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繊細さん(HSP)のためのマインドフルネス

繊細さん(HSP)のためのマインドフルネス

5人あたりのうち1人が、そのほかの人々よりも、敏感な感覚をもっているといわれています。

そのような人々は、周囲の微妙なことを感じ取る、という特徴と、こころが動揺しやすい、という特徴をあわせもっています。エレイン・N・アーロンは、敏感な人々に、HSP(Highly Sensitive Person)という名称を与えました。わが国では『繊細さん』と訳されるようになったことが契機となって、HSPへの関心が高まりました。繊細さんの特徴をもっているという芸能人が、その発言をするようになったため、ご存じの方々もいるかもしれません。

マインドフルネスを実践することが、繊細さんの生活に快適さや、感情的な豊かさをもたらす可能性があります。事実、アーロンをはじめとして、多くの研究者やセラピストは、HSPに瞑想の効果を推奨しています。

この文章では、繊細さんが、自己の敏感な神経をうまく扱うためのマインドフルネスについて述べようと思います。

【繊細さんとマインドフルネス】

アーロンは、繊細さんについて『周囲に起こっている微妙なことを感じとる』という特徴をもつ人々だと定義しています。

彼女が作成した、HSPの診断テストがあります。このテストでは『他人の気分に左右される』や『美術や音楽に深く心動かされる』など23項目のうち、12項目以上に該当する人はHSPであるとされます。診断テストのうち、いずれの項目も、神経の敏感さという特徴をもつ具体例となっているのです。

繊細さん特徴は、とくに、日本人の中では、多いとされています。他者の感情や、その場の雰囲気を読みとる能力は、日本人の得意なことです。

そのため、みずから、繊細さんの特徴について、自覚していないような方々も多いかもしれません。『隠れ繊細さん』は、HSSとよばれることがあります。

HSPの自己診断テストは、アーロンの著作である《ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。》に掲載されています。本書は、はじめてHSPの概念が紹介された書籍です。もしも、読者の中に、繊細さんの特徴があてはまるかもしれないと思った人がおられるならば、本による自己診断をしてみるとよいです。私自身も、18項目の特徴が、あてはまるように感じました。

繊細さんは、外部からの刺激にも敏感です。そのため、こころが動揺しやすいことによって、生きづらさを感じてしまう人々が多いといわれています。

とくに、敏感すぎることによって、子供のころに受けたこころの傷を癒すことは、重要な課題となります。

アーロンによれば、繊細さんがかかえている、こころの傷を癒すために、4つのアプローチ方法があります。

その、4つのアプローチというのは『認知行動的』『対人関係的』『身体的』『スピリチュアル』というものです。

それらのうち『対人関係的』『身体的』『スピリチュアル』アプローチには、直接、マインドフルネスを応用することができます。

とくに『スピリチュアル』アプローチには、瞑想は、深くかかわることとなります。

マインドフルネスは、瞑想や、禅の思想を含んでいますから、スピリチュアルな癒しを与えてくれます。アーロンの報告にも、瞑想が繊細さんの生き方を豊かにしてくれる、という実例が、列挙されています。

瞑想を実践することによって、自己を一歩引いた見方で見ることができるようになります。自己を客観的な視点から見る能力を『脱中心化』とよびます。

『脱中心化』の能力を促進することによって、繊細さんの、刺激されやすくて動揺しやすいこころを、自己観察する余裕が生じます。感情が高ぶったときにも、その感情に支配されにくなるのです。

そのため、自己の感情にたいする深みの感覚も、変わってくることが期待されます。

また、静座瞑想では、ひとつのことに集中力を保つことだけではなく、周囲のことに集中力を発揮する状態をつくることができます。

ひとつのことに集中していながらも、周囲の様子にも気づくことができるような状態を、オープン・モニタリング(OM)とよびます。

繊細さんがOMの状態となることができれば、繊細さんの敏感さを、他者のためになることや、周囲の環境をよくするために使うことができるようになります。

【繊細さんの長所】

繊細さんがもつ敏感さというのは、欠点ではありません。

また、こころが動揺しやすい、という特徴だけで、それが、こころの病気だと考えることも、間違いです。

むしろ、敏感さというのは、長所となることも多いのです。直感がすぐれている、ということなのです。

たとえば、繊細さんは、危険を回避する能力が高いといわれています。繊細さんの脳のはたらきは、行動抑制システムが優位となっています。このシステムは、慎重さをつかさどるものです。

それとは反対に、人を未知のものごとに向かわせようとする脳のシステムは、行動活性システムとよばれています。

われわれの生活は、行動活性システムと、行動抑制システムが、うまくバランスをとりながら成立しています。

ただし、繊細さんの場合には、行動抑制システムが優位であるため、慎重さによって危険を回避しやすいのです。たとえ、周囲の人々からは、臆病だと思われる傾向があったとしても、危険を回避する、ということは、生命体として必要な能力です。いち早く危険を察知することができる、という能力は、自己の身を守るだけではなく、集団の中で、ほかのメンバーに警告を与える、という役立て方もあります。

また、繊細さんの特徴は、ユングが述べた『内向型』という性格と同じものです。

ユングは、内向型の人々は『文化の促進者であり教育者である』と説きました。

アーロンは、行動抑制システムを『現状確認システム』と言い換えています。

ストレスだけではなく、さまざまな幸せを感じることが得意である、ということも、繊細さんの長所です。繊細さんの敏感さは、幸せを深く感じたり、小さな幸せに気づくことが得意です。敏感さを向ける対象が、幸せを感じさせるようなものであるようなときには、繊細さんの特徴は、長所となるのです。

HSP専門カウンセラーとして活動している、武田友紀は、繊細さんがもつ敏感さは、6つの幸せを感じるためのもとである、ということを述べています。

その、6つの幸せというのは『感じる幸せ(小さなことに気づいて楽しむ)』『直感の幸せ』『深く考える幸せ』『表現の幸せ』『良心の幸せ』『共感の幸せ』というものです。

もしも、さまざまなことを敏感に感じとる、という特徴を活用すれば、それは、繊細さんの長所となるのです。

【繊細さんにおすすめの瞑想】

マインドフルネスの訓練を続けることによって、脳を、ストレスに動じないような構造に変えることができます。ストレスで萎縮してしまった脳の部位が回復したり、ストレスを感じとる扁桃体という部位が小さくなる、などといった、ポジティブな効果があらわれるのです。

その効果は、マインドフルネスの習慣に慣れた人々よりも、初心者のほうが、顕著にあらわれるといわれています。

この項目では、繊細さんの特徴に合っていると思われる実践マインドフルネスを紹介します。

①静坐瞑想(坐禅)

ストレスにたいする敏感さに対処するためには、マインドフルネスの基本的な瞑想である、静坐瞑想が有効です。

なぜなら、静坐瞑想では、ネガティブな雑念を手放したり、ストレス耐性を向上させたりすることができるからです。

繊細さんには、どうしても、ひとりでいることができる時間が必要となります。ストレスを感じやすい、ということは、ほかの人々とくらべて、ストレスから回復する時間が長くかかる、ということでもあります。

そのため、毎日、5分間だけの呼吸瞑想よりも、15分くらいの時間はあったほうがよいです。

また、反対に、45分ほどの、まとまった時間を静坐瞑想にあてる場合には、その、45分のあいだ、ずっと続ける必要はありません。「45分の瞑想は、ハードルが高い」という感じがあるならば、15分×3回に分けて、休憩をはさみながら瞑想をする、などといった工夫をすれば、実践しやすくなります。

お寺などでおこなわれている瞑想会などに参加する場合には、簡単に中断することがはばかられますけれども、自宅では、それほど無理をせずに、自己のペースでおこなうことが大切です。やさしいスケジュールにしたほうが、かえって、継続しやすいのです。

②ボディー・スキャン

静坐瞑想のほかにも、繊細さんの特徴に合った瞑想は、あります。

たとえば、先ほど述べた、4つの癒やしのアプローチ(『認知行動的』『対人関係的』『身体的』『スピリチュアル』な癒やし)のうち『身体的』な瞑想として、ボディー・スキャンという瞑想があります。

ボディー・スキャンというのは、身体が発するメッセージを受け取るための瞑想です。この方法では、左足の指から順番に、足の甲、かかと、足首、脛、ひざ、脚といった、身体の各部位に注意を向けます。右足も、同じ順番で注意を向けたあとは、さらに、腰、胴体、背中、胸、肩、両腕、首、顔へ、続けて、注意を向けていきます。

③傾聴術

『対人関係的』な方法としては、傾聴術が役立ちます。

傾聴術では、相手の話を受け入れて、その相手がどのような気持ちで話しているか、ということを尊重します。相手が「わかってほしい」と思っていることを、想像しながら聴くのです。

そして、話を理解しているか否かを確認するために、自己の言葉で、返します。

実際に傾聴してみるならば、やはり、それなりの注意力が必要となります。

しかし、相手の感情に敏感な繊細さんならば、思いやりを持って聴くことができるはずです。

たとえ、相手のすべてをわかってあげることはできなくても、あきらめずに話し合うことによって、理解は、深まります。

【ソウル・メーキング】

わが国におけるユング派の心理学者であった、河合隼雄は、ソウル・メーキングという生き方を提案しています。

ソウル・メーキングは、直訳すれば『たましいを作ること』となります。

河合は『閻魔さんの前に持っていって、これが私のたましいですと示せるもの。そのようなたましいを生きている間にいかにしてつくるか、これがソウル・メーキングである』と説明しています。

もともと、ソウル・メーキングというのは、ユング派のジェイムズ・ヒルマンが提唱しはじめたものです。

「この出来事、この物、この瞬間は私の魂の中でいったい何をつき動かしているのだろうか。それは私の死にとって何を意味しているのであろうか」という問いを立てることを、ヒルマンは『ソウル=メイキング』とよんでいます。

繊細さんにとって、意味を深く探求することは、大切なことです。人生を無意味なものだと考えることは、簡単なことですけれども、やはり、できるならば、意味のある生き方をしたいと願っているような人々もいます。繊細さんは、スピリチュアルなことに興味をもちやすい、といわれています。ふつうの人々よりも深く考える、という傾向が、人生そのものにたいする問いに向かわせるのです。

しかし、具体的に、どのように問いを立てればよいのか、と疑問に思われるかもしれません。深く考える哲学のような話

河合は、ソウル・メーキングの方法として、日本の古典を読むことを勧めています。古典をつうじて、昔の日本人が、たましいや、生死について、どのように考えてきたのか、ということがわかるのです。

筆者は、高校に在学していた時期に、朝読書の時間がありました。2年目くらいに私が読んだのは、初心者向けの《古事記》の解説書でした。原文を読むことは難しいですけれども、現代語に翻訳された神話の物語や、その背景を知るだけでも、古代の日本人がどのようなものの見方をしていたのか、ということが、伝わってくるように感じました。昔の人々は、いまのわれわれよりも、精神的なものを信じていたのだと思います。

アーロンは『HSPには魂を意識するようなスピリチュアルなところがある』と述べています。繊細さんのスピリチュアルな部分を、彼女は『内面生活』ということばで説明しています。自己のこころの内面を深く観察する、ということです。自己の外側にある世界が生活の場となっている一方で、自己の内面にも、また、精神的な生活があるのです。

繊細さんにとって、内面生活は、重要です。内向的な性質は、弱さではありません。こころの豊かさをもつことによって、さまざまな苦痛に耐える力を養うこともできるのです。

マインドフルネス理論のもととなっているのは、禅の思想です。禅は、自己のこころを内観することによって、ありのままの自己を取りもどすための方法です。

禅僧がのこした言葉について書かれた本は、さまざまなものが出版されています。その中でも、もっともよく知られている禅思想は、やはり《般若心経》です。《般若心経》では、空の思想をつうじて、こころを安らかにするための哲学を説いています。

私は、できるだけ学術的な権威をもったものを読むようにしていますけれども、基本的な考え方を理解したいならば、初心者向けの文庫本でも、じゅうぶんだと思います。自己のたましいを作るつもりで、禅のことばを読むことは、マインドフルネスを実践するときの助けとなってくれます。

また、瞑想の要点を知る、ということについて、道元の《普勘坐禅儀》も、おすすめです。《普勘坐禅儀》は、坐禅をするときの注意点を道元が、みずから解説したものです。そのため、1200年も前に書かれたものでありながら、現代のマインドフルネスにおいても、実践向きの書籍なのです。

【まとめ】

繊細さんの敏感さは、かならずしもネガティブなものだけではなく、長所として活かすこともできます。他者がどのような感情でいるのか、ということを察知したり、ささいなことにも気づく能力を、人のために役立てている方々もいます。敏感さは、芸術的な才能として開花する場合もあるといわれています。

繊細さんが、自己の敏感さを知り、うまくコントロールする方法は、あります。マインドフルネスは、そのような、繊細さんの能力を、みずから望む方向に集中させるための訓練とすることができます。

繊細さん専門のセラピストには、瞑想を推奨していない人と、そうでない人がいます。もしも、専門家と相談しながら実践するときには、その人がマインドフルネスの知識をもっているか、否か、ということを知っておくことが大切です。

kunitada
執筆者

『文化的なことを記事にする』という目的をもって、ライターをしています。2021年に、マインドフルネススペシャリスト資格を取得。その時期のご縁から、マインドフルネスや心理学について執筆する機会をいただくこととなりました。ふだんは、美術や文学についての文章も書いています。

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