「卵の殻を誤って食べてしまった……」
そんな経験がある方もいるのではないでしょうか?
日常で食べる機会の多い、卵料理。
卵を割った際に殻の欠片が入り、うっかり食べてしまった場合、体に影響はあるのでしょうか?
こちらの記事では、卵の殻を食べる危険性や食べてしまったときの対処法、安全に食べる方法などをご紹介します。
病院勤務5年、保育園勤務12年。現在は病院で勤務しています。SNSやネットなどで食の情報がたくさんありますが、正しい食の知識を発信し、みなさんの健康に少しでも役に立てるようようにしていきたいです。
卵の殻を食べるのは平気なの?
うっかり食べてしまうこともある卵の殻ですが、生卵の殻には菌が付着している可能性も高く、危険だといえるでしょう。
詳しい危険性や菌の種類については、後ほど詳しく解説します。
卵の殻を食べると気持ち悪いのはなぜ?
卵の殻をかむと「ガリッ」という音と食感が気になります。
料理の食感とも明らかに異なるため、「食べてはいけないものを食べてしまった感」もあり、不快感をおぼえます。
また、食中毒を引き起こす菌や雑菌など、衛生面での懸念もあるため、気持ちが悪くなってしまいます。
卵の殻を食べる危険性・リスク
生卵はサルモネラ菌に汚染されている可能性がある
卵には、私たち人間に必要な栄養素がたくさん含まれています。
その一方で、食中毒を引き起こす「サルモネラ菌」に汚染されている可能性も高いです。
サルモネラ菌による食中毒の症状は4〜48時間後に発症する事例が多く、主な症状は悪心、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢、発熱などです。39℃以上の発熱で脱水症状を示す場合もあり、小児、老人の場合は重症化すると死に至るケースもあります。
また、発育温度は10℃以上で、20℃以上になると増殖しやすくなります。
発育至適温度は37℃程度といわれていますが、熱抵抗性が弱いため、十分な加熱で死滅します(※1)。
そのため、調理過程で加熱した卵であれば安全に食べることができます。
しかし、殻に火を通していない場合、サルモネラ菌が付着している可能性があるため、大変危険です。
水洗いで殺菌効果が薄れてしまう
鶏卵は採卵後、通常、流通過程でパックに詰められる前に「洗浄・殺菌処理」が実施されています。
そのため、殻の表面を水洗いすると、殻にある無数の微細な穴から、雑菌が水と一緒に卵の中に侵入する可能性があるといわれています(※1)。
サルモネラ菌に限らず、さまざまな雑菌が付着している恐れがあるため、食中毒などになるリスクが高くなります。
(※1)出典:株式会社 東邦微生物病研究所 総合衛生研究所 ティ・ビーエル「卵とサルモネラについて」
卵の殻を間違って食べてしまったときの対処法
非常に恐ろしいサルモネラ菌。熱に弱く、75℃以上、1分以上の加熱で死滅します1が、生卵の殻を食べてしまった場合どうなるのでしょうか。
この項目では、誤って生卵の殻を食べてしまったときの対処法をご紹介します。
生卵の殻を食べてしまったときの対処法
生卵の殻を食べてしまい、下痢や嘔吐など、食中毒のような症状が出た場合の対処法をまとめました。
下記の症状が見られる場合は、すぐに病院へ行きましょう。
食中毒の場合、応急処置では間に合わないこともあるため、すぐに病院に行きましょう。特に、お年寄りや小さな子どもの場合は迅速な対応が必要です。
意識障害など、症状が重い場合は救急車を呼びましょう。2
救急車を呼ぶかどうか迷ったときに参考になるサイトはこちらです。
ためらわず救急車を呼んでほしい症状(小児(15歳未満)) (PDFファイル: 230.4KB)
ためらわず救急車を呼んでほしい症状(大人) (PDFファイル: 237.5KB)
ためらわず救急車を呼んでほしい症状(高齢者) (PDFファイル: 1.6MB)
また、症状が軽い場合の、自宅で行う応急処置の方法もご紹介します。
<水分をとる>3
- 食中毒が疑われる場合は、安静にして水分を十分にとる
- 嘔吐や下痢による脱水症状を防ぐため冷水でなく、常温または少し温かいお湯にする
- 吐き気がある場合は、スプーン一杯の湯冷ましから飲む
- 吐き気がおさまってきたら、スポーツドリンクや経口飲料水、リンゴジュースなどを飲む
<無理のない範囲で食事をとる>
- 水分もとれるようになり落ち着いてきたら、少しずつ食事をとる
- 嘔吐や下痢で胃腸が弱っているため、消化のよいもの、栄養価の高いものを選ぶ(おかゆや野菜スープなどの流動食、うどんやバナナなどの刺激が少ないもの、など)
<二次感染を防ぐ>
- 軽度であっても下痢や嘔吐がある場合は、家族の食事を作らない
- 糞便や嘔吐物は、細菌やウイルスなどの病原菌が含まれており、感染症の原因となる可能性があります。そのため、処理の際には十分な注意が必要です。4
床や物に飛び散った糞便や嘔吐物の処理方法
- 使い捨てのエプロン、マスク、手袋を着用する。
- 汚物をペーパータオルなどで静かに拭き取る。
- 拭き取った部分を次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm)で拭き、その後水拭きする。
- 拭き取りに使用したペーパータオルなどはビニール袋に密封して破棄する。
布団や衣類に付着した糞便や嘔吐物の処理方法
- 汚物を静かに拭き取る。
- 洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いする。
- 85℃以上の熱水洗濯か、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。
赤ちゃんや子どもが卵の殻を食べてしまったときの対処法
赤ちゃんや小さな子どもが食べる料理を作る際には、殻が入らないよう、十分に注意する必要があります。
しかし、気をつけていても、小さな欠片が入ってしまうこともあるでしょう。
そこで、赤ちゃんや子どもが殻を食べてしまった場合の対処法もご紹介します。
水分をとることや、食事に関することは、上述した応急処置の方法と同じです。
特に気をつける点は、吐いたものが喉に詰まる危険があるため、寝かせるときは横向きにすることです。
赤ちゃんや子どもだけでなく、お年寄りにも同じことがいえます。
卵の殻を食べるメリット
ここまで、生卵の殻を食べることの危険性をお伝えしてきましたが、一方で加熱したものであれば卵の殻を食べることにメリットがあるといわれています。
その理由は豊富な栄養素を含むためです。
卵の殻には、1個あたり約1,800~2,000mgのカルシウムが含まれています。ちなみに、牛乳には1杯200mgあたり約220mgのカルシウムが含まれているため、比較すると、卵には約10倍のカルシウムが含まれていることになります。
また、特に、卵の殻に含まれる炭酸カルシウムは胃酸で溶けやすく、体内への吸収性に優れています(※3)。
そのため、食品に使用されることもあります。
実際に、食品メーカーのキユーピーは、マヨネーズなどの製造過程で発生する卵の殻をカルシウム強化食品や土壌改良剤、肥料などに再生利用しています。
また、殻の内側にある0.07ミリの薄い卵殻膜は、肌のハリの素となるⅢ型コラーゲンを増やす働きがあるといわれており、化粧品の原料や食品の原料として活用されています。
ベトナムのハノイ国立栄養研究所との共同研究では、卵殻カルシウムがヒトの骨量を増加させることを確認しています。子どもの体格向上や高齢者の骨粗しょう症への課題解決にも取り組んでいるそうです(※4)。
キユーピーは、1950年代から再生利用の取り組みを始めており、現在では100%再資源化に成功しています(※5)。これは、SDGsの観点からみても魅力的な取り組みだといえます。
きちんと殺菌をすれば、卵の殻はカルシウムの宝庫といえます。
今後、SDGsの観点からも、卵の殻の活用は増えていくのではないでしょうか。
(※3)出典:shufuse「卵の殻を食べることはできる?メリットと正しい食べ方」
(※4)出典:SMART AGRI「キユーピー、卵殻と卵殻膜の活用で「第7回食品産業もったいない大賞」農林水産省食料産業局長賞を受賞」
(※5)出典:キユーピーマヨネーズ「卵はムダなく使っています」
卵の殻を食べる方法!レシピなどを紹介
上述した通り、卵の殻は加熱して殺菌さえすれば、カルシウムが豊富に含まれています。
そこで今回は、自宅でも作れる、殻ごと食べてカルシウムをとることができる料理を2つ紹介します。
栄養面でのメリットだけでなく、ゴミを減らすこともできる卵の殻料理。
加熱処理には十分に注意した上で、ぜひ試してみてください。
うずらの卵の塩焼き
まずは、うずらの卵の塩焼きです(※6)。
気になる殻はエビの尻尾のような存在感。手軽にできて、カルシウムもとれて、一石二鳥です。
加熱処理に気をつける必要がありますが、殻を食べてみたいという方はぜひ試してみてください。
<材料 (1人前)>
・うずらの卵(殻ごと):好きな数
・楊枝:卵3つに1本
<レシピ>
(1)うずらの卵を殻ごと楊枝に突き刺します。1本の楊枝に3つの卵を刺します。卵はよく洗ってください。
(2)オーブントースターで裏と表を4分ずつ焼きます。ちゃんと串に刺さないと爆発することがあるので注意が必要です。
(3)しょうゆやソースなど、お好みのタレをつけて食べます。
(※6)出典:cookpad「うずらの殻焼き」
卵の殻入り食パン
卵の殻の粉を入れて作る食パンです(※7)。
毎朝食べる食パンが、カルシウムたっぷりだと嬉しいですね。
ふわふわの食感の中に、卵の殻のザラザラ感があるそうです。
殻の量を5gにすると、あまり違和感がないそうなので、お好みの量に調整して作ってみてください。
<材料 (1斤)>
・卵の殻の粉:10g
・強力粉:250g
・バター:15g
・砂糖:大さじ1
・はちみつ:大さじ1
・牛乳:180cc
・塩:小さじ1/2
・ドライイースト:小さじ1
<レシピ>
(1)卵の殻を熱湯で5分ほど入れたら95度のオーブンに15分加熱し、ブレンダーで粉砕します。
(2)強力粉、卵の殻の粉、バター、砂糖、はちみつ、牛乳、塩、イーストは砂糖の上をめがけてかける。最後に牛乳を入れてスイッチオン。
これを応用して、卵の殻の粉をピザやパン、クッキーなどの生地、カツの衣などに混ぜて料理に使うこともできます(※8)。
(※7)出典:cookpad「卵の殻入り食パン」
(※8)出典:IT Wrap「卵の殻には栄養がいっぱい!捨てないで再利用する方法」
卵の殻を食べる生き物はいる?
卵の殻を食べる生き物もいます。その一例をご紹介します。
まずは、カタツムリです。
カタツムリといえば植物や野菜を食べるイメージがありますが、大事なエサの一つが卵の殻なのです。
人間と同じで、カタツムリにとってもカルシウムは欠かせない栄養素の一つです。
カタツムリの殻はカルシウムでできており、野生のカタツムリはコンクリートなどに含まれているカルシウムを食べています。
そのため、家庭で飼育する場合は、野菜だけでなく卵の殻もあげることをおすすめします(※9)。
次に、蝶(ちょう)の幼虫です。多くの蝶の幼虫は、孵化(ふか)した後に卵の殻を食べます。
理由として、卵の殻に幼虫が最初に必要な栄養が含まれていることや、卵の殻があると、天敵に見つかってしまうということが挙げられます。
また、卵の殻を食べた幼虫は食べなかった幼虫より、少し成長が早くなったなどの観察例もあるそうです(※10)。
ここでいう卵は、私たち人間が食べる卵とは異なりますが、蝶の卵の殻には、蝶に必要な栄養素が豊富に含まれていることがわかります。
(※9)出典:自然の展開図「カタツムリの飼育はカンタン! 卵の殻を食べるってホント!?」
(※10)出典:ぶろてんワールド「孵化のページ」
まとめ
今回は、卵の殻を食べる危険性や、食べてしまったときの対処法、安全に食べる方法などをご紹介しました。
卵の殻には栄養がたくさん含まれている一方で、危険な菌が付着していることもわかりました。
加熱していない殻を食べてしまい、食中毒の症状が出てしまった場合は速やかに処置をしましょう。
- 大阪府/たまごの取扱い, https://www.pref.osaka.lg.jp/shokuhin/shokutyuudoku/egg.html
- 救急車を呼ぶかどうか迷ったときに|東広島市ホームページ, https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/shobo/1/3/16549.html
- 『夏のトラブル対処法~食中毒~』(8月25日)|船橋市公式ホームページ, https://www.city.funabashi.lg.jp/kodomo/support/002/040825one.html
- 「食中毒について」:みんなの医療ガイド | 公益社団法人全日本病院協会, https://www.ajha.or.jp/guide/24.html
コメント
71歳男性です。
ウエイトトレーニングを継続しています。
先日高齢者は卵を一日何個まで食べていいか調べていたら、かのシュワルツェネッガーのトレーニングパートナーであったフランコ・コロンボは卵の殻も食べていた記述がありました。
2024年1月20日から卵の殻を約3分の2くらい毎日食べています。少し洗ってそのまま食べます。今日は6月30日です。至って元気で摩耗した歯が回復したような気さえします。
断言はしませんが今どきの卵の殻にはサルモレラ菌は付着していないと思います。生卵を割っていたら、殻と生卵が接触することが度々あり、その都度食中毒を起こすのではないでしょうか。