「ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)」は不注意・多動性・衝動性の3つの特徴が現れる発達障害です。
Attention-Deficit Hyperactivity Disorderの頭文字をとって、ADHDといわれています。
小さな子どもだけでなく、大人になってから発達障害と診断される人もいます。
そして、発達障害の影響により、人間関係やコミュニケーション、仕事などがうまくいかず、うつ病などになってしまうこともあります。
「臨床心理士&公認心理師」として、国立病院や精神障害者デイケア施設、スクールカウンセラー、発達障害者就労支援センター、障害者就労移行支援事業所、療育の現場で「心の専門家」として20年勤務してきました。今までのべ2000人以上の方のこころの相談を受けてきました。日々のカウンセリングの中で得た発見や知識を体系的にお伝えしていければと思っております。「相談が終わったときには、来てくださった人が笑顔になるようなカウンセリング」を心がけて日々相談に乗るようにしています。
ADHDは見た目でわかるって本当?
人との約束を忘れてしまったり、なくしものや忘れ物が多かったりするなど、日常生活で困るシーンが多くなったとき、「ADHDかも?」と思い、病院で受診をする人が増えています。
実際に、そのように感じたり、病院のホームページなどで公開されている「ADHDのセルフチェック」などをしてみて、多くに当てはまったりするようであれば、ストレスや生きづらさを軽減するためにも、医療機関で診てもらうことをおすすめします。
言動面での特性が多いといわれるADHDですが、見た目などの外見的な特性はあるのでしょうか?
ADHDは見た目でわかる障害ではない
ADHDの診断基準については、アメリカ精神医学会(APA)のDSM-5に記述されています。
下記などの条件がすべて満たされたとき、ADHDと診断されます。
(1)「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
※引用:e-ヘルスネット[情報提供]「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」
(2)症状のいくつかが12歳以前より認められること
(3)2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
(4)発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
(5)その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと
ADHDの診断は、医師の診察で観察された「行動上の特徴」に基づいて行われます。
単独で診断ができるような確立した医学的検査は、現時点では存在しません。
そのため、日常的な行動や見た目の特徴だけでADHDだと判断するのは難しいといえます。
ただし、ADHDかどうかというのが見た目の判断材料の一つにはなるかもしれません。
ここでは考察していきたいとおもいます。
ADHDは見た目で分かると思っている人が増えている
近年、XなどのSNSでも、ADHDに関する投稿が増えています。
自分自身でADHDだと思いこんでしまったり、人に対してADHDじゃないの?と言われるようなケースもあるそうです。
そんなことから「ADHDは見た目でわかる」と思っている人が増えているのかもしれません。
ADHDが見た目でわかると言われている理由4つ
「ADHDは見た目でわかる」と思っている人が増えているのは、なぜなのでしょうか?
その理由を調べてみました。
ADHDの検査は数値として現れない障害なので診断に決め手がないから?
いくつか質問紙などの検査はあります。ADHDの診断には確立された医学的検査はありませんが、ADHD-RS、CAARS日本語版など、いくつか評価尺度はあります。実際には、このような評価尺度と生育歴、現在の症状などを聞いて総合的に診断を下しているのが現状のようです。
近年、インターネット上でADHDに関するさまざまな情報を見られるようになりました。
SNSやホームページで、ADHDの特性をまとめたものや、チェックリストなどが公開されています。
そのため、そのような情報を見ただけで、医療機関で診断をせず、自分はADHDだと思ってしまう人も多いようです。
実際に、「発達障害かもしれない症候群」という言葉が生まれるほど、自分自身でADHDだと思っている人が増えてきています。
ADHDの「グレーゾーン」にいる人が増えている?
ADHDのDは、disorder(障害)のDですが、すべての人が明確な障害としての症状を示すわけではありません。実際に、ADHDの完全な診断を受ける前の、言わば「グレーゾーン」としての存在が注目されています。
この「グレーゾーン」とは、注意欠如・多動の傾向があるものの、日常生活に明確な支障は出ていない状態を指します。
子どもの頃は、その元気さやユニークな性格で注目の的となり、多くの友人たちに囲まれていたかもしれません。
ところが、大人に進むにつれ、その独特な傾向が仕事の場での遅刻や忘れ物、さらにはちょっとした注意ミスとして顔を出すように。これらの小さなことが積み重なり、結果的に日常生活や職場での人間関係にも影響を及ぼすことが増えてきます。
その結果、自分のミスに対する自己評価が低くなり、抑うつ気分になることも。そして、この抑うつが深刻化すると、日常生活に大きな影響を及ぼすようになり、ここで初めてADHDとしての診断を受けることになるのです。
このように、環境や社会の要求が、注意欠如・多動の傾向を持つ人をADHDへと導くこともあるのです。私たちの周りにも、気づかないうちにこの「グレーゾーン」にいる人が増えているのかもしれません。
第三者の目から見ても明らかに日常生活に支障が出ている
上述したように、仕事に行けなくなったり、ミスが多くなったりと、日常生活に明らかな支障が出ている場合も、周囲にわかるでしょう。
ADHDでは、以下のような症状がみられます。
不注意
- 大切な用事をうっかり忘れてしまい、結果期限を守れない
- やるべきことを忘れてしまい、結果物事をやり遂げられない
- 必要なものを失くす
- 忘れ物が多い
多動性
- そわそわと手足を動かす
- ずっと喋り続けていて止まらない
- 頭の中が常に忙しく、まとまらない
- 体を小刻みに揺らしたり、貧乏ゆすりをしたりする
- ずっと座っていられない
衝動性
- 思ったことをすぐに口にしてしまう
- 衝動買いが多い
- すぐにイライラする
- イライラして物にあたる
ADHDの子供や成人は肥満になりやすい
ADHDの方は、「食べたい」という衝動を我慢するのが苦手なため、肥満になりやすいといわれています1。
実際に、ADHDに関連する衝動性と不注意が、食物摂取量を増加させ、体重増加につながる可能性があるということが専門家によって研究・分析されています。この研究は、 728,136 人 (ADHD 被験者 48,161人、比較被験者 679,975人)を対象に行われました。
研究・分析の結果、ADHD は過体重と有意に関連していることが分かったそうです。また、ADHDの治療を受けている人は、肥満のリスクが高くないことも明らかになりました23。
この研究結果によると、ADHDの人は太りやすい傾向にあるといえるかもしれません。
ただし、必ずしもそうとは言えません。ADHDの人は「過集中」というものもあり、興味のあることを行っていると食べるのも忘れてしまう人も多いです。また、治療でコンサータ等を使用している人は、副作用で食欲減退というのもあります。ですので、逆にとても痩せている人も決して少なくないです。
ADHDか見た目でわかるといわれている人がやりがちな行動8つ
「ADHDであることが見た目でわかる」といわれている人が、やりがちな行動をいくつかまとめました。
ADHDの特性とともに見ていきましょう。
ゴミ屋敷に住んでいる・ゴミをすてられない・整理整頓が苦手
必ずしもとは言えませんが、ADHDの方は片付けが苦手な傾向にはあると思います。
ADHDの方の家はゴミ屋敷になりやすいといわれています。
おそらくこれは空間認知が弱いことと関係していて、頭の中でどこに何をしまえば綺麗におさまるか、イメージしにくいためだと考えられます。
ゴミ屋敷とまではいかない人もいますが、中にはひとつの部屋に物を押し込めて、自分の空間だけ何もない状態にされている方もいるかもしれません。
あらゆる「依存症」のベースになりやすい
発達障害の中には、何かにハマるとやめられないという特性や、抑制がきかないという特性もあるのかもしれません。
おしゃべりが止まらない
ADHDの衝動性から、思ったことをすぐに口にしてしまったり、相手が話している途中でも話し始めてしまったりすることもあります。
また、静かにしなければならない場面でしゃべり続けてしまうケースもあります。
式典や法事など、静かにしなければならない場でしゃべり続けてしまいます。注意されると気づいて静かにできますが、すぐに忘れてまたしゃべり始めてしまうのです。4。
ADHDの大人にみられる顔の特徴
ADHDの特性として、コミュニケーションを取る際に、視線が合いにくいというものがあります。
ADHDの方の中には、話し相手の目を3秒以上見つめられないという問題を抱える人が多いといわれています。
そのため、会話中に目が合わない、と感じることもあるでしょう。
気分が揺らぎやすい
ADHDの特性として、気分の揺らぎやすさも挙げられます。
「興味のあるものに寄っていってしまう衝動性・多動性」が気分の高揚につながりやすくなります。
また、「注意欠如による叱責(しっせき)や失敗体験の多さによって急に落ち込んだりすることもあります。
気分のアップダウンは、あくまで一時的なものです。
この「気分のアップダウン」が続くことにより、二次障害として双極性障害に発展してしまうこともあります。
金銭管理が苦手
ADHDの特性として、衝動買いが多く、やめられないことや、節約をしようと思っているのに無駄遣いをしてしまうというものがあります。
また、家計簿をつけ始めても、三日坊主になってしまうことも……。
衝動性が強いため、一時の感情で買い物などをしてしまい、後悔しがちです。
また、「お金の計算が面倒くさい」と先延ばしにしてしまい、先のことを考えずに行動してしまうことが多いといわれています。
家計簿などの、細かい作業が面倒に感じられ、先延ばしにしているうちに嫌になってしまったり、忘れてしまったりするため、家計簿をつけることを継続することが難しいという面もあります。
約束や締め切りを破ってしまう
ADHDの方は、大切な用事であっても約束の時間に遅れたり、約束自体を忘れたり、締め切りに間に合わないということがよくあります。
その原因は、大切な用事を行っている時にほかの用事を思い出してしまってそちらに気を取られてしまったりすると、最初の用事を忘れてしまいがちだからです。
スケジュール表にきちんと書いておく、付箋でメモをしておく、それをなくさないようにする、携帯にメモしておいてタイマーが鳴るようにする、などの対策が考えられます。
スケジュール管理・時間管理が苦手
ADHDの特性として、スケジュールや時間の管理が苦手だということが挙げられます。
その理由として、物事を整理して優先順位をつけるのが苦手なことや、他のことに集中しすぎてしまうことが考えられます。
また、上述した通り、タスクやスケジュール自体を忘れてしまうこともあります。
その他にも、集合場所にたどり着けなかったり、朝起きられなかったりすることも考えられます。
集合時間にたどり着けない理由としては、持っていく荷物がわからなくなり混乱してしまう、用意をしている時にあれこれ気が散ってしまう、ということが挙げられます。
朝起きられないことも、ただの寝坊というだけでなく、前夜にあれこれ考えすぎて眠れなくなり、結果朝起きられなくなる、ということもありえます。
ADHDの診断は病院で専門家にしてもらうこと
上述した通り、ADHDには、単独で診断できる医学的検査が存在しません。また、日常の行動などだけで判断することも難しいでしょう。
そのため、「ADHDかも?」と感じたら、医療機関で専門家に診察してもらうことをおすすめします。
まずは、ADHDのことを知り、自分の特性や、日常生活で困っていることをチェックしましょう。
その上で、医療機関で専門家に相談するのが良いでしょう。
まとめ
「ADHDは見た目でわかるのか?」についてまとめました。
行動の特性はあるものの、専門家でないと判断するのが難しいことがわかりました。
しかし、注意欠如・多動傾向の方は多く、ストレスが重なることで、うつ状態など、他の症状が出てきてしまうことがあります。
「ADHDかも?」と悩んだ場合は、速やかに医療機関で専門家に相談をしましょう。
- (※4)出典:ADHDの小児科医が伝えたいこと「発達障害と肥満」
- (※5)出典:豊田土橋こころのクリニック「ADHDの子供や成人は肥満になりやすい?」
- (※6)出典:PubMed (nih.gov)「Association Between ADHD and Obesity: A Systematic Review and Meta-Analysis」
- (※8)出典:知って向き合うADHD(保護者向け)「ADHDの特性:「多動性・衝動性」について」
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