人の「感情」は目に見えません。
相手の言動から感情を推測することはできますが、あくまで推測です。
究極、感情の持ち主でさえも、その感情を何と表現したらいいのか分からない、ということが多々あります。
この複雑極まりない人の「感情」を、どうやって目に見える形で表現していくのか、このテーマに果敢に取り組んだ心理学者がいます。
ロバート・プルチックです。彼が提唱した「プルチックの感情の輪モデル」は、誰でも直感的に分かりやすいと、今、様々な分野で広まりつつあります。
今回は、「プルチックの感情の輪モデル Plutchik’s wheel of emotions」を分かりやすく解説しつつ、注目されている理由にも迫っていきたいと思います。
プルチックの感情の輪とは
ざっくり解説すると、「プルチックの感情の輪」とは、人間の感情の種類を「色」で表し、それを「立体的」に組み合わせることで、感情同士が混ざり合うような複雑な感情まで、表現を可能にした図です。
上記の図が「プルチック感情の輪」です。
直感的に誰でも分かりやすいため、感情を表現する時、また何かをデザインする時のカラーリングの参考にするなど、ここ数年で一気に広まっています。
「プルチックの感情の輪」を提唱したのは、ロバート・プルチックさん。
コロンビア大学で博士号を取得したアメリカの心理学者です。
1927年10月21日 に生まれ、2006年4月29日に亡くなっています。
近年まで活躍されていたことを考えると、プルチックの理論は、数ある感情理論の中では比較的新しい理論であることが分かります。
260以上の論文、45の章、8冊の本を執筆または共著し、7冊の本を編集しました。研究テーマは、感情の研究、自殺や暴力の研究、心理療法のプロセスの研究などだったそうです。
参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Plutchik
プルチックの感情の輪をわかりやすく解説!
【8つの基本感情】
プルチックの感情の輪では、まず、感情を8つの基本感情(純粋感情)に分けています。
- 喜び:達成感や感謝などの、さわやかな気持ち
- 信頼:心配なく、信じて安心した気持ち
- 恐れ:危険や危機を感じている気持ち
- 驚き:予期しない出来事に驚く気持ち
- 悲しみ:喪失感や絶望感などの気持ち
- 嫌悪:不快感や嫌悪感などの気持ち
- 怒り:不愉快で苛立つ気持ち
- 期待:希望を持って待ち望む気持ち
8つの基本感情は、ポジティブな感情、ネガティブな感情、中立な感情に分けることができます。
- ポジティブな感情…「喜び」「信頼」
- ネガティブな感情…「悲しみ」「嫌気」「怒り」「恐れ」
- 中立な感情…「驚き」「予測」
更に、8つの基本感情は、それぞれ相反する感情があるともされています。
- 喜び↔悲しみ
- 信頼↔嫌悪
- 恐れ↔怒り
- 驚き↔期待
上記のように4つの対に分かれるのですが、しっくりくる方、しっくりこない方がいるかもしれません。
それは、プルチック感情の輪に限らずですが、これらの感情表現は、英語で提唱された理論の日本語訳だ、という点です。
プルチックが意図した感情を正確に捉えた日本語の単語になっているかどうかは、何とも言えない部分です。
そのことも踏まえると、しっくりこない方は、そもそもどんな英単語が使われているのか、確認してみると良いかもしれません。
基本感情についての最後の説明です。
基本感情は、それぞれの強弱によって別の感情でも表現できるとされ、強弱は色のグラデーションで表現されています。
下記のように、全部で16種類あり、基本感情が強まると左の感情表現、弱まると右の感情表現になります。
- 恍惚 > 喜び > 平穏
- 敬愛 > 信頼 > 容認
- 恐怖 > 恐れ > 不安
- 悲嘆 > 悲しみ > 哀愁
- 強い嫌悪 > 嫌悪 > うんざり
- 激怒 > 怒り > 苛立ち
- 驚嘆 > 驚き > 放心
- 警戒 > 期待 > 関心
感情の輪を見ると、内側に行くほど感情が強まり、外側に行くほど薄まる、色のグラデーションでうまく表されています。
プルチックの輪は、感情を色と照らし合わせて表現する、という点では、本当に分かりやすいと思います。
ただし、先にも書いたように、この単語がしっくりくるかこないかは個人差があると思うので、自分なりにしっくりくる表現を探してみるのも良いかもしませんね!
【2つの基本感情が合わさる混合感情】
基本感情だけであれば、プルチックの感情の輪はそこまで注目されなかったでしょう。
プルチックの感情の輪の面白い所は、8つの基本感情をペアで組み合わせることによって、24の混合感情が生まれる、としたことです。
応用感情、二次感情とも呼ばれています。
プルチックの感情の輪によると、まず、類似した感情は隣り合うように配置されています。
日常的によく経験する感情は、基本感情が混合した感情であるとして、図のように軸と軸の間に表現することができます。
例えば、「驚き」と「悲しみ」が混合してできる「失望」は、「驚き」の軸と「悲しみ」の軸の間に表現されています。
- 喜び+信頼=愛
- 信頼+恐れ=服従
- 恐れ+驚き=畏怖
- 驚き+悲しみ=拒絶
- 悲しみ+嫌悪=後悔
- 嫌悪+怒り=軽蔑
- 怒り+期待=攻撃
- 期待+喜び=楽観
更に、隣通しではなく、一つおきの感情と混合した感情が生まれることもあるとしています。
- 喜び+恐れ=罪悪感
- 信頼+驚き=好奇心
- 恐れ+悲しみ=絶望
- 驚き+嫌悪=憤慨
- 悲しみ+怒り=悲憤
- 嫌悪+期待=皮肉
- 怒り+喜び=自尊心
- 期待+信頼=運命
混合感情をここまで読んで、「なるほど!」と感じる人もいれば、「意味がよく分からない」と感じた人もいるかもしれません。
本当は、更に二つ置きの基本感情が混ざった感情も、三つ置きに混ざった感情も存在ます。
混合によってどんな感情が起こるのかは、図3の繋がりをみると分かりやすく描かれています。
混合感情は全部で24あるのですが、最も分かりやすいと感じた表を下記に引用しておきます。
この表を見ると、心理学的にはカラーセラピーを思い起こさずにはいられません。
特に、オーマソーラと呼ばれるカラーセラピーを連想させます。
オーラソーマは、1983年にイギリスでヴィッキー・ウォールという女性によって生み出されたカラーケアシステムです。
上下2層になっている複数のカラーボトルから、その時の感情に合わせて気になる4本を選ぶことで、心理状態を探ったり、その人の才能や必要としている色を解明することができます。
オーラソーマは、色彩心理学が基本ですが、占星術、数秘術、チャクラなど、古くから親しまれている占いにもルーツがあるとされています。
私もカラーセラピストの資格を持ち、希望者にはカラーセラピーを行うことがありますが、このプルチックの感情の輪をカラーセラピーに取り入れることは、クライアントの感情を明確化し、共有するという意味では、非常に有効だと感じています。
プルチックの感情の輪に関する研究や論文
プルチックの感情の輪に関する研究や論文は、心理学の分野でももちろん取り扱われているのですが、実は心理学以上に盛んに取り入れられている分野があります。
それは、情報科学や、AIなどのロボット工学の分野です。
例えば、「情報処理学会研究報告」という学会誌では、下記の様なテーマでプルチックの感情の輪の理論が使われています。
「ロボットが表出する感情の社会機能的評価」
ロボットの目に搭載されたフルカラー LED の点滅パターンによって、ロボットに感情を表出させ、それが人に伝わるかどうかを検証しています。
感情に相当する点滅パターンに、プルチックの感情の輪の理論を導入しています。
「音声チャットを利用した対話中に表れた感情の識別」
オンラインゲーム中の自然な対話を収録し、その特徴から感情を分類していく過程で、プルチックの提案した感情の輪の「基本感情(一次的感情)」を活用しています。
また、「電子情報通信学会技術研究報告」という学会誌では、下記の様な論文が見られました。
「プルチック感情モデルを用いたコミュニケーションロボットの動作生成方法」
ロボットが感情を表出する方法として、言語情報を用いる以外に、非言語情報を用いる手法も盛んに研究されており、この論文では、プルチックの感情の輪を応用した感情の強弱の表現の可能性について、研究をしています。
今後、プルチックの感情の輪は、人とロボットがコミュニケーションを取る上で欠かせないサインや信号として、盛んに活用されていくのかもしれませんね。
プルチックの感情の輪に関する本や書籍
プルチックの感情の輪に関する書籍をお探しの場合は、まずプルチック本人が書いた本を読んでみるのが良いでしょう。
ただ、残念ながら、現在翻訳されているプルチックの本は少ないようです。
もしプルチック本人以外で、感情についてもっと知りたいという方は、下記の書籍もお勧めです。
人の感情を、より分かりやすく、日常のなかでイメージしやすいものとして解説しているので、分かりやすい内容だと思います。
「感情」の解剖図鑑: 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方
最後に、この文章を書くにあたって様々な文献やサイトを参考にさせていただきましたが、最も分かりやすい!と感じて、図や表を引用させていただいたページを紹介します。
【52種類を網羅】プルチックの感情の輪を徹底解説 | (careality.jp)
キャリアリティという転職情報サイトの社会人向けコラムの中の記事ですが、最も分かりやすいと感じました。また、図や表を引用するのも自由、と書いてありましたので、この記事でも活用させていただきました。
まとめ
以上、プルチックの感情の輪について解説してきました。
心理学の世界では、感情の分類研究は古くから行われています。
プルチックの感情の輪の功績は、複雑な感情も「8つの基本感情」の重なりや強弱で表すことが出来る、と示したことだと思います。
自分の感情が分からない、相手の感情が分からない、そんな戸惑いを持った時は、ぜひプルチックの感情の輪を思い出してください。
ぴったりな感情を表す言葉がみつかるかもしれませんよ。
コメント
全体像をわかりやすく
説明していただいていた
ので、理解しやすかった
です。
この、感情の輪の内容を
学ぶとすればどの本が
いいでしょうか?
円環モデルは読んだのですが
感情についての記述は少なく
もう少し踏み込んだ内容を
学べれば嬉しいです。