HSP──Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)。
生まれつき、非常に感受性が強く敏感な気質をもつ人を意味します。後天的なもの、つまり病気や、生きてきた環境によって形成された性格などではなく、先天的な性質であるとされています(※1)。
具体的には、周囲の音や光、匂いなどに敏感であったり、他人の言動や感情に左右されやすかったりする特性を持ち、日常生活などで気疲れしやすいといわれています。
近年、SNSや書籍などで話題になることも多く、自分にもその特性が当てはまると感じる方も多いのではないでしょうか?
(※1)出典:マドレクリニック「HSP(Highly Sensitive Person)ハイリー・センシティブ・パーソン」
HSPの人は自分の限界サインを知っておこう
HSP研究の第一人者である心理学者のエレイン・アーロン博士によると、5人に1人がHSPとのことで、割合としては多い方だといえます(※2)。
しかし、HSPではない人は、HSPの特性に共感することが難しいため、HSPの方は生きづらさを感じてしまうことが多いと考えられています。
また、「HSPうつ」という言葉もあり、これはHSPが原因でストレスを感じ、そのストレスがきっかけとなって発症するうつ症状のことを指します(※3)。
そのため、HSPの方は自分の限界サインを知っておいた方が良いといえるでしょう。
(※2)出典:新宿ストレスクリニック「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは?」
(※3)出典:うつ病ナビ「HSPうつ」
HSPの限界サイン5つ
HSPの方の限界サインは分かるものなのでしょうか?
限界サインを5つご紹介します。
(1)胃腸の調子が悪くなる
HSPの方の限界サイン、1つ目は体の不調です。
HSPの方は体の病気が起こりやすいといわれており、例えば、胃潰瘍や過敏性腸症候群など、胃腸の調子が悪くなることが多いそうです。
日本を代表する文豪、夏目漱石も非常に神経過敏だったことから、HSPだったのではないかといわれています。実際に、胃潰瘍で長年苦しんできたそうです。
ストレスから発症する場合、体の痛みや苦しさを感じているのに、いくら検査をしても悪いところが見つからないというケースもあります。これは身体表現性障害や疼痛性障害などと呼ばれています(※4)。
(※4)出典:心療内科・精神科 ひだまりこころクリニック クリニックブログ「ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)へ。体からのSOSサインを見逃さないで!」
(2)不眠症になる
ストレスをため込みすぎると、夜なかなか眠れなくなることもあるといわれています。
HSPの方は「過覚醒(交感神経が過剰に高ぶっている状態)」を起こしやすく、不眠につながる可能性が高いそうです。
本来、休息状態になる際には副交感神経が優位になります。交感神経はストレスに立ち向かうときや、新しい環境に適応しようとするときに優位になるため、不眠につながりやすくなるのです。
本来、ストレスから解放されてリラックスできる状況になれば、副交感神経が優位になって休息状態になります。でも、HSPのように人の期待に応えようと過剰にがんばってしまったり、常にストレスにさらされてしまったりする場合、副交感神経が上がらず、交感神経が優位になり続けてしまうんです。この状態を、“過覚醒”と呼びます
※引用:nishikawa「周りの音や光が気になりすぎて眠れない…!繊細で敏感なHSP気質の人に見られる睡眠トラブルと解消法」
過覚醒になると、寝つきが悪くなり、睡眠も浅くなります。また、ささいな物音で夜中に起きてしまうことも……。
また、副交感神経が抑制されていることにより、胃腸などの機能が低下し、胃痛や吐き気、腹痛を引き起こすこともあるそうです(※5)
(※5)出典:nishikawa「周りの音や光が気になりすぎて眠れない…!繊細で敏感なHSP気質の人に見られる睡眠トラブルと解消法」
(3)周囲の音や匂いなどに、より敏感になる
過覚醒の状態になると、起きているときもリラックスできなくなります。
交感神経が常に高ぶることにより、動悸(どうき)や口の乾き、肩こり、頭痛などの症状も引き起こされます。
また、自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスが乱れることにより、喘息発作、じんましん、円形脱毛、月経不順などになることも……。
この状態が長期間続くと、さらに過敏になり、些細なことが気になったり、頭から離れなくなったりしてしまいます。心も頭も休息ができない状態になると、疲れやすくなり、意欲が低下し、最悪の場合、うつ状態となってしまう可能性もあります(※6)。
(※6)出典:心療内科・精神科・内科 パークサイド日比谷クリニック「ストレスと過覚醒」
(4)適応障害になるケースも
HSPの特性によるストレスが続くと、脳疲労から適応障害になる場合もあるそうです。
症状としては、不安、不眠、動悸などが挙げられます。また、疲れやすくなったり、頭が働かず集中できない状態になったりもします。
この状態が長く続くと、うつ病に発展する可能性があります(※7)。
(※7)出典:心療内科・精神科・内科 パークサイド日比谷クリニック「HSPと適応障害・うつ病」
(5)うつ状態になる
上述したように「HSPうつ」という言葉もあるほど、HSPの方がストレスをため続けてしまうと、うつ病を発症するリスクが高くなります。
以下のような症状が出ている場合、うつ病を発症している可能性が高いといわれています(※3)。
- 不眠または仮眠
- 思考停止
- 体調不良
- 絶望感
- 食欲増加または食欲減少
- 自殺願望
体の不調だけでなく、絶望感や自殺願望など、精神的な面にも表れます。
HSPの限界サインがあらわれたときの対処法
ここまで、HSPの方の限界サインをご紹介しました。
体の不調だけでなく、最悪の場合、適応障害やうつ病に発展してしまう可能性があることも分かりました。
このような限界サインがあらわれたとき、どのように対処するのが良いのでしょうか?
自分にとって安心できる環境をつくる
特に、不眠に悩んでいる場合は、遮光するなど、自分が安心して過ごせる環境をつくることが大切です。
光が気になる場合はカーテンや照明の見直しを、音に敏感な場合は時計の針の音を止めて、心地のよい音楽を流すなど、不快に感じるものを取り除くのが良いでしょう。
また、匂いや肌触りにも注意する必要があります(※5)。
一般的にはリラックス効果があると言われるアロマも、HSPにとっては逆効果。布団やパジャマの肌触りも同様で、着心地の良いものを新調するのではなく、「いつもと同じもの」を使用しましょう。大切なのは、心をホームの状態に安定させ、アウェイと感じさせないことです。
※引用:nishikawa「周りの音や光が気になりすぎて眠れない…!繊細で敏感なHSP気質の人に見られる睡眠トラブルと解消法」
余計な刺激をシャットダウンして、心地のよい環境をつくりましょう。
意識的に一人の時間をつくる
さまざまな刺激を受けて、疲れてしまったときは、意識的に「一人になる時間」を作るのが良いでしょう。
できるだけ静かな、ゆっくりできる場所で、気持ちを落ち着かせましょう(※8)。
(※8)出典:たわらクリニック「敏感すぎて疲れるのはHSPかも?うつ病にもつながるHSPの特徴と対処法」
ノートに自分の気持ちを書き出してみる
HSPの方は共感能力が高いがゆえに、他人の言動に敏感に反応してしまったり、共感しすぎて疲れてしまったりすることがあります。
その結果、自分の本当の気持ちを見失ってしまうことも……。
本当の気持ちや言いたかったことが分からなくなったり、言わなかった自分を責めたりして、苦しくなり、それがストレスになってしまうのです。
そんなときは、自分の本当の気持ちや考えを言語化してみるのがおすすめです。
ノートやスマホのメモに、自分の気持ちや考えを書き出してみましょう(※8)。
適応障害の場合は、落ち着ける環境に回避する
うつ病になる前の、適応障害の段階では、刺激が少ない場所や、自宅などの落ち着ける環境に回避することで症状が改善するといわれています(※7)。
ストレスや刺激が多い場所から離れて、しっかりと休むことが大切だといえるでしょう。
うつ状態の場合は病院で相談を
うつ病を発症している場合、自分で治すことは難しいと考えられています。
まずは、心療内科や精神科で相談するのが良いでしょう。
比較的症状が軽い「HSPうつ」であれば、回復も早くなるそうです(※3)。
一人で抱え込まず、専門家に相談して、早めに対処しましょう。
HSPの限界サインを見かけたときにしてあげられること
身近なHSPの方の限界サインを見かけた場合、どのように対応するのが良いのでしょうか?
周囲の人ができることをご紹介します。
HSPの特性に理解を示す
まずは、HSPの特性を理解することが大切です(※9)。
何が原因で不調なのか、何に対して敏感になっているのか、などを知り、特性を理解することで、その人にとって今どんな対処が必要なのかが分かるかもしれません。
(※9)出典:Discover「『鈍感な世界に生きる 敏感な人たち』イルセ・サン 身近な人がHSPの場合の適切な対策・対処方法とは」
適応障害やうつ病の症状がある場合は、相談につなげる
「いつもと様子が違う」と感じた場合、まずは話を聞いてあげましょう。
その上で、適応障害やうつ病の症状があるかもしれないと感じた場合は、会社の産業医や相談窓口、または心療内科や精神科の医師に相談してみるよう、促してみるのが良いでしょう。
本人が相談することに抵抗を示す場合は、まずは家族や周囲の人が相談してみるのも1つの方法です(※10)。
(※10)出典:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「ご家族にできること」
職場の環境を知り、相談する
仕事が終わるのが遅い日が続いていたり、休日出勤が多かったりする場合、過重労働になっている可能性があります。
時間外・休日労働時間が一定の時間を超えると、健康障害のリスクが高まるといわれているため、専門の機関に相談するのが良いでしょう。
また、職場でのハラスメントが疑われる場合も早めに対処することが必要です。うつ病などのメンタルヘルス不調に発展する可能性があるため、その場合も専門の機関に相談しましょう。
本人が相談することももちろん可能ですが、家族が相談することもできます(※10)。
静かに見守る
明らかな症状が出ている場合は、相談するよう促す必要がありますが、静かに見守ることも大切です(※9)。
状況を見て、静かに見守ったり、サポート役に徹したりしましょう。
療養を支える・励まさない
うつ病だと診断された場合、療養が必要になります。
安心して休息できる環境をつくるためのサポートをしましょう。
また、励ましたり、無理に特別なことをしたりしないことも大切です。優しさで励ましたつもりでも、本人は「何もできない自分は情けない」と自分を責め、症状を悪化させてしまう可能性があるためです。
「今は励ますべき時期か、励まさない方が良い時期なのか?」と迷ったら、医師に相談しましょう(※10)。
まとめ
HSPの方の限界サインと、その対処法をご紹介しました。
ご自身がHSPでつらいとき、または身近な人がつらそうなときの参考になると幸いです。
「適応障害やうつ病の症状が出ているかも」と感じたときには、速やかに医療機関で相談しましょう。
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