子どもの頃に接種したBCGワクチン。
「はんこ注射」とも呼ばれていますが、その跡が大人になっても消えないという方もいるようです。
こちらの記事では、大人になってもBCGワクチンの痕が消えない理由や跡を目立たなくする方法について解説します。
BCGワクチンとは
まず、BCGワクチンとはどのようなものなのでしょうか?
BCGとは、結核を予防するワクチンのことです。ワクチンを開発したフランスの研究所の研究者の名前をとった菌「Bacille Calmette-Guerin」の頭文字に由来します。
もともとは牛に感染する牛型結核菌を時間をかけて弱めた菌でしたが、1924年に日本にももたらされ、1965年には「Tokyo 172 strain」という日本の菌から作られたBCGワクチンがWHO(世界保健機関)の国際参照品として指定されました。
標準的な接種期間は、生後5カ月〜8カ月の間とされています。しかし、結核の発生状況などを考慮しなければならない場合は、必ずしもこの期間に接種しなければならないわけではありません。また、2012年度までは生後6カ月に至るまでに接種することになっていましたが、2013年度以降は生後1カ月に至るまでの間に接種することになりました。
BCGワクチンの効果について、厚生労働省によると、乳幼児期にBCGワクチンを接種すると結核の発症を約52~74%、重篤な髄膜炎や全身性の結核を約64~78%予防できるそうです。そして、BCGワクチンを一度摂取すれば、効果が約10~15年持続すると考えられています1。
BCGワクチンはどこに打つ?
BCGワクチンは、上腕外側の中央部あたりに接種することが定められています。他の部位への接種は法律上認められていません。
肩の部分に接種を行うと、ケロイドになりやすいことも報告されているようです2。ケロイドについては後ほど詳しく解説します。
BCGワクチン摂取後の経過
BCGワクチンを供給している日本ビーシージー株式会社によると、BCGワクチンの接種後7日間程度は接種した腕を毎日観察する必要があるそうです。
接種した日や翌日など、早い段階で赤く腫れた場合、接種を受けた医療機関に早めに連絡することが重要です。BCGワクチンを接種した子が結核に感染している場合、接種した部分に強く早く反応が出る「コッホ現象」である可能性があるためです3。
10日ほど経過すると、接種した部分に赤いポツポツができ始めます。1~2カ月ほどたつ頃に反応のピークを迎え、小さな膿(うみ)が出ることもあります。この反応は、ワクチンによって免疫がついた証拠であるため心配は不要です。最終的にはかさぶたになり、小さな傷跡になります。
中には、赤いポツポツが少ない場合や皮膚の反応が弱い場合もあるようですが、接種後の反応には個人差があります。ちゃんと接種できていれば、反応が弱くても免疫ができていると考えられますが、不安な場合は接種を受けた医療機関に相談するのが良いでしょう。
また、接種した部分は清潔に保つことが大切です。
もし清潔に保っていても、接種したところが数カ月以上たってもジクジクしていたり、針のあとが大きな傷になったりした場合は医療機関に相談しましょう4。
大人になってもBCGワクチンの跡が消えない理由
BCGワクチンを接種した部分は、最終的にかさぶたになり、小さな傷跡として残ることが分かりました。
多くの場合、大人になるとその跡は目立たなくなりますが、大人になってもBCGワクチンの跡が目立ってしまうのはなぜなのでしょうか?
その理由を見ていきましょう。
現在定められている部分以外に打った
現在の日本のBCG接種法(押圧法)は、ワクチン接種による傷跡が残りにくくするために改良されたものです。
以前は皮下注射だったため、10mm程度の傷跡が肩の方に残っている場合があります。特に50〜60歳以上の方に多く見られるようです。現在のBCG接種法(押圧法)に変わっても、しばらくは同様の接種方法が続けられていたため、肩に近い位置に接種されているとケロイドになりやすく、大人になっても跡が残ってしまったケースもあるといわれています。
現在は、きれいな接種痕を残すようにすることが重要だとされています。
①接種部位の皮膚を腕の下から握って緊張させて、②管針をシヤチハタスタンプ®︎のように持って、③軽く均等に○を付けることです。9個の針は管針の土手部分からわずかに出ているので、軽い押圧でも○が皮膚に瞬間的に残ればきれいに皮内に刺さり必要な BCG 液を刺入させます。上下の接種痕で1-2ヵ所に微かに血が滲む程度がきれいな BCG 痕を作るコツです。④接種後には BCG 液を管針のツバで◯の外に押し出して、⑤固く絞った酒精綿で余分な液を拭い取ります。すぐに乾燥しますから袖を戻して終了です。
引用:名鉄病院「Q】BCG の瘢痕が残らない方法について」
出血を伴うような強すぎる押圧では、ほぼ皮下注射となり跡が残りやすくなってしまうだけでなく、コッホ現象のようにも見えてしまうケースもあるようです5。
ケロイドになった可能性がある
上述した通り、BCGワクチンを接種する部位は法律上、上腕外側の中央部あたりと定められています。また、肩の部分に接種するとケロイドになりやすいと報告されています。
しかし、定められている部位に打った場合でも、ケロイド体質の場合は跡が残りやすいとも考えられています。BCGワクチンは、さまざまなワクチンの中でもケロイドになりやすいといわれています。
ケロイドとは、皮膚の深い部分にある真皮で炎症が続くことによって生じるものです。痛みやかゆみを伴い、赤く盛り上がって見えます。これは、傷を治すための炎症が過剰に続くことで、膠原線維(コラーゲン)ができて盛り上がったり、血管ができて赤くなったりするためです。
ケロイドは腫瘍ではないため、転移したり、命にかかわったりするものではありません。しかし、早めに治療をすることで、早く治りやすくなります6。
ワクチンの跡を目立たなくする方法
ワクチンの跡は多くの場合、ケロイドであることが分かりました。
最後に、ワクチンの跡を目立たなくするための方法やケロイドの治療法の代表例をご紹介します。症状によって適切な対処法は異なりますので、参考程度にご一読いただけますと幸いです。
また、医療機関や専門の機関に相談の上、治療を検討しましょう。
ダーマローラー
傷跡が気になる場合、ダーマローラーという医療用の極細の針を用いた治療法があります。ダーマローラーとは、ローラーを肌表面に転がすことで、目に見えない微少な刺傷をつけ、肌の再生を促すものです。施術後は、治療した部位に赤みや乾燥が生じますが、数日で引くといわれています。かかる回数や効果には個人差があるとされています78。
治療にかかる費用はクリニックによって異なるため、調べたりカウンセリングを受けたりするのが良いでしょう。
塗り薬
ケロイドの塗り薬として処方されているものはさまざまです。炎症を抑えるために処方されるステロイド軟膏・クリームや非ステロイド系抗炎症剤、ヘパリン類似物質の軟膏やクリーム、スプレー、ローションなどの保湿剤が挙げられます。医療機関で相談しましょう。
飲み薬
ケロイドには塗り薬だけでなく、飲み薬が用いられることもあります。トラニラスト(リザベン®)が効果的だといわれています。抗アレルギー剤であり、かゆみなどの自覚症状を抑制し、病変そのものを沈静化させるといわれています。他にも、漢方薬である柴苓湯(さいれいとう)も症状の軽減に効果があると考えられています。こちらも医療機関で相談しましょう。
貼り薬
傷跡やケロイドの治療にはステロイド(抗炎症剤)のテープや、シリコーンジェルでできたシート、ポリエチレンジェルシートが用いられることもあります。ジェルシートを長期間貼ることにより、保湿や安静、固定をすることができます。また、ジェルシートの粘着力により、傷跡やケロイドに密着します。こちらも医療機関で相談しましょう。
注射
ケロイドの治療にはステロイドの注射を用いることもあります。注射をすることで赤みや盛り上がりが減少します。塗り薬同様、ステロイドのため、毛細血管を拡張してしまうこともあり、周りの皮膚の菲薄化につながる可能性もあることがデメリットといえます。また、硬い傷跡に注射すると痛みが伴ったり、女性の場合はステロイドの影響で生理不順が生じたりする場合もあります9。
手術
ケロイドや肥厚性瘢痕は、上述したような手術をしない方法で症状が軽減されるケースも多いといわれています。しかし、ひきつれ(瘢痕拘縮)の原因となったり、目立つ傷跡であったりすると手術をすることもできるようです。
ケロイドは再発しやすいため、過去には手術が推奨されていないこともあったそうです。しかし現在は、可能な限り再発しないような工夫をしたり、術後に放射線治療をしたりして完治させることができるようになったといわれています。
メイクで目立たなくさせる(メイクアップセラピー)
傷跡に特殊なメイクをする、「リハビリメイク®︎」という方法もあります。少し凹凸のある傷跡には極薄テープを貼り、その上からファンデーションを塗ることで目立ちにくくなります。メイクであれば、いつでも傷跡を隠すことができるため、人前に出る不安を軽減できたり、自信が持てるようになったりするという精神的な効果もあると考えられています10。
傷つけない
BCGワクチンの跡がケロイドになっていて、大きさに変化はなく、時々少しかゆみが出る場合、治療をしなくても問題ないケースもあるようです。しかし、その部分を引っかいたり、傷つけたりするとケロイドが大きくなる恐れがあります11。悪化させないためには、むやみに触ったり、傷つけたりしないことが大切です。
おわりに
大人になってもBCGワクチンの跡が消えない理由や跡を目立たなくする方法について解説しました。
腕や肩は服装によっては見えやすい部位のため、ワクチンの跡が目立っていると気になる方も多いと思います。
ケロイドの場合はさまざまな治療法があるため、専門の機関に相談するのが良いといえるでしょう。
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