心の安定を求める人の需要にこたえるような、タブレット端末用の瞑想アプリが普及するようになりました。「瞑想について学びたい」という目的や、瞑想するときの補助のためのアプリは、スマートフォンなどによって、いつでも、利用することができます。空いた時間に、マインドフルネスを体験したり、理解を深めることができるのです。
しかし、携帯電話などなかった時期にも、マインドフルネスや、禅の瞑想は、実践されていました。
だから「マインドフルネスにとって、アプリは、よけいなものなのではないか」という疑問もあるかもしれません。
この文章では、私が実際にアプリを使用しながら瞑想をおこなった体験談をもととして、スマートフォンのアプリとマインドフルネスについて解説しようと思います。
【マインドフルネスに、アプリは必要か】
座って、自己の呼吸や心の内面に意識を向けるような環境ならば、どのような場合にも、瞑想はできます。
基本的には、座る時間をつくって、ただ、瞑想に集中することができれば、それでよいのです。鎌倉時代に、わが国に曹洞宗の禅をもたらした人物である、道元も『打坐して身心脱落することをえよ』と述べて、ただ座って瞑想に打ちこむことを強調していました。
私がマインドフルネスの音楽について述べた記事で、ほんとうは、音楽がなくても集中できるような習慣をつくることが大切だ、ということを書きました。
そのことは、アプリについても、同じことをいうことができます。瞑想に集中できる状況や環境さえあれば、アプリを使わなくてもよいのです。お寺の修行や瞑想会では、アプリの音声ガイダンスや、音楽を流したりするようなことは、しません。
しかし、初心者の場合には、そのように割り切ることができないと思われます。たとえ「これからマインドフルネスについて知りたい」と思っていたとしても、瞑想の方法について、誘導してくれる人がいなければ、どうしようもありません。
とくに、都市で生活していながらマインドフルネスを実践しておられる方々は、騒音のせいで、瞑想に集中することが難しい、ということもあります。
マインドフルネスのアプリは、そのような、マインドフルな状態に入ることじたいが一苦労だ、という方々には、よい補助となります。
また「瞑想は退屈なものだ」と考えているような人こそ、そのようなアプリを試すとよいです。
なぜなら、アプリを使った瞑想をすることによって、知識を吸収しようと意気込まなくても、マインドフルネスの考え方がわかるようになってくるからです。アプリの音声ガイダンスや、瞑想用の音楽などといったコンテンツは、初心者の方々が感じるような瞑想の退屈さをやわらげてくれます。
【アプリによる誘導マインドフルネス】
なにかの援助をたよりにしながら実践するマインドフルネスは『誘導マインドフルネス』とよばれています。瞑想といっても、ただひとりだけでおこなう瞑想だけではありません。セラピストによる誘導や、音声資料を活用するならば、瞑想について、正しい知識や方法を学ぶことができます。
精神医療におけるマインドフルネスは、うつや不安疾患だけではなく、疼痛や薬物依存など、さまざまな症状を鎮めるために応用される可能性をもっています。もともと、心理学者が禅を学びながら、マインドフルネスを心理学と結びつけたのは、精神疾患を治療するための方法として禅に注目しはじめた、ということが契機でした。
誘導マインドフルネスは、精神疾患の治療法として推奨される、臨床マインドフルネスの観点から見れば、効果的な治療法とされています。
アプリのように、音声ガイダンスを使って瞑想をすることも、また、誘導マインドフルネスの範疇に含まれます。
ただし、アプリによる誘導マインドフルネスではもの足りないと感じるようになったならば、正しい瞑想法を教えてくれるようなセラピストなどを見つけて、プロによる指導を受けるようにするとよいです。アプリは、治療という目的でつくられたものではないのですから、便利だからといって過信しないほうがよいです。
治療という目的がある場合には、ほんとうに、マインドフルネスに理解のあるような精神科医やセラピストを見つけることは、簡単なことではないかもしれません。
しかし、精神疾患は、どのような方法よりも、治療者や、ささえてくれる人の存在によって、回復のプロセスが変わります。こころにとって、投薬だけが治療ではありません。さまざまな治療法を知り、患者とのあいだの信頼関係を大切にするような治療者を選ぶべきです。
【睡眠導入として】
マインドフルネスのアプリには、睡眠の質を改善するための音楽を流す機能などが含まれていることが多いです。
睡眠とマインドフルネスには、シータ波という脳波がかかわっています。シータ波は、まどろんでいるときの脳にあらわれる脳波です。
そして、また、深い瞑想状態でも、脳は、シータ波を発生させます。細かい波形や周波数は少しちがいますけれども、アルファ波からシータ波にまたがる、6〜10Hzという周波数の脳波が、究極の瞑想状態をあらわしている、といわれています。
音楽を使わずにマインドフルネスを実践するだけでも、シータ波は、発生します。
つまり、瞑想状態は、睡眠に入りやすい脳の状態をつくるのです。
さまざまな実験によって、シータ波は、脳の記憶や情報処理をつかさどる部分である、海馬や、その周辺の領域とかかわっていることがわかっています。
また、不眠症やナルコプレシー(居眠り病)などといった、睡眠障害は、ストレスが原因となって発症することが多いです。そのほかにも、気分障害や不安障害、あるいは身体疾患など、不眠症の原因となるようなことがらは、われわれが考えているよりも、たくさんあります。
マインドフルネスの基本的な瞑想を実践するだけでも、結果としては、睡眠を改善することとなります。
なぜなら、マインドフルネスの雑念を減らす効果によって、ストレスや不安にとらわれずに過ごすことができるようになるからです。
睡眠の状態には、2種類の状態があります。夢を見るときの浅い眠りを、レム睡眠とよびます。より深い眠りは、ノンレム睡眠とよばれています。
レム睡眠のとき、人間の脳から出る脳波は、シータ波の波形となります。
しかし、シータ波は、覚醒しているときにも、海馬から発生しています。東京大学の准教授である、久恒辰博によれば、記憶力テストをしているときや、リズミカルな音楽を聴いているときなどに、シータ波が発生する、ということがわかっています。
そして、先ほど述べたように、マインドフルネス瞑想も、シータ波がかかわっています。
久恒准教授は、また、昼寝や仮眠の時間をとることも、シータ波を発生させることができる方法だ、ということを述べています。昼間に短時間の睡眠をとる、ということは、レム睡眠の状態を意図的につくり出すこととなるのです。疲れているときなどは、6分の昼寝でも効果があります。近年、学校や企業など、昼寝を推奨する団体が増えています。仮眠の習慣が学力や仕事の能率を上げてくれるのだとすれば、そのような時間が、かならずしもムダになるとはいえません。
そのように、睡眠とマインドフルネスの関係は、シータ波や、海馬のはたらきによって説明することができます。
【マインドフルネス用アプリを試してみました】
私は、ふだん瞑想するときには、電子機器を遠ざけています。
もちろん、スマートフォンのタイマーを使って、瞑想する時間を限定することはあります。
しかし、ただ時間を計るだけならば、一本の線香に火をつけてから消えるまでのあいだの、約30分のあいだを瞑想の時間とする、という方法もあります。事実、線香を焚いておこなう瞑想は、アロマテラピーのようなリラックスムードをつくることができます。お寺の瞑想会では、そのように、線香で時間を計っています。
だから、正直に言うならば、私は、マインドフルネスという名称をかかげたアプリには、あまり期待をしていませんでした。
しかし、その機能的なことについて評価するならば、アプリを使わなければできないことも多いような印象を受けました。
今回、私が試したアプリは《Meditopia》です。グーグルや、アプリ検索機能では『マインドフルネス』というワードで検索するときに、このアプリが最上位で出現することが多いです。カスタマーからの評価も、星5つによる評価のうち、3.8となっています。
このアプリには、7日間の無料トライアルというプログラムがあります。最初の7日間にわたる初心者向けのプログラムだけが無料で、それよりもあとは、月額50,000円を支払うことによって、利用することができます。月額制に変更したあとでなければ利用できない機能もあります。
7日以内に解約しなければ、料金がかかることとなります。このようなシステムのアプリは、多いです。インストールが無料というだけで安心せずに、どこから料金がかかるのか、といったことについて、説明文をよく読んでおくことをおすすめします。
インストールしたときのデータサイズは、43.37MBでした。アプリとしては、大きすぎず、小さすぎない、というくらいのサイズとなっています。
アプリを起動したときに、いくつかの質問に回答することとなります。利用者の年齢や、プログラムをつうじてどのようなことを知りたいか、といったことについて、選択肢方式で、情報を入力していきます。
それらの情報をもととして、それぞれの人に合ったプログラムを組み立ててくれるようです。
音声ガイダンスとともに、瞑想の時間がはじまります。最初は、初心者のための、10分間、呼吸に意識を向ける時間からスタートします。
通常の導入ガイダンスのBGMに加えて、瞑想用の音楽を5種類以上用意してくれていることや、マインドフルネスについての格言などを閲覧できる機能は、よいアイデアだと思います。これらは、瞑想の習慣をつくるためのモチベーションを維持してくれるだけではなく、マインドフルネスという分野が限定されないものであることを教えてくれます。
《Meditopia》は、初心者向けのマインドフルネスアプリとしての機能が豊富で、すぐれた完成度だと思います。
処理落ちで遅くなる、などといった不具合は見当たらないため、使いやすいです。いつでも、瞑想状態の導入がほしいようなときに、ガイダンスを聴くことができます。
難点は、料金のシステムや、プログラムの進行するステップがわかりづらいところでした。このことによって、無料アプリだと思ってインストールした人が、残念に感じることもあるかもしれません。もっと、利用者の目線から見ても、わかりやすくなるための改善を期待したいと思いました。
また、カスタマーレビューにおいても、そのわかりづらさが、アプリにたいする評価を下げてしまっているように思われます。
もう一つ、付け加えたいことは、管理者側から届いたメールが、日本語ではなく、ロシア語だったということです。このことからも、ほんとうに利用者目線に立ってくれているのか、否か、ということに、疑問を感じました。
その一方で、月額の料金を支払いながらアプリを愛用しつづけている利用者からのレビューでは、機能について満足している、という旨の意見が多数ありました。
どこまでが無料なのかがわかりづらい、というユーザー任せなアプリであるけれども、継続して使っている方々から見れば、機能が充実していることが売りとなっている部分が《Meditopia》の特徴ということができます。たとえ、お金をかけたとしても、使い続けたいと思わせるようなコンテンツが豊富だということは、事実です。
ほかにも、音声ガイダンスについての評価には、賛否両論がありました。『リラックスできる』という意見が多かったにもかかわらず、複数の利用者が、音声つきで瞑想をしても、かえって気が散る、という旨の意見を述べていました。
導入音声がかえって瞑想状態に入りにくくなってしまうか、あるいは、声に癒やしを感じるか、ということは、人それぞれです。私も、使いはじめたときには、そのことが気になりました。静寂が保たれているような空間を確保できているにもかかわらず、横から指示をされているような気分がありました。
しかし、その点には、すぐに慣れてしまう、という場合もあると思います。
今のところ、このようなアプリは、皆、月額の相場が高めな傾向があります。このことが、誘導マインドフルネスを、敷居の高いものとしてしまっているように思われます。
もしも、廉価版などがあるならば、もっと多くの人々に利用していただくことができるでしょう。
それでも、お金を払ってサービスを受けたい、と考えている利用者が多いのは、このアプリには、その金額に見合った機能や、おもしろさがあるから、ということができます。
【まとめ】
どのようなアプリでも、実際に使ってみなければ、判断することはできません。ひとたび、無料期間で使うことができる機能だけを試してみたあとで、継続して利用することができる、という部分も含めて、アプリを使ったマインドフルネスをおすすめすることは、できます。
もちろん、私が考えたことが、すべての利用者に通用することである、というわけではないでしょう。やはり、このようなツールは、人それぞれに応じて「たとえ、お金をかけてもアプリのサービスを活用したい」と思うことができるか、否か、ということにかかっています。
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