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グーグル社のマインドフルネス・プログラムについて

グーグル社のマインドフルネス・プログラムについて

アメリカのIT企業である、グーグル社(Google LLC)には、社員のために、マインドフルネスを普及させた人物がいました。

その人物は《陽気な善人》という肩書きで知られている、チャディー・メン・タンというエンジニアです。

この文章では、グーグルで実践的されているマインドフルネスのプログラムと、その特徴について説明しようと思います。

己の内を探れ

2000年にグーグルに入社したメンが、その時期に開発したプログラムは《サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)》とよばれるようになりました。

2014年には、ニューヨーク・タイムズに《SIY》について書かれた記事が掲載されました。

メンは、本業はソフトウェアのエンジニアであるにもかかわらず、瞑想について、豊富な知識と経験をもっていました。

たとえば、彼は、マインドフルネスのメソッドを打ちたてた研究者や、禅の指導者と交流を深めていた、という事実があります。

そして、そのうちのひとりが、ジョン・カバットジンでした。

カバットジンが精神障害を治療するために開発した《マインドフルネスストレス低減法(MBSR)》は、気づきの訓練をつうじて、ありのままの全体的な生き方を得る方法です。

禅の瞑想などといった、いま、ここに存在していることに集中する訓練によって、患者は、ストレスを受け入れながら、目の前のことに対処することを学ぶのです。

《MBSR》の理論と実践方法は、メンの《SIY》における基礎となっています。

メンは、2015年から、グーグルを退社したあとの事業として《サーチ・インサイド・ユアセルフ・リーダーシップ・インスティチュート(SIYLI)》という団体をつくりました。

《SIYLI》は、マインドフルネスを普及させるという目的をもって活動している団体です。

現在、企業向けのマインドフルネス研修が導入されていることの背景には、このような団体の貢献があるのです。

《サーチ・インサイド・ユアセルフ》は、直訳すれば『己の内を探れ』という意味となります。

もともと、この名称は、グーグルの検索機能(サーチ)とひっかけたジョークだったといわれています。

メンは、2012年に、同名の書籍を出版していますけれども、その著作に、序文を寄稿した人物は、ほかならぬ、カバットジンでした。

【SIYの考え方(EQを鍛える)】

SIYのプログラムは、マインドフルネス瞑想だけではなく、さまざまな自己啓発メソッドの内容を含んでいます。

しかし、それらのメソッドに共通していることは、いずれも『己の内を探る』ということです。

己の内というのは、自己の心の内面や、体の内部ということです。

《SIY》のプログラムは『注意力のトレーニング』『自己認識と抑制』『役に立つ心の習慣の創出』という三つのステップから構成されています。

そして、それらの三つのステップは、EQ(こころの知能指数)を鍛えるための助けとなってくれます。

たとえば、生活の中で、自己の情動をコントロールしたり、他者の感情を読み取りながらコミュニケーションをとる、などといった能力が必要となることがあります。

また、仕事でも、感情的なことがらを処理する能力は、大切です。

それらの、情動にかかわる能力が、EQです。

情動をコントロールする能力は、思考の知能指数(IQ)とは異なります。

IQと区別するために、EQとよんでいるのです。

実際の生活では、IQとEQという両方の能力が調和していることが、のぞましい状態です。

だから、仕事で成果をあげるようになるためには、まず、自己の内面を観察する必要があるのです。

自己認識は、EQにもとづいた情動的能力です。

EQについての研究で著名な心理学ジャーナリストである、ダニエル・ゴールマンは《SIY》のプログラムを開発するときに、メンの相談相手となった人物のうちのひとりです。

ゴールマンは、自己認識をする能力を重要視しています。

彼の定義によれば、自己認識というのは『自分の内面の状態、好み、資質、直感を知ること』です。

自己認識には、情動を自覚したり、自己の情動を克服することが必要となります。

具体的な方法として、自己の体に注意を向けるマインドフルネス瞑想である、ボディ・スキャンや、自己の考えを書くという方法(ジャーナリング)を実践することが推奨されています。

【SIYの呼吸瞑想】

呼吸瞑想は、マインドフルネスにおける基本的な瞑想法です。

呼吸に注意を向けながら、自己が存在しているということを実感する瞑想が、呼吸瞑想です。

それは、自己にたいする気づきを保つことや、ありのままを受け入れる訓練です。

その一方で《SIY》の呼吸瞑想は、メンによる独特な考え方が加えられたものとなっています。

まず、瞑想では、マインドフルネスの状態でいたいと思う理由を生み出します。

SIYでは、これを『意図』とよんでいます。

それから、呼吸をたどるプロセスに移ります。

瞑想をしている途中で、気が散るようなことがあったときには、ふたたび、呼吸に注意を戻して、注意の集中を回復するのです。

それからあとは『呼吸をたどる』『気が散る』『再び注意を集中する』というプロセスを繰り返します。

また、メンは、瞑想をするときの座り方を指定していません。

瞑想は好きな姿勢でする、というのが《SIY》の瞑想なのです。

ただ、参考として、実際に禅僧がおこなっている姿勢を、いくつか紹介しています。

もちろん、腿の上を脚を乗せる結跏趺坐などといった座り方が難しい場合には、胡座でも問題はありません。

宗派によって座る姿勢が異なる、ということは事実ですから、マインドフルネス瞑想では、伝統的な座り方にしたがう必要はありません。

ただし、猫背などといった、身体に負担がかかる姿勢では、呼吸に集中しづらいと思います。

結跏趺坐や半跏趺坐でおこなうか、あるいは胡座でおこなうか、ということにかかわらず、背すじをまっすぐにする必要はあります。

おそらく、姿勢を自由としている理由は、メンが、グーグルでマインドフルネスを浸透させるために《MBSR》の呼吸瞑想をアレンジしたためだと思われます。

【ビジネスとEQ】

EQがビジネスに貢献する理由について、もっと、詳しく説明することとします。

心理学者である、マーティン・セリグマンは、保険のセールスマンを対象とした研究で、楽観的なセールスマンは悲観的なセールスマンよりも売り上げが多い、という傾向を発見しました。

このような研究から、情動をコントロールする能力が、仕事の成果とかかわっている、ということがわかります。

より詳細にいうならば、EQを鍛えることによって『優れた職務遂行能力』『抜群のリーダーシップ』『幸せのお膳立てをする能力』という三つの恩恵を受けることができます。

メンは、これらの能力を『あなた自身を最適化して、すでにできる以上の水準でも機能するのを助けること』という表現によってまとめています。

EQは情動をコントロールする能力ですから、EQを鍛えることは、自己を最適化することなのです。

ゴールマンは、EQが仕事にもたらす費用効果を重要視しています。

たとえば、彼は、航空機のパイロットを例に挙げながら『コックピットは、あらゆる職場の縮図だ』と述べています。

航空機の操縦は、とくにEQが必要とされる仕事だということです。

なぜなら、航空機事故のうち、八割は、パイロットは防ぐことができたミスをしているからです。

ミスを回避するためには、航空機内のクルーのあいだで、よいチームワークが成立している必要があります。

もしも、パイロットが高いEQをそなえているような人物でなければ、人命にかかわる事故となる可能性があるのです。

だから、パイロットのあいだでは、EQは、必須の能力なのです。

航空機のコックピットでは、しっかりとコミュニケーションをとることや、相手の話を聞く態度が、要求されるのです。

うまくチームワークや、機内のクルーとの連携をとるためには、自己の情動をコントロールしながら、相手の感情を察知しなければいけません。

そして、チームワークをよくするための能力は、航空にかかわるような職業だけに関係しているのではありません。

それは、ほかの職業に携わる方々にも、あったほうがよい能力です。

EQは、どのような職業であるか、ということにかかわらず、仕事に対処するための助けとなります。

EQと収益の相関関係は、さまざまなデータによって証明されています。

たとえば、アメリカのベル研究所に所属している研究員を調査したときのデータがあります。

ベル研究所は、通信などについて研究をしている、シンクタンクです。

ベルというのは、電話の発明者である、グラハム・ベルの名字です。

ベル研究所を調査した結果として、リーダーシップを発揮して出世する研究員は、皆、仕事上必要な人々とのあいだに親密なネットワークを維持している、ということがわかりました。

【幸せのお膳立て】

企業がマインドフルネスの導入にあたって『社員や組織の生産性を向上させる』という旨の説明をすることがあります。

確かに、企業におけるマインドフルネスは、生産性につながる訓練といえます。

しかし、その、実際の効果は、仕事という範疇にとどまるものではありません。

先ほど述べた、EQによる三つの恩恵のうち、三番目にある『幸せのお膳立てをする能力』は、ビジネスという枠の中だけにとどまるものではありません。

それは、より広く、生活そのものにかかわる能力です。

というよりも、実際には、メンがマインドフルネス研修に期待していた効果のうち、もっとも重要なものは、その『幸せのお膳立てをする能力』を育てることでした。

【EQと脳】

スタンフォード大学のフィリップ・ゴールディンは、われわれが情動を統制する過程を、脳の構造とともに説明しています。

人間の脳は、大脳辺縁系(旧皮質)の表面を、大脳新皮質が覆っている構造となっています。

それらのうち、大脳辺縁系が、情動の脳ということとなります。

事実、辺縁系は、動物的な本能をつかさどる部位であるといわれています。

動物の脳である辺縁系は、われわれが生存するために必要な行動を担当しているのです。

大脳辺縁系は、脅威を感じるときに、不安の情動を発生させます。

そのとき、辺縁系は、脳のほかの領域に信号を送ります。

辺縁系は、ほかの系によって情動を統制することを手伝ってもらうために、助けを求めるのです。

脳の中では、新皮質にある、内側前頭前野という部分が、統制をつかさどる部位です。

この事実を、わかりやすく言うならば、脳には、情動的な部分と、その情動を統制するシステムの部分の相互作用がある、ということです。

大脳新皮質は、全体的に、人間らしさの脳であるといわれています。

情動のコントロールだけではなく、言語をつかさどる中枢や、自己の経験を理解するための部位も、また、新皮質の一部です。

人間に近い動物であればあるほど、新皮質が大きい、という傾向があります。

そのような、EQとかかわる脳の部分を簡単に訓練することができます。

瞑想は、EQを鍛える方法である、ということは、すでに説明しました。

マインドフルネスは《SIY》のメソッドでは、EQを鍛えるために使われます。

《SIY》のプログラムで、メンが目的としていることは、マインドフルネスの実践によって、EQ(情動的知能)を高めることです。

《SIY》には、情動を統制することができるようになるための練習があります。

その練習方法は、《シベリア北鉄道》とよばれているプロセスで、グーグル式のマインドフルネスを学んだ人々のあいだで、よく活用されています。

この方法は、過去の出来事からおこるネガティブな情動(トリガー)が湧いてきたときに使います。

『Stop(停止する)』『Breathe(呼吸する)』『Notice(気づく)』『Reflect(よく考える)』『Respond(反応する)』という五つのステップをつうじて、トリガーに対処します。

五つの語から頭文字をとって《SiBerian North RailRoad(シベリア北鉄道)》という語呂合わせをつくったのです。

まず『停止する』というステップは、トリガーを感じたときには、すぐに停止する、ということです。

それから『呼吸する』で、心を呼吸に集中させます。

『気づく』では、注意を体に向けることによって、体の中で情動がどのように感じられているのか、ということを経験します。

トリガーが引きおこされたときには、緊張や、体温の変化がおこります。

そのあと『考える』のステップで、大局的な見方から考えます。

最後に『反応する』のステップでは、目の前の状況にポジティブな結果をもたらすような反応のしかたを思い浮かべます。

これらの手順で、ネガティブな思いに対処するのです。

【まとめ】

メンは、瞑想を実社会に普及させるために、実践しやすいマインドフルネスのプログラムを構築しました。

グーグルのマインドフルネス・プログラムは、同社の社内だけではなく、そのほかのビジネスマンも、簡単に活用することができるようなメソッドである、ということがわかります。

彼は『SIYは単純な夢として始まった。

その夢とは、世界平和だ』と語っています。

彼の理想は、瞑想の普及活動をつうじて、だれでも、皆が、自己のこころを育むことができるようにする、ということです。

世界平和といっても、規模が大きすぎるため、実感が湧かない方々もいるかもしれません。

しかし、われわれも、情動をコントロールすることによって、自己の心や、周囲の人々とのあいだに平和をもたらすことはできます。

職場でも、そのようなEQの活用のしかたをしているならば、仕事の成果や、利益の向上は、おのずからついてくるだろうと思います。

kunitada
執筆者

『文化的なことを記事にする』という目的をもって、ライターをしています。2021年に、マインドフルネススペシャリスト資格を取得。その時期のご縁から、マインドフルネスや心理学について執筆する機会をいただくこととなりました。ふだんは、美術や文学についての文章も書いています。

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