便秘や腸内環境の改善、ダイエットなどのために、食物繊維を摂取することを意識している人は多いのではないでしょうか?
「難消化性デキストリン」は食物繊維のサプリメントや健康食品などに多く用いられる成分の1つです。
体に良いといわれる食物繊維や難消化性デキストリンですが、「肝臓に悪い」「やばい」などの情報も見かけます。実際のところどうなのでしょうか?
こちらの記事では、難消化性デキストリンの特徴や効果、肝臓や発がん性との関連、デメリットなどについて解説します。
病院勤務5年、保育園勤務12年。現在は病院で勤務しています。SNSやネットなどで食の情報がたくさんありますが、正しい食の知識を発信し、みなさんの健康に少しでも役に立てるようようにしていきたいです。
難消化性デキストリンとは
そもそも、難消化性デキストリンとはどのようなものなのでしょうか?
難消化性デキストリンとは、その名の通りヒトの消化酵素によって消化するのが難しい、難消化性のデンプンの分解物です。トウモロコシのデンプンに微量の塩酸を添加し、焙焼した後、アミラーゼ(デンプンを分解する消化酵素)で加水分解して作られます。その中から難消化性成分を抽出し調製したもの、すなわち水溶性食物繊維が難消化性デキストリンです。
このようにして作られた難消化性デキストリンは、低粘性かつ低甘味で溶けやすいという特徴を持っています。水に溶かすとほぼ透明になり、耐熱性や耐酸性にも優れている食品素材といえます。
また、難消化性デキストリンは、アメリカ食品医薬品局(FDA)や日本の消費者庁からも安全な食品素材として認定されています。日本においては特定保健用食品(トクホ)の関与成分としても許可されており、2012年から販売されています。
主な効果
難消化性デキストリンには、主に5つの効果があります。
1つ目は、腸の動きを促進することです。難消化性デキストリンが腸内で善玉菌のえさとなることで、善玉菌が増えるため、腸の動きが促進すると考えられています。
2つ目は、腸内環境を整えることです。これは腸内に善玉菌が定着しやすくなるためです。腸内環境が整うことで、脂肪の吸収スピードを遅らせ、食後の中性脂肪値の上昇を抑制するのにつながります。さらに、便のかさを増加させることで、ちょうど良い硬さに保ちます。
3つ目は、糖分の吸収スピードを遅らせることです。これにより、食後の血糖値の上昇を抑制できます。
4つ目は、内臓脂肪の蓄積を低減する作用があることです。12週間、難消化性デキストリン10gを1日3回食事と一緒に取り続けたことにより、内臓脂肪面積が減少したという研究データが報告されています。
5つ目は、ミネラル吸収の促進作用があることです。かつて食物繊維はミネラルの吸収を阻害するものだと認識されていました。しかし、低粘度で腸内細菌にも役立つといわれる難消化性デキストリンは、大腸でミネラル吸収を促進することが明らかになりました。
難消化性デキストリンは、食事と一緒に摂取することで効果を発揮します。2007年に難消化性デキストリンが食事由来の脂質の吸収を抑制することが分かって以来、2012年よりトクホとして販売されています。難消化性デキストリンが用いられた食品は、便秘や腸内環境の改善、ダイオキシン類の排せつ促進などに効果があるとされています1234。
難消化性デキストリンがやばいと言われる理由
上述したように難消化性デキストリンは便秘や腸内環境の改善に効果があります。そのため、主に食物繊維のサプリメントやダイエット効果をうたった食品・飲料などに使用されています。
そんな体に良さそうな難消化性デキストリンですが、インターネット上などでは「やばい」という声や、体への負担や安全性について心配する声もあります。一体どのような理由で「やばい」といわれているのでしょうか?
膨満感がある
難消化性デキストリンを摂取した後、膨満感を感じた人もいるようです。腸内環境を整えるはずの食品で、膨満感を感じたら不安になりますよね。また、その膨満感からおならが増えたといった声もありました。
これは、食物繊維の取りすぎや偏りが原因だと考えられるでしょう。
また、食物繊維を取ると大腸で腸内細菌が発酵することにより、ガスや短鎖脂肪酸を生成します。このガスの影響で腸管内の圧力が上昇したことにより、おならが増えたり膨満感を感じたりするとも考えられます。
おなかが緩くなる
難消化性デキストリンの整腸作用により、人によってはおなかが緩くなってしまうことがあるそうです。
難消化デキストリンはデンプンであるため、摂取しすぎることによって体に害をもたらすといったような副作用は報告されていません。とはいえ、摂取しすぎるとおなかやが緩くなることはあるため、摂取量には注意しましょう。
難消化性デキストリンは肝臓に悪いの?
難消化性デキストリンをインターネットで検索した際、「肝臓に悪い」という言葉を見かけます。どのような理由で、肝臓に悪いといわれているのでしょうか?また、肝臓に悪いか心配に思う人が多いことからこのキーワードが検索されているのだと思うので調査してみました。
上述した通り、難消化性デキストリンの効果の1つとして、糖分の吸収スピードを遅延させることがあります。
食事で摂取した炭水化物(糖質)は体内でブドウ糖に分解され、小腸で吸収された後、肝臓に送られます。小腸で吸収される段階で、糖分の吸収を抑え、食後の血糖値の上昇を抑制する効果が発揮されるといわれています5。
難消化性デキストリンは、糖分の吸収を遅らせることで、血糖値の急激な上昇を抑制します。これによって、肝臓に送られる糖質が減ることが予想されるので、肝臓への負担が減る可能性のほうが高いと言えるでしょう。
また、難消化性デキストリンが肝臓に悪いと考えられる原因の一つに、米スタンフォード大学の研究結果から、水溶性食物繊維の種類によっては肝臓に良くないこともあることが明らかになりました6。しかし、この研究結果によれば、ALT値を上昇させたのは長鎖イヌリン(LCI)だけであり、難消化性デキストリン全体が肝臓に悪いわけではありません。この事実を明確に理解することが重要だと言えるでしょう。
この研究では、難消化性デキストリンのような水溶性食物繊維を用い、アラビノキシラン(AX)とLCIの2種類の精製物で調査しました。参加者は3週間に渡り、AXまたはLCIを1日あたり10gずつ増やしながら摂取。6~8週間あけて、同様の内容を繰り返しました。
AXの摂取期間では、胆汁酸が増加し、悪玉コレステロールが大幅に減少していたそうです。一方、LCIはおなかに良いビフィズス菌を増加させる一方、1日30g以上摂取すると肝機能障害の数値が上昇していました。
この結果から、食物繊維の取りすぎが肝臓に良くないとされていることがあるのではないかと考えられます。しかし、全ての食物繊維が肝臓に悪いわけではなく、問題とされたのはLCIだけであったという点を、皆様にもしっかりとお伝えしたいと思います。
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、食物繊維の1日あたりの目標量は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上となっています。また、欧米において一日あたり24g以上の摂取で、心筋梗塞、脳卒中、2型糖尿病、乳がん、胃がん、大腸がんなどの発症リスク低下が観察されています。これは、食物繊維が胆汁酸の排泄を促進し、血中コレステロール値を下げたり、食後の糖の吸収をゆるやかにし、血糖値の急激な上昇を抑えたり、便の量を増やしたり、腸内細菌の善玉菌の割合を増やしたりする作用があることが影響していると推測できます。
食物繊維を取ることのメリットはたくさんありますが、やはり取りすぎには注意が必要といえます。
食物繊維は食事からも摂取ができるため、サプリメントや食品・飲料などの過剰摂取には気をつけましょう7。
難消化性デキストリンにデメリットはある?
メリットが多く見られる難消化性デキストリンですが、デメリットはあるのでしょうか?
これまでも解説してきた通り、難消化性デキストリンは通常の食品にも含まれる、とうもろこしのデンプン由来の食物繊維を集めた成分のため、デメリットはほぼないといっても良いでしょう。
しかし、上述した通り、過剰摂取によっておなかや便がゆるくなる可能性があります。一度に多量の難消化性デキストリンを摂取するのは避けましょう。
また、便秘にも効果があるといわれる難消化性デキストリンですが、水分を十分に取らず、難消化性デキストリンの粉末のみを摂取すると、かえって便秘になってしまう可能性があります。
以上のことから、摂取量や摂取の仕方に十分注意すれば、大きなデメリットはほぼないといえるでしょう。
難消化性デキストリンと発がん性の研究
難消化性デキストリンは発がん性とも関係があるのでしょうか?
難消化性デキストリンの安全性と便通に及ぼす影響について、ヒトと同じ雑食のラットを用いて研究を行った結果、難消化性デキストリンは発がん物質や腐敗物質の生成を抑制し、腸内環境を改善する効果があることが示されたそうです。
また別の研究においても、さまざまな難消化性デンプンをベースとしたレジスタントスターチなどの食品が、結腸がん・直腸がんや糖尿病などの治療・予防に効果があるのではないかと期待されています。
さらに難消化性デンプンは、乳がんなど腸以外のがん治療にとっても重要である可能性があると考えられています8。
難消化性デキストリンを正しく摂取しよう
難消化性デキストリンを含む多くの食品は基本的にいつ摂取しても問題ありません。
食事と一緒に摂取することが食後の血糖値上昇を抑制する効果を発揮しやすいといわれています。購入した製品の摂取方法や摂取量に従い、適切に摂取しましょう。
しかし、難消化性デキストリンの摂取を控えた方が良い人もいます。
まずは、妊娠・授乳中の女性です。
難消化性デキストリンが妊娠・授乳中の女性に影響を与えるという研究データは、現時点ではないようです。とはいえ、副作用がないとは言い切れないため、妊娠・授乳中の摂取は避けた方が安全だといえるでしょう。
また、糖尿病の治療中で糖質制限をしている方も、難消化性デキストリンを控えた方が良いです。難消化性デキストリンは、糖質の吸収を抑える働きがあるため、糖質制限の治療効果に影響を与えてしまう可能性があります。糖尿病の治療中は、医師の指示に従って食事療法を行うことが大切です。
もし、難消化性デキストリンを摂取したいという糖尿病患者の方は、独断で摂取するのではなく医師や管理栄養士に相談しましょう。
また、食物繊維はサプリメントや健康食品だけで摂取しようとするのではなく、食事から摂取することを心がけるのが良いといえます。
まとめ
難消化性デキストリンの特徴や効果、デメリット、そして肝臓や発がん性との関連性について解説しました。
便秘や腸内環境改善、ダイエットなどで難消化性デキストリンを含むサプリメントや健康食品を摂取する際の参考になれば幸いです。
大きなデメリットはほぼないということが分かりましたが、摂取量や摂取方法にはくれぐれも注意しましょう。
- 大塚製薬「食物繊維を摂ろう!難消化性デキストリン」
- 独立行政法人 農畜産業振興機構「難消化性デキストリンの特性と用途」
- 小林製薬株式会社 イージーファイバー「難消化性デキストリンって何?水溶性食物繊維難消化性デキストリンとは」
- 医療法人橘甲会 橘甲会クリニック大阪予防医学健診センター「ダイエットに効果あり!?~難消化デキストリン~ その3」
- 大塚製薬 オオツカ・プラスワン「難消化性デキストリンって何?」
- すべての食物繊維が等しいわけではない
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」
- National Library of Medicine「Resistant starch: a promising dietary agent for the prevention/treatment of inflammatory bowel disease and bowel cancer」
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