「HSC(Highly Sensitive Child)」とは、「感覚や人の気持ちに敏感で傷つきやすい子ども」という意味で、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン氏が提唱した言葉です。
近年多くの人に知られてきた、「HSP(Highly Sensitive Person)」の子ども版と考えるとイメージしやすいでしょう。
HSCもHSP同様、5人に1人の割合で存在するとされています。周囲の環境(音・匂いなど)に敏感だったり、集団行動が苦手だったりすることから、学校生活になじめず、不登校になるケースもあります(※1)。
(※1)出典:マドレクリニック「HSC(Highly Sensitive Child)ハイリー・センシティブ・チャイルド」
HSCは親のせいは半分正解
子どもがHSCである場合、その特徴を調べていると「親である自分にも当てはまるかも……」と思う方も多いのではないでしょうか。
一部では「HSCは遺伝するのではないか」といわれているそうです。
実際のところ、HSCは遺伝するのでしょうか?
「HSCが遺伝するかどうか」については、アーロン氏が2002年に『The Highly Sensitive Child』という著書で言及しています。
そこには、「人一倍敏感であるという性質は『主に』遺伝子で決まる」と書かれているそうです。
一方で、『子どもの敏感さに困ったら読む本』の著者で、児童精神科医の長沼氏は、「遺伝子で決まる」という点は肯定しつつも、「同じ遺伝子を持っていても、環境次第で発現の仕方が変わる」と述べているとのことです(※2)。
「HSCは遺伝するのか」という研究はまだ続いているようで、ハッキリとした結論はまだ出ていないようです(※3)。
(※2)出典:HSC子育てサロン「HSCって遺伝するの?敏感な気質を引き起こす遺伝子があった」
(※3)出典:STUDY HACKER こどもまなびラボ「5人に1人が「HSC」。繊細で共感性の高い「ひといちばい敏感な子ども」の特徴とは?」
HSCの原因
HSCの原因について、遺伝子以外に考えられるものはあるのでしょうか?
生まれつき脳の偏桃体(へんとうたい)の働きが活発であると、HSCの性質を持ちやすいといわれています。
扁桃体は側頭葉の内側の構造であり、大脳辺縁系とよばれる情動に関連する回路の主要な構成要素のひとつ。特に恐怖や不安といったマイナスの情動に深くかかわり、様々な精神疾患でその機能異常が想定されている。
※引用:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構「感情の中枢である扁桃体におけるドーパミンの役割を解明」
扁桃体の影響により、恐怖や不安を感じやすくなるようです。
このような生まれ持った性質は容易に変えることはできません(※4)。
(※4)出典:HR BLOG「HSPとは?特徴と原因、最近注目される理由を解説」
親のせいでHSCになってしまう原因を考察する
では、育て方によって、子どもがHSCになることはあるのでしょうか?
アーロン氏は、HSCの敏感さについて、「病気でもない、障害でもない、単に生まれもった気質によるもの」としています(※3)。
「自分の育て方のせいで、HSCになってしまったのではないか?」と悩んでいる方もいるかもしれません。
しかし、生まれつきの性質であるため、育った環境や親の育て方によるものではないと考えられています。
生まれつきのものですので「親の育て方が原因でHSCになる」というわけでもありません。保護者の方は「自分の育て方のせいでHSCになってしまったのかもしれない」と自分を責める必要はありません。HSCは性質ですので、「ネガティブなものではない」という点も重要です。
※引用:マドレクリニック「HSC(Highly Sensitive Child)ハイリー・センシティブ・チャイルド」
親のせいでHSCになってしまったときに親がしてあげられること
HSCの子どもは、「DOES」という4つの性質を持っていると考えられています。
D:深く処理する(Depth of processing)
※引用:子どもを伸ばす幼児教育情報サイト CONOBAS「育て方で変わる!ひといちばい敏感で繊細な子ども「HSC」の特徴といいところを伸ばす言葉がけをご紹介」
O:過剰に刺激を受けやすい(Overstimulated)
E:共感しやすい(Emotional reactivity and high Empathy)
S:ささいな刺激を察知する(Sensitivity to Subtleties)
このような性質を持つHSCの子どもを育てる上で、気をつけることや、良さを伸ばしていく方法はあるのでしょうか?
HSCはギフト!生まれ持った敏感さや繊細さを否定しない!
HSCの子どもは、小さなことにも過剰に刺激を受け、ストレスを感じやすい面があります。
そんな子どもを見て、「そんなに気にしなくて大丈夫」と言ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、子どもからすると、自分の持つ敏感さや繊細さを否定されたような気持ちになってしまうことも……。
気にしないように促すのではなく、「びっくりしたよね」「怖かったよね」と共感して、一緒に受け止めるてあげるのが良いでしょう。
親が共感し受け止めてくれると、HSCである自分の感覚をポジティブに捉えられるようになります。
大人になるにつれ、周囲のHSC・HSPではない人との違いを顕著に感じるようになりますが、そんなときにも否定されない、安心できる環境をつくることが大切だといえます(※5)。
(※5)出典:子どもを伸ばす幼児教育情報サイト CONOBAS「育て方で変わる!ひといちばい敏感で繊細な子ども「HSC」の特徴といいところを伸ばす言葉がけをご紹介」
しっかりと休ませる
HSCの子どもは、深く考えたり、ささいな刺激を察知したりするため、心身ともに疲れを感じやすいところがあります。
そのため、心も体も脳も、しっかりと休ませてあげることが大切です。
無理をしたり、頑張りすぎたりしているように見えるときには、「今は無理をしなくても大丈夫」ということを伝えて、こまめに休憩してもらいましょう(※5)。
自分のペースややり方で進められる環境をつくる
HSCの子どもは、深く考えながら物事に取り組んでいるため、自分のペースややり方というものを持っています。
そんな自分のペースややり方を否定されたり、乱されたりすると、ストレスになり本来の力を発揮できなくなることもあります。
大人から見て、時間がかかりそうなやり方だと感じても、急かすのではなく「急がなくて大丈夫」と落ち着いて取り組めるような声かけを心がけるのが良いでしょう。
また、一度に多くのことをしなければいけない状況に混乱してしまうこともあるため、ひとつずつお願いしたり、分かりやすく伝えたりすることも重要です。
安心して、自分のペースで取り組める環境をつくってあげましょう(※5)。
強い口調で叱らない
HSCの子どもは、ささいな言動や表情から感情や刺激を察知しやすいです。
大人は少し強く言ったつもりでも、HSCの子どもはものすごく強く言われたと感じてしまうことも……。
また、自分の失敗を気にしすぎてしまう面もあります。
そのため、怒鳴ったり強い言葉で叱ったりするのではなく、優しい口調で話すことが大切です。
失敗を自覚しているのに強い口調で叱ると、その記憶が強く残り、親の顔色をうかがうようになってしまうこともあります。
気持ちが落ち着くまで待ったり、スキンシップをしたりして安心感を与えることも重要です(※6)。
そして、優しい口調で叱った後はフォローすることも大切です。
「そういうことはよくあるから、大丈夫」「自分もそんなことがあった」と共感を示したり、安心させられるような言葉をかけたりするのも良いでしょう(※5)。
(※6)出典:TOKYO GAS ウチコト「【教育研究家に聞く】敏感な子「HSC」とは? 育て方の12のポイント」
集団に入るには時間をかける
HSCの子どもは、集団行動が苦手な面もあります。
それゆえに、幼稚園や保育園、学校などの集団生活に慣れるまでに時間がかかることも多いのです。
友だちの輪に入らなかったり、幼稚園に行く際に泣いたりすると、親としては心配になると思います。
しかし、そこで無理に周りになじませようとしたり、同じようにさせようとしたりするのではなく、時間をかけてあげることが大切です。
HSCの子どもも、人と関わること自体が嫌なわけではなく、安心できる環境であれば本来の力を発揮できます。
また、できるだけ人数の少ない幼稚園・保育園を選んだり、先生に伝えて協力してもらったりするのも1つの方法です(※6)。
時間をかけて不安を取り除き、安心できる場所にしてあげることが大切だといえます。
前もって予定を共有する・心の準備をする時間を設ける
HSCの子どもは、急な予定変更や突然の出来事にも刺激を受けやすいです。
そのため、あらかじめ予想ができることや、心の準備ができる時間を設けることが大切です。
やむを得ないときは、変更になったことや具体的なスケジュールを丁寧に説明しましょう。
しっかりと準備ができており、安心できる状況であれば、本来の力を発揮することができます。
また、規則正しい生活リズムを身に付けたり、毎日のルーチンを決めたりすることも良いでしょう(※6)。
自己肯定感が上がるような経験をさせる
HSCの子どもは、ささいなことも深く考えてしまうため、自分の足りない部分についても考えすぎてしまい、自己肯定感が低くなることが多いと考えられています。
そのため、周りの子と比べたり、無理に苦手を克服させようとしたりしないことも大切です。
自分のペースで取り組み、一歩ずつ前進していけるような経験や、得意分野を伸ばせるような経験ができるよう心がけましょう。
自己肯定感が高くなると、HSCの特性による生きづらさを少し解消できるかもしれません(※5)。
甘えられるような環境をつくる
HSCの子どもも、家庭が安心できる場所だと感じていると、文句を言ったり、ネガティブな気持ちを伝えたりしてくれます。
しかし、家でも「いい子」にしているときは、気を使って気持ちを押さえ込んでいるのかもしれません。
そのため、HSCの子どもに「手がかからない子だなぁ」と思うときは要注意です。
気を使う状況が続くと、成長してから苦しくなったり、大人になって爆発してしまったりすることも……。
そんなときは、「嫌なことは嫌だと言ってもいいよ」などと声をかけて、甘えられる環境をつくることが大切です(※6)。
まとめ
HSCの原因や、親がしてあげられることについてご紹介しました。
子どもがHSCだと分かると、「親である自分の育て方のせいでは?」とネガティブに考えたり、自分を責めてしまったりする方もいると思います。
しかし、HSCはあくまで生まれ持った気質であるため、親のせいではないといえるでしょう。
HSCの子どもの良さや強みを伸ばしてあげられるように、サポートしてあげることが大切です。
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