な行為をされた人がどのようなポジティブな効果を得て,さらに他の人にも親切な行為をする傾向があることを述べました。

「情けは人のためならず」という諺があるように,親切な行為はまた次の親切な行為を呼ぶといえるでしょう。

(1)Brewer, M. B. (2004). Taking the social origins of human nature seriously: Toward a more imperialist social psychology. Personality and social psychology review8(2), 107-113.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15223509/

(2)Trivers, R.L. (1971). The evolution of reciprocal altruism. Quarterly
Review of Biology, 46, 35–57.
(https://www.scirp.org/(S(351jmbntvnsjt1aadkposzje))/reference/ReferencesPapers.aspx?ReferenceID=1939742)

(3)Over, H., & Carpenter, M. (2009). Eighteen-month-old infants show increased helping following priming with affiliation. Psychological science20(10), 1189-1193.
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1111/j.1467-9280.2009.02419.x

(4)Luks, A., & Payne, P. (2001). The healing power of doing good: The health and spiritual benefits of helping others. iUniverse.
https://books.google.co.jp/books/about/The_Healing_Power_of_Doing_Good.html?id=mKyVmabyXzAC&redir_esc=y

(5)Bandura, A., Ross, D., & Ross, S. A. (1961). Transmission of aggression through imitation of aggressive models. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 63(3), 575–582.
https://psycnet.apa.org/record/1963-00875-001

(6)Fabes, R. A., Hanish, L. D., Martin, C. L., Moss, A., & Reesing, A. (2012). The effects of young children’s affiliations with prosocial peers on subsequent emotionality in peer interactions. The British journal of developmental psychology30(Pt 4), 569–585. (https://doi.org/10.1111/j.2044-835X.2011.02073.x

(7)Reviewed, P. (2009). UC Riverside Electronic Theses and Dissertations. Thesis-Electronic, Vib. Thermoelectr. Prop. Two-Dimensional Mater.
https://rt.cto.mil/wp-content/uploads/DoD_21.2_SBIR_FULL.pdf

まとめ

本記事では親切がもたらすプラスの効果について述べてきました。

「情けは人のためならず」と言う言葉が意味するように私たちが気づかないうちに過去に親切をしたことからの恩恵を受けています。

そしてまたその親切な行為が他の人の親切な行為を呼び,プラスのループを生み出しているのです。 

親切をすることがただの気分の向上のみならず,さまざまなプラスの作用があることが読者の皆様はもう理解しているはずです。

日常生活の中には,親切をする機会が多くあります。

・駅の階段で,荷物が重くて持ち上げることが出来ない人を手伝う
・エレベータで待っている人が出る・下りるまで「開く」ボタンを押す
・いつもお世話になっている人に差し入れを持っていく etc

親切は人をより幸福にし、心臓に良く、人間関係を改善します。
そして親切は親切を呼びます。

ぜひこの記事を読んだみなさんは自分から親切をしてみてください。 

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