HSP(Highly Sensitive Person)」は、繊細で感受性が強いという特性を持つ人々を指す言葉です。
Elaine N. Aron博士によって1990年代に提唱された概念です。HSPの人は外部の刺激に敏感であり、環境や人々の感情に対する反応が強い傾向があります。
HSPが人を見下す傾向があるかどうかに関する明確な研究は、今のところありません。
しかしネット上の一部では、「HSPの人は人を見下しているのでは?」といった意見も見られます。
一体なぜ、そのような意見があるのでしょうか?
HSPの人々が他者の感情やニュアンスを敏感に捉えるため、通常の人よりも深く理解することができるとされます。これが誤解され、「他者を見下している」と感じられることがあるからかもしれません。
今回の記事では、なぜこのような意見が生まれるのか、HSPが人を見下すと言われる理由を紐解いていきたいと思います。
「臨床心理士&公認心理師」として、国立病院や精神障害者デイケア施設、スクールカウンセラー、発達障害者就労支援センター、障害者就労移行支援事業所、療育の現場で「心の専門家」として20年勤務してきました。今までのべ2000人以上の方のこころの相談を受けてきました。日々のカウンセリングの中で得た発見や知識を体系的にお伝えしていければと思っております。「相談が終わったときには、来てくださった人が笑顔になるようなカウンセリング」を心がけて日々相談に乗るようにしています。
HSPが人を見下すと言われる理由
「HSPの人が人を見下している」といわれる理由をいくつかご紹介します。
自分のことを特別だと思っているように見えるから
HSPの人は、敏感で繊細な特性を持つため、HSPではない人が気づかないようなことに気づいたり、他人のささいな言動から感情を読み取ることができたりします。
その特性により、生きづらさを感じることもありますが、他の人が気づかないようなことに気づけることは長所になることもあります。
しかし、HSPではない人は、HSPの人から「私は他の人が気づけないことに気づける」「私は人の気持ちがよく分かる」と言われると、それが「あなたは気づけないでしょ」「あなたには人の気持ちがわからないでしょ」と取られてしまうことがあるのかもしれません。
このような誤解が、HSPの人が他者を見下しているという印象を持たれる原因の一つとなっている可能性があります。
自分と合わない人と距離を置くから
HSPの人は、他人の言動に影響を受けやすい特性を持っています。
特にネガティブな感情を表に出す人が近くにいると、その場にいることがつらくなってしまうことも……。
攻撃的な人も苦手な傾向があり、会話の中で必要以上に相手を攻撃する人に対しては恐怖や嫌悪感を覚えてしまいます。そして、「自分とは合わない人だ」「この人と関わるのは危険だ」と判断して距離を置くこともあります。
一度そのように判断すると、その後も距離を置き続けることが多いでしょう。
周囲の人からすると、HSPの人は、自分を守るために人を避けているように見えます。それが人を見下しているように捉えられてしまうのかもしれません。
他人に本音を言えないのは、他人を軽視していると思われている?
HSPの人は、他人の感情にも気づきやすいため、「これを言うと相手が悲しむのではないのか?」「嫌われるのではないのか?」と思うと、本音を言えないこともあります。
本心では「嫌だなぁ」と感じていても、「NO」と言うことができない場面も多々あるのです。
しかし、HSPではない人からすると、HSPの人が本音を話してくれないのは、人として信頼されておらず、軽んじられているからだと感じてしまうこともあるかもしれません。
HSPではない人のことが本当は羨ましいから?
HSPの人は、その特性により、日常生活のさまざまな場面で生きづらさを感じてしまいます。
それゆえに、HSPではない人が羨ましく思えてしまうこともあるのではないでしょうか。
羨ましい気持ちが嫉妬に変わると、その本心を隠すために、人を見下したり、攻撃的な態度をとったりしてしまうことも……。
そのような場合は、HSPの人が、HSPでない人たちを見下していると思われてしまうかもしれません。
劣等感を隠すため?
HSPの特性で生きづらさを感じている人の中には、HSPであることに劣等感を覚えている人もいるかもしれません。
HSPではない人のことが眩しく見えると、どうしてもその劣等感を隠したくなるでしょう。
劣等感を紛らわせるために、他人を見下してしまうHSPの人もいるかもしれません。
HSPの感覚を理解してくれない人を見下す?
HSPの感覚や特性は、HSPではない人には共感が難しいといわれています。
そのため、HSPの人はより生きづらさを感じることがあります。
しかし、理解・共感してもらえず「なぜ理解してくれないのか?」「人の気持ちを理解できないなんて……」と怒りや悲しみに変わり、HSPでない人を見下してしまうこともあるのかもしれません。
防衛本能から人を見下してしまう?
HSPの人は、他人の何気ない言動に傷つくことも多いです。ささいな一言や、冗談なども深読みしてしまい、その言葉が頭から離れなくなることも……。
そのようなことが積み重なると、心の傷がどんどん深くなってしまいます。
それを避けるために防衛本能から、傷つけてくる人を見下してしまうことがあるかもしれません。
傷つけてくる人に対して、HSPの人が心の中で「この人の言動なんか気にしない」と思っている程度で済むと良いですが、それが態度に出てしまうと、HSPでない人たちは見下されていると感じてしまうでしょう。
逆にHSPの人は見下されるとどう感じる?
ここまで、「HSPの人が人を見下している」といわれる理由をご紹介しました。
しかし、その逆はどうなのでしょうか?
HSPの人は、繊細で優しい人が多く、攻撃的な態度を取られたり、優しさにつけ込まれて周りの人立ちにマウントを取られたりすることも多いと考えられます。
「HSPの人が見下されるとどう感じるか?」についてまとめてみました。
「言い返したら嫌われるかも?」と思い、受け止めてしまう
HSPの人は攻撃的なことを言われたり、ばかにされたりしても、「言い返したら嫌われるのではないか?」と思い、何も言い返せず、その言葉を受け止めてしまう場合も多いと考えられます。
必ずしも言い返す必要はありませんが、気にしすぎないようにすることが良いでしょう。
「気にしていない」という素振りは、相手の心を揺さぶる効果があります。
敏感さゆえに傷ついてしまう
HSPの人は見下されると、まともに受け止め、傷ついてしまうことが多いでしょう。
また、そのことが頭から離れなくなり、ぐるぐると考えて悩んでしまうことも……。
気にしないことも大切ですが、傷つけてくる人と距離を置くことも重要です。
上述したように、HSPの人が距離を置くことで、HSPでない人たちの中には見下されていると捉える人もいるかもしれません。
しかし、時には物理的に距離を置く形で自分を守ることも大切でしょう。
怒りの感情を出すのが怖いと感じる
HSPの人は、自分の感情を出すのが怖いと感じる場面も多くあります。
感情を出すことで傷つくことや、嫌われることを恐れてしまうのです。
しかし、自分の本当の気持ちを抑えて、がまんし続けてしまうと、とてつもないストレスがたまります。
そして、それが適応障害やうつ病の発症につながる危険性もあります。
がまんしすぎず、時には勇気を出して自分の気持ちや考えを話してみましょう。
自信がなくなる
HSPの特性として、自己肯定感が低いことも挙げられます。
そのため、見下されることにより、さらに自信がなくなり、自己肯定感が低くなってしまう可能性があります。
しかし、見下す人も本当は自分に自信がなく、そんな自分を保つために人を見下していることが多いのです。
そのため、HSPの人も見下されたからといって、自信をなくしてしまうのではなく、「本当はこの人も自信がないんだろうな」と心の中で思っておくのも1つの対処法だといえるでしょう。
対人関係自体に疲れを感じる
HSPの人は、日ごろから、対人関係でさまざまなことを気にしており、気疲れしている面があります。
そんな中で見下されてしまうと、さらに疲れを感じてしまうことも……。
その環境や対人関係自体が嫌になってしまうこともあるでしょう。
職場や学校であれば、行きたくなくなってしまったり、最悪の場合、うつ状態になってしまったりする可能性もあります。
そのような場合は、その対人関係から距離を置いたり、一人で静かに過ごせる場所で休んだりしましょう。
さまざまな刺激に疲れたときは、意識的に一人の時間を作ることが大切です。
HSPは人を見下すぐらいのマインドがちょうどいいかもしれない
「HSPの人が見下されたときにどう感じるか?」をご紹介しました。
繊細で優しい人が多いがゆえに、攻撃的な態度を取られたり、その優しさに漬け込まれて見下されてしまったりすることが多いHSP。
あまりに度が過ぎると、いじめやパワーハラスメントなどになってしまうため、注意が必要ですが、HSPの人は「見下す人を跳ね返すくらいのマインド」がちょうどいいのかもしれません。
そのマインドをいくつかご紹介します。
嫌なことを言われても気にしない
嫌なことを言われても、まともに受け止めず「気にしない」というマインドでいるのが良いでしょう。
意識的に「気にしなくて大丈夫!」と思うことで、頭の中から離れなくなったり、深く悩んでしまったりすることを避けられます。
傷つけてくる人から距離を置く
上述したように、距離を置くと、その態度を見下していると捉える人もいると思います。
しかし、一緒にいて嫌な気持ちになる人、傷つけてくる人とは物理的に離れることが大切です。
HSPの人は、安心して過ごせる良好な環境下に身をおくことで、高い能力を発揮できるといわれています。
HSPの特性を良い方向に発揮するためにも、人との距離感を適度に保つようにしましょう。
HSPの特性を生かせる場面を考える
他人の言動を気にしすぎたり、考えすぎたりしてしまうことを、ネガティブな要素だと感じている方も多いのではないでしょうか。
確かに、その特性により、日常生活で疲れてしまうことも多いでしょう。
しかし、他の人が気づけないことに気づけることや、深く考えられることは長所でもあります。あらゆる組織や仕事で、その能力が必要とされる場面もあるのです。
HSPの特性に劣等感を抱かず、生かせる場面もあるのだと、プラスに考えていきましょう。
良い面を考えていくことで、自信がつき、自己肯定感も上がるでしょう。また、HSPではない人に見下されても、前ほど気にならなくなるかもしれません。
まとめ
「HSPが人を見下している」といわれる理由と、逆に「HSPの人が見下されるとどう感じるか?」についてまとめました。
HSPの人の防衛本能による態度により、見下していると捉えられる可能性があるということが分かりました。
とはいえ、繊細で優しいHSPの人が見下される場面も多いように感じられるため、時には「見下すくらいのマインド」を持つことも大切だといえるでしょう。
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