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マインドフルネスでEQを鍛える

マインドフルネスでEQを鍛える

心理学では、思考の能力をはかる尺度のことを、IQ(知能指数)とよびます。

その一方で、IQのほかにも、EQ(こころの知能指数)という能力が知られています。EQというのは、情動を扱う能力のことです。自己の感情をコントロールすることや、他者とうまくコミュニケーションやチームワークを図るときに発揮される能力は、EQのほうです。

マインドフルネスは、瞑想などといった方法をつうじて、EQを高める効果がある、ということがわかっています。心理学や、生理学、そして神経科学などといった研究が、マインドフルネスとEQのあいだにあるかかわりについての証明となっています。

この記事では、マインドフルネスとEQの関係や、EQを鍛える瞑想について説明しようと思います。

EQとは何か

EQは《emotional intelligence quotient》ということばを短くしたものです。イェール大学の教授(現在は学長)である、ピーター・サロベイや、ニューハンプシャー大学のジョン・D・メイヤーといった心理学者が『感情をうまく管理し、利用できることは、能力である』というEQ理論を提唱したことによって、情動の知性について、研究が促されるようになりました。

その、情動的知性についての知識が、世間に浸透した契機となったできごとは、ダニエル・ゴールマンの著作である《EQ こころの知能指数(原題《EMOTIONAL INTELLIGENCE》)》が出版されて、ベストセラーとなったことでした。ゴールマンは、心理学者でありながら、ニューヨーク・タイムズなどで行動心理学について記事を執筆している、ジャーナリストでもあります。

ゴールマンの著作は、1990年代以降、ビジネスにおける人材育成をはかろうとする人々のあいだで、参照されるようになりました。情動をコントロールしたり、他者の感情を読みとることが、社会的な成功を助けるといわれているのです。とくに、21世紀の、多様化が進む社会では、正解がわからない状況の中でも、できごとや情報を複眼的に見ることが要求されます。

そして、そのためには、他者にたいする共感にもとづいた組織づくりをすることが有効です。アメリカのグーグル社が提唱する『心理的安全性』をもった職場が生産性を高めるのです。

ゴールマンによれば、人生の成功とIQとのあいだには、あまり関係がありません。IQよりも、EQのほうが、実際の生活では、重要なはたらきをします。

たとえば、ウォルター・ミシェルという心理学者がおこなった実験として、マシュマロ・テストとよばれるものがあります。

その実験では、四歳の子供たちのうち、長い時間、マシュマロを食べないで耐えることができた子供たちと、そのほかの子供たちを追跡調査しました。

その結果として、マシュマロの誘惑に耐えることができた子供たちは、その忍耐強さを、そのあとの生活でも発揮していることがわかりました。そのほかの子供たちには、このような特徴は、あまり見られなかった一方で、マシュマロ・テストに耐えたほうのグループは、十数年後にも、すぐれた社会性や、目標を達成する能力をもっていたのです。

また、彼らは、大学進学適性試験(SAT)でも、マシュマロに手をのばした子供たちとくらべて、総合で二百十点の差をつけていました。この例からも、EQがIQにもよい影響を与える、ということがわかります。

この実験から、EQは子供のころからきまっている、という印象を受ける方々もいるかもしれません。

しかし、サロベイとメイヤーは、EQを『教育や学習を通して後天的に高めることができる』と述べています。事実、今では、EQをトレーニングする方法というのも、開発されています。もしかすると、マシュマロに耐えることができなかった子供たちは、育った環境からEQを学ぶ機会が少なかっただけなのかもしれません。

マインドフルネスも、また、EQを高めるトレーニングとして活用することができます。つぎの章から、そのことについて、より詳しく説明することとします。

マインドフルネスとEQ

グーグル社のエンジニアであった、チャディー・メン・タンは、社員向けにマインドフルネスのプログラムを開発しました。彼の《サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)》というメソッドは、ビジネスにおけるマインドフルネス研修の模範とされています。

メンは、マインドフルネスの効果を『EQを鍛える』という観点から説明しています。

脳には、情動的な部分と、その情動を統制するシステムの部分の相互作用があります。

そのように、われわれが情動を統制する過程には、脳の構造がかかわっています。

人間の脳は、大脳辺縁系(旧皮質)の表面を、大脳新皮質が覆っていいます。

われわれの脳では、動物的な本能をつかさどる部位であるといわれている、大脳辺縁系が、情動の脳ということとなります。動物の脳である辺縁系は、われわれが生存するために必要な行動を担当しています。

大脳辺縁系は、脅威を感じるときに、不安の情動を発生させます。

そのとき、辺縁系は、脳のほかの領域に信号を送ります。辺縁系は、ほかの系によって情動を統制することを手伝ってもらうために、助けを求めるのです。

新皮質にある、内側前頭前野という部分が、統制をつかさどる部位です。

内側前頭前野を含めた、大脳新皮質は、全体的に、人間らしさの脳であるといわれています。情動のコントロールだけではなく、言語をつかさどる中枢や、自己の経験を理解するための部位も、また、新皮質の一部です。人間に近い動物であればあるほど、新皮質が大きい、という傾向があります。

つまり、動物的な情動の脳を、人間らしさの脳が、コントロールしているのです。

マインドフルネスを実践することは、この情動と統制のネットワークを訓練することなのです。

メタ認知

自己の情動を観察する能力は、EQのうちでは、第一に必要なものです。

自己の感情を一歩引いた見方から見ることによって、情動を適切に処理することができるようになります。このように自己を眺める能力は、心理学では《メタ認知》とよばれています。

マインドフルネスを実践することによって《メタ認知》で自己観察することができるようになります。

感情と自己認識

メイヤーは、人間が自己の情動に対処する方法を『自己認識型』『埋没型』『受容型』という三つのパターンに分類しています。

それらのうち『自己認識型』は、自己の感情を認識しながら、その感情をうまく処理する人々です。『自己認識型』の人々は、自己の感情を把握したり、管理したりすることによって、自律性や積極的な人生観を保つことができます。

したがって、EQによる《メタ認知》ができている人々は『自己認識型』ということができます。

その一方で『埋没型』と『受容型』は、感情をうまくコントロールすることができないパターンです。

まず『埋没型』は、感情を認識することができないため、感情の中に埋没してしまう人々です。

そして『受容型』は、感情を認識することができたとしても、気分を変えるための努力をしない人々です。彼らは、ネガティブな感情に対処することができないため、その感情を受容してしまうのです。絶望感に屈服してしまったうつ病患者は、このタイプに含まれます。

だから、EQを育むことは『自己認識型』の対処方法を身につける、ということなのです。

そして、ゴールマンによれば、自己認識というのは『自分の内面の状態、好み、資質、直感を知ること』ということとなります。

重要なことは、自己認識は、ただ自己の感情を抑えることではない、ということです。

感情は、価値判断の根拠となります。われわれが、自己の生き方や、どのように行動したいのか、といったことを決定するためには、感情は、必要なものです。

情動に対処するためのよい方法は、感情を抑えることではなく、自己の感情に気づくことです。

EQを高める瞑想

マインドフルネスで推奨されている瞑想法は、禅の修行で実践されていることを、心理学的に解釈したものです。

EQを鍛えるために有効な瞑想は、以下のとおりです。

①呼吸瞑想

呼吸瞑想では、五分から十分くらいで集中力を高めたいときや、坐禅の効果を高めたいときに、呼吸に注意を集中させます。

呼吸瞑想は、もっとも簡単にできる瞑想です。

まず、背筋を伸ばして椅子に座ります。このとき、頭頂部から一本の糸で引っ張られているように姿勢を整えます。手は、膝の上に置いて、手のひらを上に向けます。

そして、ただ、吐く息と吸う息だけに意識を向けます。呼吸は、普段どおりの呼吸でおこないます。

ただ一つのことに集中する力を高めることは、ある目標に向かうための忍耐強さをつくります。

②静坐瞑想(坐禅)

一つのことに集中していながら、周囲のことも把握しているような状態を、オープン・モニタリング(OM)とよびます。

OMの状態では、自己の内面だけではなく、周囲の環境や、他者のことにも注意が向けられています。

静坐瞑想では、OMの状態を意図的に作り出します。静坐瞑想は、仏教では、坐禅ともよばれている瞑想法です。

そのため、坐禅によって高められた集中状態は、EQの能力を発揮しやすい状態なのです。

静坐瞑想では、まず、右の腿の上に左足を乗せて、その後左の腿の上に右足を乗せる座り方(結跏趺坐)か、あるいは右の腿の上に左足を乗せるだけでもう片方は胡座のようにする座り方(半跏趺坐)で座ります。それらの座り方が難しいと感じる場合には、胡座でもよいです。

それから、背筋を伸ばして、呼吸に意識を向けます。このとき、呼吸を数えながらおこなうならば、より集中しやすくなります。

③ボディー・スキャン

ボディー・スキャンは、自己の身体に注意を向ける瞑想です。思考から離れて、普段は意識していないような、身体からのメッセージを受け取るためにおこなう瞑想が、ボディー・スキャンです。

この瞑想では、EQを育むために必要な、自己認識を訓練することができます。

ボディー・スキャンは、左足の指から順番に、足の甲、かかと、足首、脛、ひざ、脚といった身体の各部位に注意を向ける瞑想です。右足も、同じ順番で注意を向けたあとは、さらに、腰、胴体、背中、胸、肩、両腕、首、顔へ、続けておこないます。

④慈悲の瞑想

慈悲の瞑想では、他者の幸福を願うことを瞑想としておこないます。

より具体的には『自己の幸せを願う』『親しい人の幸せを願う』『中立的な人(好きでも嫌いでもない人)の幸せを願う』『嫌いな人や、自己を嫌っている人の幸せを願う』『生きとし生けるものの幸せを願う』というプロセスで実践します。

まず、慈しみを自己の内部にむけます。

そして「私が、健康で、安穏で、幸せでありますように」ということばを唱えます。

つぎに、その慈しみを、自己の外にもむけます。親しい人(家族や親戚、友人など)を思い浮かべながら「私の親しい人が、健康で、安穏で、幸せでありますように」と唱えます。

そのあとも、同じように、好きでも嫌いでもない人を思い浮かべて「好きでも嫌いでもない中立的な人が、健康で、安穏で、幸せでありますように」と唱えます。

さらに、もしも『嫌いな人や、自己を嫌っている人の幸せを願う』ということができると思うならば「嫌いな人や、私を嫌っている人が、健康で、安穏で、幸せでありますように」と唱えます。嫌いな人の幸せを願うことが難しい場合には、唱えなくてもよいです。

そのあと、生きとし生けるものすべてにも、同じように、慈しみのことばを唱えます。これらのプロセスを、およそ10分間おこなうだけで、リラックス効果があります。

慈悲の瞑想と共感

社会的な知性を発揮するためには、他者にたいする共感が課題となります。

発達心理学において、共感は、乳幼児期の子供たちには、すでに観察することができる心理であるといわれています。われわれは、子供の頃から、成長する過程において、共感する心をおぼえます。

しかし、その共感をしっかりと学ぶことができるか、否か、ということは、育てられた環境に左右されます。

なぜなら、人は、子供の頃に、他者の感情にたいして両親がどのように反応するか、ということを見ながら共感を学ぶからです。『親の背を見て子は育つ』ということわざがありますけれども、他者の感情を把握する、ということにも、それと同じことを言うことができるのです。

つまり、共感は経験によって学習されるものですけれども、学習することができる、という可能性そのものは、だれにでも、幼い頃から備わっている、ということです。

両親が子供に関心を払わないような家庭や、反対に、虐待のような育て方をされた場合には、その人は、信頼関係を築くための能力を発揮することが難しくなってしまいます。

しかし、そのような方々さえも、後天的にEQを学ぶことができます。

もしも、家庭でEQを身につけることができなかったならば、そのほかの環境で、経験を重ねながら学べばよいのです。

マインドフルネスの瞑想には、共感の練習を、自己の内面でおこなうことができる方法があります。

その方法というのは、先ほど紹介した、慈悲の瞑想です。

慈悲の瞑想をおこなうことによって活性化する脳の部位は、右内側前頭眼窩皮質というところです。この部位は、愛情をつかさどる脳であるといわれています。母性や、養育行動とかかわりが指摘されているのです。

そして、もちろん、慈悲の瞑想に慣れてきたならば、慈しみの感情を表現したり、実行に移したりすることをおすすめします。

まとめ

EQは、社会的知性とよばれることもあります。

事実として、先ほど述べたマシュマロ・テストのように、EQが高いと判断された子供は、そうでない子供とくらべて、目標を達成させやすい傾向があります。

また、EQを基礎としたチームワークをつくる能力や、問題解決スキルは、ビジネスで成果をあげるための要素であるといわれています。近年では、その効果は、IQよりも重要視されています。

マインドフルネスは、ただ自己のためにおこなうのではなく、他者とうまくやっていくためのトレーニングでもあるのです。

kunitada
執筆者

『文化的なことを記事にする』という目的をもって、ライターをしています。2021年に、マインドフルネススペシャリスト資格を取得。その時期のご縁から、マインドフルネスや心理学について執筆する機会をいただくこととなりました。ふだんは、美術や文学についての文章も書いています。

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