創造性とは,問題における新しい,または独創的な考えや結びつき,解決策を発見することを意味します。学校の教科のテストで,授業に教わって覚えたことを思い出すことは創造的であるとは言えません。すでに持っている情報から,今までにない,新しい答えを導き出すことが創造的であると言えます。
試しに1つ創造的思考をするとしたら,ペンとミカンを使ってこの世に存在しない,新しいものを作るとしたら何を作りますか?誰か有名人にサインをしてもらって,「有名俳優○○さんサイン入りミカン」とかどうだろうなぁと考えている,その時まさに創造的思考をしています。
よく「0→1」か「1→100」か,という話があります。何もないところから新しいものを作り出すのが得意か,育てて大きくするのが得意かという趣旨ですが,創造性に関する心理学の研究を見れば,「0→1」を作り出せるのは天才タイプしかいないのではと考えることがなくなるはずです。なぜなら創造的思考をするには手順があり,手ごろな行動・考えで創造性をアップできることが分かっているからです。
今回の記事では,心理学という文脈の中での「創造性」の定義や過程,構成要素に触れた後,どのようにすれば創造的思考をすることが出来るのかを具体的な方法も出しながら述べていきたいと思います。具体的な方法に関して参考文献も掲載します。本記事では,概要をさらうだけになると思いますので,興味を持たれた方は掲載する書籍を手に取られることをおススメします。
創造性とは
創造性とは問題における新しい、または独創的な考えや結びつき、解決策を発見する能力のことと定義されます。創造的思考とよく似た概念に、生産的思考と言うものがあるが、生産的思考は問題解決手段が新しい場合に使われます。創造的思考は手段が新しいだけではなくその結果も新しく独自性があるものの場合に使われます。
心理学の歴史の中では創造性は知性の1要素であると考えられてきました。例えばギルフォードは認知能力を多面的に測定する過程において、収束的思考と拡散的思考に区別できる事を提唱しています。
・収束的思考
収束的思考とは事前に答えが用意されている正解を与えられた情報から求める思考のことを意味します。
数学の問題を解く際に授業で習った公式を用いるや国語の作文の問題を解くためによく使われている言い回しを使うなどが例として挙げられます。
・拡散的思考(発散的思考)
拡散的思考とは与えられた情報から新しい情報を作り出す思考のことを意味します。ある問題を解決するためにできるだけ多くの解決策を考えるや他には既にある製品をどのように改良すれば便利になるかを考えるなどが具体例として当てはまります。
創造性は後者の拡散的思考に該当します。ギルフォードは認知能力を多面的に測定する知能検査において拡散的思考能力に関連する要素を6つ挙げています(1)。それを以下に示します。
1.問題を見つけ出す能力
2.思考の円滑さ
3.思考の柔軟さ
4.思考の独自性
5.再構成する能力
6.工夫する能力
この家円滑さ、柔軟性、独自性は拡散的思考に位置づけられていると考えられています。
他の研究者の創造性の定義を見てみると、トーランスは物事の欠けている部分を認識し、それに関する考えまたは仮説を形作り、その仮説を検証し、何か新しい独自のものを生み出すことであると定義しています(2)。
これらの創造性の構成要素と定義付けの共通点を考えると,新しい物を既存のもので作り出すことであることが分かります。
ではどのようにして創造的なものは生み出されるのでしょうか。
(1)Guilford, J.P. (1959) Traits of Creativity. In: Anderson, H.H., Ed., Creativity and Its Cultivation, Harper & Row, New York, 142-161.
(2)Torrance, E. P. (1962). Guiding creative talent. Prentice-Hall, Inc.
創造性の4ステップ
創造的思考は何か新しいものを産出するだけでは事足りず(定義上適いますが),拡散的思考だけでなく,収束的思考も関係します。ただただ新しい考えを生み出すだけでは,創造的思考にはならず,その作り出したアイデアを絞り込む作業も必要とされています。
英国の心理学者グレアム・ワラスは1926年の著作「The Art of Thought」のなかで,創造的思考を4つの段階(準備・孵化・啓示・実証)に分けることができると主張しています(1)。
1. 準備期(情報を収集を行う)
問題の所在を明らかにする,そしてその問題を解決するための情報を収集するという創造的思考をするにあたっての準備をする。
2. 孵化期(考えを温める)
準備期に収集した情報について考える,考えるのを休止する。準備期と啓示期の間を指し,外見上は何も行われていないが,徐々に解決に近づいている。
3. 啓示期(アイデアが思いつく)
最初に問題を解決できたと思う時を指します。突然解決策がひらめいた段階で,この主観的な体験を「アハー体験」と言います。
4. 実証期(批判的に評価する)
この段階では,拡散的思考よりも収束的思考が重要です。啓示期にひらめいたアイデアに対して,批判的に考える段階で,発想を具体的にしていく。
この4つの段階で面白いのが孵化期(考えを温める)で創造的思考をするには情報を多く収取するような直感的に分かりやすい行動とは違い,一度問題から離れることの重要性を教えてくれます。
2004年にリューベック大学の教授であるウルリッヒ・ワグナーさんらが睡眠とテストの成績に関する実験(2)を行いました。対象となったのは、リューベック大学の大学生66人で、実験参加者を3つのグループに分け、時間を空けて90問の数列問題を2回解いてもらいました。その3つのグループというのは以下の通りです。
<グループ1>
夜に1回目のテストを行い、8時間の睡眠を取り(23:00~7:00)、朝に2回目のテストを行う
<グループ2>
夜に1回目のテストを行い、徹夜をし(23:00~7:00)、朝に2回目のテストを行う
<グループ3>
朝に1回目のテストを行い、日中起きて(11:00~19:00)、夜に2回目のテストを行う
この数列問題は基本的に7つの手順で解けるようになっています。しかし実は簡単に解ける方法も存在して2回目のテストをしたときにどのグループがその方法に気付くかを調べました。つまり,簡単な方法を思いつけば問題をすぐに解けるようになっているのです。どれくらい違うかというと,普通に解くと約10秒ほどかかりますが,簡単に溶ける方法を用いると2秒ほどで解けるようになっています。
その結果,十分に睡眠を取ったグループ1はグループ2・3に比べて簡単な方法に気付く確率が高く,正答率に関しても他のグループよりも高かった。この結果は問題解決をする上で,睡眠や休憩時間を取ることが孵化期を確保することになることを示唆しています。
(1)The Art of Thought: Graham Wallas on the Four Stages of Creativity, 1926 (Brain Pickings)
(2)Wagner, U, et al. (2004). Sleep inspires insight. Nature, 6972, 352-355.
( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14737168)
アイデア創出に必要な14の要素
ここまで創造的思考とはどのようなものなのか,その過程について述べ,どのような課題によって創造性を汲み取るのかについても触れました。ではその創造性を発揮するとき,アイデアを出す際に必要な要素は心理学の研究でわかっているのでしょうか。
ケント大学のビル・ケアーさんらは,50年以上にもわたる出版された数千の記事の中で創造性について解説しているもの,さらに100本以上の創造性に関する論文から,単語を抽出・分析しています(1)。その結果,創造的な発想を生み出すためには、14の要素が重要であると報告しています。その14の要素を以下に羅列します。
・積極的な行動と我慢
やはりいいアイデアはすぐに出ることは少なく,創造的なものを生み出す努力を続けないといけません。解決しなければならない問題を通して,途中で投げ出すのではなく,向き合い続ける忍耐強さが必要です。
・不確実性に対する柔軟性
不完全な,完結しない情報にうまく対処する必要があります。あまりにもルールを課してしまうと自由な発想が阻害されてしまいます。いつも決まったような行動(ルーティンetc)や確立された方法や解決策に頼らないことが重要です。
・特定ジャンルの能力
ある特定の領域に特化した知性や知識,スキルや才能は他の領域との差異があることを認識するのに役立ちます。その専門的な手法や考えを別の領域に適応することによって新しいアイデアになる可能性があります。
・全体的な知性
一般的な知性,言い換えると賢いことも創造性の要素として挙げられます。またこれは精神が健康的であることも含みます。
・結果の生成
最終地点,ゴールに向かって働きかけているかも重要です。成果物を出すことは創造することの前提条件になります。
・自由と独立
行動や意思決定をするにあたって自立性を持って行うことが大事です。前例や慣習に囚われることなく,考え動くことが創造的な活動を生み出します。
・意図と感情の関与
個人的,感情的な面も創造的な活動に影響を与えます。独自的な思考は満足感や幸福感などのポジティブな要素が関わることで生まれます。
・オリジナリティ
独自性は今まで関連がなかったもの同士を結び付け,予想だにしない,普通でない,新しいものを生み出しますことを促進します。
・前進と発達
ゴールを目指して進むことは全般的な成長を表すわけではありません。どこか得意な部分だけ大きく進歩するかもしれません。その部分が創造的になる可能性を秘めています。
・社会的な交流とコミュニケーション
良好な人間関係に基づくコミュニケーションは創造的思考を掻き立てます。人間関係における相互作用やフィードバックは創造性にプラスに働きます。
・無意識の反応
全ての考えと行動をコントロールする必要はありません。より多くの時間を思考に充てる必要はなく,意識していないところで分析が行われ,創造性を発揮することもしばしばあります。
・価値の評価
意識的に自分が出したアイデアの価値を認識するために思考過程の中で行った選択に評価を下すことで,どの選択肢が正しいのかを理解する必要があります。
・社会への貢献
他の人に価値がある,業績・影響力があると認識されていふ貢献は誰でもできない特別なことと認識されます。
・多様性の実験
バイアスを乗り越えてオープンに比較する,選ぶためのさまざまな沢山の選択肢を生み出すことは創造的な活動につながります。創造的な過程はシングルタスクではなく,マルチタスクということでしょう。
これらの14の要素が創造的思考に大きく関与するわけですが,このリストはいわゆるチェックリストとして使うことをおススメします。新しいアイデアを考えるときには,そこにこのリストと相反する考えが創造的思考を阻害していないかを確認すると有用でしょう。
(1) Jordanous A, Keller B (2016) Modelling Creativity: Identifying Key Components through a Corpus-Based Approach. PLOS ONE 11(10): e0162959.
(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0162959)
創造的な人のパーソナリティ
創造的な人とはどのような人でしょうか?今パッと頭に思いついたのはお笑い芸人でした。他にも芸術家や音楽家,研究者など新しい物を生み出している人は創造的な人と言えるでしょう。
ではそのような人たちに共通するパーソナリティー(性格)は何でしょうか?既存の考え方にとらわれない、楽しいことが好きなど様々あると思いますが、ここでは心理学的に解釈したときの共通点について述べたいと思います。
心理学では個人を特徴づける一貫した行動様式のことを性格といいます。性格を表現する上で立場が大きく2つに分かれます。
それは性格特性論と性格類型論です。
・性格特性論
性格特性論は一貫して出現する行動傾向大特性と定義し、各特性の組み合わせによって個人の性格を記述するものです。
例えば、特性が5点満点であり,ある人物が明るさ2で、喋りやすさ3であれば、その人の性格は「普通よりは暗くて、普通ぐらい喋る」になります。
・性格類型論
性格類型論は典型的な性格をいくつか設定し、そこに分類する形で人の性格を記述しようとするものです。
例えば、AタイプとBタイプがあり、この人は元気でよくしゃべるから「Aタイプ」と言う表現の仕方になります。
この性格特性論に基づいている作成されたのがビッグ・ファイブ (Big Five)になります。ビッグ・ファイブは人間の性格は5つの要素から構成されるという考えが基にあり、そのスコアでその人の個性を表したものです。またこの理論は過去の研究で使われてきた、性格を表す言葉を集めて5つの要素にまとめたと言う点で非常に総合的で信頼性が高いものと考えられています。
ここでは性格特性論の性格5因子を用いて,創造的な人がどのような人か述べていきたいと思いますが,それぞれの特性についての特徴を知る前にぜひ読者の皆さんには実際に性格5因子の質問に答えていただき,自分自身の性格を知っていただきたいと思います。本来であれば,かなり長い質問事項に答えなければならないのですが,いまは短縮版の性格5因子の質問が編み出されていまして,そちらの方に回答いただきたいです。以下の10個の質問に何も深く考えず,0(自分にまったくあてはまらない)〜4(自分に完全にあてはまる)の5段階の点数をつけてください。
・性格5因子
- 初対面の人に会うのが好きで,会話をするのが好きで,人と会うことを楽しめる。
- 人に対して思いやりがあり,実際に行動に移し,他人を差別しない。
- しっかり物事をこなし,要領よく行動し,適切に物事を行う。
- 常に心配事があり,不安になりやすく,気分の浮き沈みが多い。
- 知的な活動が得意で,好奇心があり,新しいことが好き。
- 恥ずかしがり,あまり話さず,人が多いのが嫌い。
- 思ったことをすぐに口に出し,冷たい部分があり,他人に同情しない。
- 考えず行動し,きっちり行動はせず,ぎりぎりまで物事に手を付けない。
- 大抵リラックスしており,落ち着きがあり,悩まない。
10,現実主義で,伝統的なものを好み,空想に時間を使わない。
・採点方法
性格5因子の質問6〜10につけた点数を、次のように変換する。0 → 4, 1 → 3, 3 → 1, 4 → 0。上で変換した点数を、以下のように足し合わせる。
質問1+6=外向性
質問2+7=協調性
質問3+8=誠実性
質問4+9=神経症傾向
質問5+10=開放性
5つの特性それぞれが皆さんの性格特性の得点となります。ではそれぞれの性格特性が何を表しているのか,その得点が高いこと,低いことが何を意味するのかを説明します。
1.外向性
他の人からの刺激や一緒にいることを求めるかどうか
(高)明るい性格で、人と交流する
(低)1人で過ごし、人と一緒にいると疲れる
2.神経症的傾向 (Neuroticism)
ストレスを受けやすく心配性の傾向があるかどうか
(高)心配性で、気分の波が激しい
(低)穏やかで冷静で、気分の変動が少ない
3.誠実性 (Consciousness)
ルールや計画を好み自己コントロール能力が高いかどうか
(高)順序立てて、計画通り進める
(低)非現実的で、アイデアを好む
4.調和性 (Agreeableness)
人を協力、信頼し他者に共感できるかどうか
(高)人付き合いがうまく、共感能力が高い
(低)現実的で、疑い深い
5.開放性 (Openness)
創造力を持ち、新しいことが好きかどうか
(高)変化、冒険を楽しむ傾向がある
(低)変化のない日常生活、習慣を好む
いかがだったでしょうか。皆さんの性格はどの性格特性が高くて,低いのか,これで理解できたと思います。ちなみに自分は4年前に質問紙に答えたときは神経症的傾向と誠実性が高かったのですが,いま同じ質問紙に答えると,外向性と誠実性と開放性が高いという結果になります。性格5因子の質問紙は行動と考えについて質問項目が作成されているので,行動と考えが変わると性格特性の点数は変わります。
性格5因子と他の精神疾患や行動パターンの傾向の相関関係(因果関係ではありません)を調べた研究は山ほどありますので,どの性格特性が高いかでその人の考え方や行動パターンがある程度予測できたりします。今回は創造的な人に焦点を当てます。
・開放性
創造的な人は開放性の得点が高い傾向にあります(2)。開放性は上記に示した通り,創造力を持ち、新しいことが好きかどうかを表しています。アイデア創出には開放性が大きく関わってくることは疑いようがないでしょう。
- 神経症的傾向
もう1つ大きく関わってくるは神経症的傾向です。神経症的傾向はストレスを受けやすく心配性の傾向があるかどうかを表しています。一見関係がないように見えますが,先行研究を見てみると創造性と神経症的傾向は切り離せない関係にあることが分かります。
神経症的傾向が高い事は精神的な病気にかかりやすく、危険が伴う活動について著しくパフォーマンスが下がる傾向にあります。
2016年に中国科学院のジン・チャイさんが自動車事故とネガティブなものに対する反応に関する実験を行いました(3)。対象になったのは一般ドライバー38名で、まず実験参加者を2つのグループに分けました。その2つのグループとは以下の通りです。
<グループ1>
15名のドライバーを6ポイント以上の交通違反を犯していた
<グループ2>
23名のドライバーを3ポイント以下の交通違反を犯していた
その後実験参加者には脳波 (EEG : Electroencephalograph) を図る装置を付けてもらい、2種類の20枚の写真を見てもらいました。脳波とは脳の電気活動を人間の頭皮上に載せた電極から受け取ったものを脳波計で増幅し、記録したものです。その写真とは以下のようになっていました。
<写真1>
イス、デスクなどの中立の写真
<写真2>
ヘビ、怪我をした子どもなどのネガティブな写真
そしてそれぞれの写真に対する反応と運転履歴の関連性を分析しました。さて交通違反が多い人にはどのような脳の動きを見せたのでしょうか?
実験の結果、危険運転をした履歴のあるグループ2はグループ1よりネガティブの写真に対して強い反応を示す傾向がありました。またグループ2はネガティブな写真を見せられているときに脳波計で情報処理とって重要な脳の部分の活性化が抑えられていることが確認されました。この実験ではネガティブな事柄に強い反応を示す人は関係のない情報を抑制する力が低下してしまうことが示されました。普段から物事のマイナス面に目が行くことで他の情報処理が働かなくなり、事故に遭う確率が高くなるのではないかと考えられています。
このようにネガティブな情報や刺激に通反応示す人は負の側面があることがわかっています。
しかし創造性と神経症的傾向に着目した研究によれば、神経症的傾向が高い人は創造的な思考をすることができることを示しています。
なぜなら不安になりやすい人は直面する問題に他の人よりも深く考える傾向があるからです(4)。
物事について深く考える事は上記の創造性に必要な14の要素の中の積極的な行動と我慢に該当し、創造的思考をする上でプラスに働きます。
因果関係ではありませんが相関関係を示した調査を羅列すると以下のような研究があります。
1.ドイツで行われた257名のプロの芸術家を対象に行われた調査では、芸術家は一般人に比べて神経症的傾向が高い(5)
2.この傾向は芸術家にとどまらず、広告産業で創造的な役割や役職をこなしている日本人であってもそうでない授業に比べて神経症的傾向が高い(6)
3.精神的な病気や自殺の平均的なリスクが創造的な活動を仕事とする人たちに多い(7)
なぜ神経症的傾向の高い人が創造的な思考をすることが得意なのかについては様々なメカニズムが考えられ、説明が行われています。
ここまで創造性を生み出す要素や創造的な人のパーソナリティーについて記述してきました。創造性がどのような要素からなっており、なにが不可欠な要素なのかが共通点から見えてきたと思います。
それは1つの事柄に固着するのではなく、思考に広がりを持たせることの重要性や問題に我慢強く取り組む忍耐力など、相反するような特徴を持ち合わせていながらも創造性はかみ合っている様相を呈していました。
それは創造性が段階的に分解して考えることのできる過程を踏んでいるからです。次のセッションではどうすれば創造性を高めることができるのかについて,場所と行動の2点の具体例を出して述べていきます。
(1)Chamorro-Premuzic T, Reimers S, Hsu A, Ahmetoglu G. Who art thou? Personality predictors of artistic preferences in a large UK sample: the importance of openness. Br J Psychol. 2009 Aug;100(Pt 3):501-16.
(2)パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる
(3)Chai, J., et al. (2016). Negativity Bias in Dangerous Drives. PLoS ONE, 1, 1-15.
(https://www.pnas.org/content/116/38/18888)
(4)Smallwood, J. and Schooler, J.W. (2015) The science of mind wandering: empirically navigating the stream of consciousness. Annu. Rev. Psychol. 66, 487–518
(The Science of Mind Wandering: Empirically Navigating the Stream of Consciousness | Annual Review of Psychology (annualreviews.org))
(5) Go¨tz, K.O. and Go¨tz, K. (1979) Personality characteristics of successful artists. Percept. Motor Skill. 49, 919–924
(Personality Characteristics of Successful Artists – Karl Otto Götz, Karin Götz, 1979 (sagepub.com))
(6) Gelade, G.A. (1997) Creativity in conflict: the personality of the
commercial creative. J. Genet. Psychol. 158, 67–78
(Creativity in Conflict: The Personality of the Commercial Creative: The Journal of Genetic Psychology: Vol 158, No 1 (tandfonline.com))
(7)Kyaga, S. et al. (2013) Mental illness, suicide and creativity: 40-year
prospective total population study. J. Psychiatr. Res. 47, 83–90
(Mental illness, suicide and creativity: 40-Year prospective total population study – ScienceDirect)
散らかった部屋で作業をする
考え出されたアイデアが独創的なものかの基準は今までにない新しい関係を見出し、そこから新たなものを生み出すかが重要になってきます。
そのような場面では物事の垣根を越える拡散的思考が求められることは前述しました。ではどのような場所に身をおけば,創造的思考が出来るようになるのでしょうか。身の回りの環境は拡散的思考にどのような影響を与えるのでしょうか。
2013年にミネソタ大学のジョセフさんらが場所が創造的思考に与える影響についてある実験(1)を行いました。
対象となったのはアメリカの大学生48名で、まず実験参加者を2つのグループに分け別々の実験室に来てもらいました。その2つのグループとは以下の通りです。
<グループ1>
片付いた部屋に行く
<グループ2>
片付いていない部屋に行く
そして代替用途課題(AUT)を行ってもらいました。その後考え出されたアイデアがどれだけ創造的なのか評定されました。
その結果、散らかった部屋でアイデアを出したグループ2はグループ1よりも自分の案をより創造的だと評定した。また他者評価においても片付いていないグループ2のアイデアの方がより創造的だと評定された。
先行研究でも創造的になることは伝統や規律,慣習から離れることであると考えられており(2),散らかった部屋は創造性課題を遂行する人の思考を促進させた可能性があります。
この論文の実験3では,散らかった部屋の方ときれいな部屋では,古典的なものと新しいものへの志向性が変化するのかも検討が行われています。結果を見てみると,整頓された部屋では古典的なラベル付けがされたものを好み,散らかった部屋では新しいものを好む傾向があることが分かっています。
このように散らかった部屋と創造性との結びつきが示されていますが,負の側面もあります。それは汚い部屋に身を置くと,健康的でない食事をするようになり,寛大でなくなってしまうことです。
対象となったのはオランダの大学生34名で、まず実験参加者を2つのグループに分け別々の実験室に来てもらいました。その2つのグループとは以下の通りです。
<グループ1>
片付いた部屋に行く
<グループ2>
片付いていない部屋に行く
その後、慈善活動の寄付としていくらのお金を出せるのか、そして食べ物の寄付としてチョコレートか、りんごのどちらを選ぶか選択してもらいました。
その結果、整った部屋で考えたグループ1に比べてグループ2に比べてより多くのお金を寄付し,グループ1はグループ2に比べてより健康的な食べ物であるりんごを寄付すると選択したのです。
これらの結果を踏まえると、部屋は行う活動や思考によって使い分けた方がいいのかもしれません。
創造的な思考をしたい場合には散らかった部屋で思考し、健康的な食事をしたい場合には整った部屋で食べるのが良いのではないでしょうか。
散らかった部屋に身を置くことは何を意味するでしょうか。もし部屋が整頓されていないことで注意が反れていた可能性は十分に考えられます。
実際に注意欠如・多動障害(ADHD)の大人はそうでない大人よりも創造的であることを示す研究があります(3)。 注意欠如・多動障害(ADHD) の人が創造的である説明は集中力の低さにあるのではないかと言われています。集中力の低さがゆえに拡散的思考をすることにつながり,創造性を発揮できると考えられているのです。
以下に注意欠如・多動障害の症状をまとめたリストを提示しておきます。
DSM-IV-TRでの不注意および多動性一衝動性の症状(4)
<不注意>
1.学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば深く注意することができない、または不注意な間違いをする
2.課題または遊びの活動で注意を集中し続けることがしばしば困難である。
3.直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える
4.しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない
5.課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
6.精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける
7.課題や活動に必要なものをしばしばなくしてしまう。
8.しばしば外からの刺激によってすぐ気が散ってしまう。
9.しばしば日々の活動で忘れっぽい。
<多動性>
1.しばしば手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする。
2.しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。
3.しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり高い所へ上ったりする
4.しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
5.しばしば「じっとしていない」、まるで「エンジンで動かされるように」行動する。
6.しばしばしゃべりすぎる。
<衝動性>
1.しばしば質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう。
2.しばしば順番を待つことが困難である。
3.しばしば他人を妨害し、邪魔する。
(1)Vohs, K. D., Redden, J. P., & Rahinel, R. (2013). Physical order produces healthy choices, generosity, and conventionality, whereas disorder produces creativity. Psychological Science, 24(9), 1860–1867.
(https://psycnet.apa.org/record/2013-33157-030)
(2)Dollinger, S. J. (2007). Creativity and conservatism. Personality
and Individual Differences, 43, 1025–1035.
(https://www.psychologytoday.com/files/u81/Dollinger__2007_.pdf)
(3)White, H. A., & Shah, P. (2011). Creative style and achievement in adults with attention-deficit/hyperactivity disorder. Personality and Individual Differences, 50(5), 673-677.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S019188691000601X)
(4)What Is ADHD? – American Psychiatric Association
(https://www.psychiatry.org/patients-families/adhd/what-is-adhd)
取り組む課題を切り替える
2017年のコロンビア大学のジャクソン・ルーさんらが行った研究では、作業を切り替えることで創造性を高めることができることを示しています。
課題を切り替える事は日常の中で多々あると思いますが、先行研究ではその負の側面について触れられています。例えばアメリカの若者の課題の切り替えに費やしている時間について調べた調査では、宿題と他の活動の切り替えの間の時間の約60%がメールやSNSを使使われていることが分かっています(1)。
他にも作業を切り返す事には負の側面があります。それは以下のようになります。
・間違いが増える(2)
・ド忘れを誘発する(3)
・文章の量・質を低下させる(4)
このように作業を切り替える事についての負の側面に今までの研究は焦点を当てることが多かったのですが、今回取り上げる研究はそのマイナスの影響が大きい作業の切り替えにもプラスの側面があることを教えてくれます。
実験に参加したのは126名で、8分間創造性課題を2つ行ってもらいました。
この研究で使われた創造性課題は代替用途課題(AUT)と呼ばれるもので,ある物体の別の用途を考える課題です。
例えば、レンガでお題であるならその用途をできる限り多く回答してもらう課題です。
つまり、「家を作る」ではなく、「カナヅチとして使う」や「文鎮として使う」などが代替用途課題の回答の例として挙げられます。
代替用途課題の回答は以下の3つの評価項目で、その回答が創造的であるかが決められます。
1.柔軟性
カテゴリーに分けた時の個数
2.特異性
用途がどれだけ特異的か
3.実用性
回答された用途が役に立つか
4.流暢性
回答された個数
実験参加者は無作為に3つのグループに分けられて、代替用途課題のお題を2つこなしてもらいました。グループの内容は以下の通りです。
<グループ1>
4分間1つ目のお題について考えて、残りの時間は2つ目のお題について考える
<グループ2>
事前に決められた時間間隔で定期的に2つのお題を行き来する
<グループ3>
自分の意思で取り組むお題を切り替える
このようなタスクの切り替えのみで創造的な思考に違いは出るのでしょうか。結果は事前に決められた時間間隔で取り組む作業を切り替えたグループが他のグループよりも創造的な回答をすることができました。
より具体的に見てみるとグループには他のグループよりもより柔軟に、突飛なアイデアを出すことができました。しかし1つ欠点があって、グループには出されたアイデアが実用的かどうかと言う評価基準に関しては他のグループより劣りました。
この結果からわかる事は作業を切り替えることで創造的思考が促進されること、そして切り替えるタイミングは自分の意思ではなく事前に決めた方が良いと言うことです。
なぜこのように作業の切り替えをした方が創造的な思考することができるようになったのでしょうか。1つの説明として「機能的固着」を防ぐことができたからだと言えるでしょう。
機能的固着とは道具の用途についてその典型的な使い方に固執してしまい、別の要素を考えなくなってしまう事を意味します。
1942年にアメリカの心理学者ルーチンスは水瓶問題を用いて人間の機能的固着を明らかにしています。水瓶問題は以下のような問題です。
・水瓶問題1
21クォート(1クォートは約0.95リットル)、127クォート、3クォート入りの空の水瓶を用い、100クォートの水を作りなさい。
この問題は、127クォートの水瓶を水で満たし、そこから21クォートの水瓶で1杯、3クォートの水瓶で2杯汲み出せば、127クォートの水瓶に必要な100クォートが残る、という方法で解くことができる。
ではもう1つ出します。
・水瓶問題2
15クォート、39クォート、3クォート入りの空の水瓶を用い、18クォートの水を作りなさい。
この問題は、15クォートと3クォートの水瓶を水で満たし、それを39クォートの水瓶に移し入れればできます。
ルーチンスは大学生を対象とした実験で、実験参加者の約81%が複雑な問題を解いた後では、より簡単な直感的に解ける優しい問題であっても、以前に解いた複雑な問題の手法を踏襲して解こうとすることを明らかにしています。
また複雑な問題を事前に解くことがなかった場合においてはほぼ全ての学生が単純な問題を直感的に素早く解くことができました。
ルーチンスはこれを構えの効果と呼んでいます。
事前に難しい問題を解くことで、問題に対する心構えが形成されてしまい、より素早く簡単に解く方法があるにもかかわらず、それに気づきことができなくなってしまうのです。
この構えの効果はうまくいく方法を経験的に学習し外に適応すると言う有用であることは間違いないですが、創造的思考と言う面においては幅広い可能性を見えなくしてしまう負の側面もあります。
今回の課題を切り替えることで創造的思考を高めることができるのはこの機能的固着を防ぐことができ、自分の発想に制約をもたらすことを回避できるからだと考えることができるでしょう。
思考や行動のスイッチで創造性が喚起されるのであるならば,意図的に思考や行動を切り替えることで独創的になれるかもしれません。そこで提案したいのが,6つの帽子思考法です(1)。6つの帽子思考法とは6つの帽子をかぶり変えることで物事を多角的に分析する思考法のことです。具体的にそれぞれの帽子がどのような意味合いを持っているのか以下に示します。
・白い帽子
客観的・中立的な視点を持って,事実・データについての述べる
白い帽子を被っている時には,テーマに関する事実やデータに基づき,発言を行います。考えるべき議題に不足している情報について意見を述べるのは良しとされます。
(例)「20××年の統計によれば,△△は〇〇よりも数が2倍多い。しかし,△△と□□については調査が足りておらす...」
・青い帽子
分析的・俯瞰的な視点で,議論の管理を行う
青い帽子を被っている時は,議論全体の流れを把握しなくてはなりません。議論全体の方針や確認事項,どのように意思決定をするのかを,冷静に判断します。
(例)「まずみんなで意見を出し合いましょう。それからその意見について隣の人が功罪を述べる。その後,メリットが多いものを3つ挙げて最終的に1つに絞りましょう。」
・赤い帽子
感情的・直感的な視点から,感情的な意見を出す
赤い帽子を被っているときは,テーマについて「うれしい」「ワクワクする」「つまらない:などといった感情に焦点を当て,論理的な発言を避けるようにします。
(例)「それはすごくワクワクするね!本当に面白いと思う!でも準備がすごく大変そうで,すこし嫌だな~。あとは全然大丈夫って感じ!」
・黄色い帽子
積極的・希望的な視点に立ち,議論の楽観的な部分を見つける
黄色い帽子を被っている時は,議論のポジティブな面に目を向けて,楽観的な意見をするようにします。ネガティブな部分にはなるべく触れないようにしなければなりません。
(例)「この意見は確かにコストはかかるけど,誰でも考えられるアイデアじゃないと思う。より多くの人を巻き込めるし,今までにないものになると思うよ!」
・黒色の帽子
批判的・消極的な視点で,議論の落とし穴について考える
黒い帽子を被っている時には,黄色の帽子とは正反対で,議論のネガティブな面に焦点を合わせて物事の矛盾点や不安材料,リスクについて言及します。
(例)「この時期には〇〇の数値は▽▽にまで上昇すると言われているが,今年は前月を見ると,違う傾向を示しているのでは?前年度の数値を当てにしていいとは思えない。」
・緑色の帽子
革新的・創造的な視点から,あらゆる可能性を考えて,アイデアを出す
緑色の帽子を被っている時には,議論をより良くするための改善案を提案します。制約なく,あらゆる可能性を考慮して,自由にアイデアを出すことが求められます。
(例)「いまその問題に詰まっているなら,△△って可能性も考えられない?そうすれば,〇〇ってことが出来るんじゃないかな?やってみる価値はあると思うよ。」
これらの帽子は6人それぞれで役割を分担してもいいですし,1人で考える際に,帽子を被り変えてもいいとされています。議題を上げてぢ論をするとき,人は自分の出した意見に固執し,頑なに意見を変えないようになってしまうことがあります。しかし,意図的にその意見を変えることで(帽子の色という視覚的にも),自分の考えを違う視点から見ることが出来るようになります。
(1)Edward de Bono Website
(https://www.debono.com/)
(2)6つの帽子思考法 ――視点を変えると会議も変わる (フェニックスシリーズ)https://www.amazon.co.jp/-/en/Edward-Bono/dp/0316178314/ref=sr_1_1?crid=8DXTPEHSZOH4&keywords=six+thinking+hat&qid=1642987474&sprefix=six+thinking+hat%2Caps%2C208&sr=8-1
(1)Foehr, U. G. (2006). Media multitasking among American youth: Prevalence, predictors and pairings. Henry J. Kaiser Family Foundation.
(https://www.kff.org/other/media-multitasking-among-american-youth-prevalence-predictors/)
(2)Monsell, S. (2003). Task switching. Trends in cognitive sciences, 7(3), 134-140.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1364661303000287)
(3)Einstein, G. O., McDaniel, M. A., Williford, C. L., Pagan, J. L., & Dismukes, R. (2003). Forgetting of intentions in demanding situations is rapid. Journal of Experimental Psychology: Applied, 9(3), 147.
(https://www.wikidata.org/wiki/Q48575706)
(4)Foroughi, C. K., Werner, N. E., Nelson, E. T., & Boehm-Davis, D. A. (2014). Do interruptions affect quality of work?. Human factors, 56(7), 1262-1271.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25490806/#:~:text=Our%20research%20suggests%20that%20interruptions,other%20tasks%20are%20negatively%20impacted.)
まとめ
今回の記事では,創造的思考についてまとめました。皆さんはどうすれば創造的であるのかについて詳しくなれたでしょうか。今後何か新しいアイデアを考えるときには自分は創造的思考のどの段階なのか(創造の4段階説),創造性的思考をするうえで相いれない要素が入ってきていないか(創造性の14要素)を思い出しながら独創的な考えを進めることが出来るはずです。後半は場所と行動に焦点を当てて,創造性を高める方法を提示しました。ぜひお試しください。
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