YOKU STUDIO による連載企画、SPIRITUAL REBIRTH PROJECT。
今回は、「輪廻転生 再生」シリーズの第 7 弾です!
前回は、古代ギリシャの哲学者・プラトンの考えを源流とし、古代〜中世のヨーロッパ社会において脈々と受け継がれた「生まれ変わり」についての考え方を紹介しました!
新プラトン主義にしても、グノーシス主義にしても、当時の社会において「正統」とされていたキリスト教の考え方から見れば、それは「異端」。
「最後の審判」後の死者の復活だけを認めるキリスト教に対する、小規模のカウンター勢力として、これらの「輪廻転生」思想が存在していたというわけです。
そして、ヨーロッパ社会のなかで、「異端」としてひっそりと息づいていたこのような「輪廻転生」観が、新たな解釈を加えられ、勢いを持って表舞台に出てきたのは、近代以降のこと。
近代の神秘思想家・スピリチュアリストたちの多くは、「輪廻転生」は存在すると考え、それを理論化することを試みました。
このことは、単なるオカルト趣味の流行を指し示しているのではありません。
それまでのキリスト教の権威が失われつつあり、別様の価値観が広く共有されるようになった当時の時代潮流と、深い関係があったのです…!
近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観は、たとえば新プラトン主義やグノーシス主義にあったような秘教的な性格をある程度受け継ぎながらも、科学や啓蒙思想といった、最先端の知の領域にも接近するものであったと言えるんです。
ということで、今回からは、⻄洋における近代以降の「輪廻転生」観について考察していきます!
・近代=「理性」への信頼の時代
まずは、「近代」という時代性について考えてみましょう。
それまで人々を縛っていた、古い伝統的な価値観が、がらりと変化したのがこの時代です。
市⺠革命や産業革命が勃発し、特権階級だけが政治的な権力を持ち得た社会制度が解体されるなかで、その制度を支えていたキリスト教の権威も揺らいでいきました。
重要なのはそれが、科学研究や産業技術が発展し、合理主義哲学や啓蒙思想が盛り上がった、「理性」の時代であった、ということ。
科学技術と哲学思想というと、学問領域としては全く違うようにも感じられますが…
当時そこには、「人間は、みずからの理性によって、輝く未来に到達できるのだ!」というモチベーションが共通していました。
そもそもキリスト教的な世界観においては、人間の「理性」は、必ずしも「良いもの」と言い切れるわけではありませんでした。
よく知られている通り、旧約聖書『創世記』においては、原初の人間であるアダムとイブが、神によって禁じられていた「知恵の実」を食べ、楽園を追放されたところから、人間の歴史が始まったとされています。
アダムとイブの犯したこの罪は、あらゆる人間が抱える「原罪」とされ、キリスト教の教義において非常に大きな意味を持ちます。
つまり、そもそも人間が「知」を獲得し、神に近づいていくことは罪である、という考え方が、キリスト教のベースにはあったわけです。
敬虔な信仰を貫くことを通して、いつか訪れる「救済」(つまりキリストの再臨と、その統治による千年王国の樹立)を待ちのぞむべきなのだという、伝統的なキリスト教の死生観・終末観は、人間がみずからの「理性」を駆使してこの地上生活を豊かにしていくという未来像とは、相容れないものだったと言えるでしょう。
近代はまさに、それまでの社会の伝統においてはそのポテンシャルを十分に発揮できなかった人間の「理性」がフィーチャーされ、その「理性」への信頼によって世界をより良くしていこうとする考え方が、たくさんの人々に共有された時代だったのです。
ここで思い出したいのが、前々回・前回にお話した、プラトン以降の⻄洋神秘主義の潮流における「輪廻転生」観です。
そのなかで、最も重要視されていたのは?
そう、「知」の力によって、地上の生の苦しみから逃れ、原初の素晴らしい状態へと回帰していくプロセスでした。
だから、キリスト教の権威の強かった時代においては「異端」とされていた、「知」を重んじる「輪廻転生」思想が、「理性」への信頼を掲げる近代になって表舞台に噴出してきたことは、ある意味で納得の結果と言えるんですね。
・「霊的進化」のプロセスとしての「輪廻転生」
近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観は、プラトン以降の神秘主義の流れを強く意識したものでしたが、そこには一つ、新たな特徴が見られます。
それは、「輪廻転生」を、「霊的進化」のプロセスとして捉えているという点です!
どういうことでしょうか。
たとえばプラトンは、肉体に由来する様々な欲望を断ち切り、哲学的探究によって魂を純化することで、「生まれ変わり」の連鎖から逃れられると記していました。
肉体を有した人間の生というのはそもそも堕落した状態であるから、個人の努力によってそこから解脱することを目指すべき、というこの思想は、シンプルに言えば、この現世に生まれ落ち、「生まれ変わり」を繰り返すことを否定的に捉えるものですよね。
このプラトンの思想を重要な源流とする新プラトン主義も、グノーシス主義も、その世界認識の枠組みは違えども、地上の生を「本来の理想状態から離れたもの」「望ましくないもの」と捉え、個人の「知」の力によってそこから逃れようとする点は共通しています。
しかし、近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観は、私たちが何度もこの現世に生まれ落ち、人生経験を積むことを、魂にとっての重要な学びのプロセスとして肯定するものだったのです。
しかもそれは、個人の生のレベルにとどまるのではなく、人類全体の進歩を見据えたものでもありました。
そこには、先ほど述べた通り、当時の時代潮流としての現世主義的な未来志向が、少なからず影響を与えていると考えられます。
・地続きの輝く未来を見据えて
近代においては、人類の歴史を、未熟な状態から完全な状態へと発展していくものとして捉える、「進歩史観」が広く普及しました。
また、1859 年には、イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが、かの有名な「進化論」を唱える『種の起源』を発表しました。
よく知られている通り、ダーウィンは、「ヒト」も他の生物と同じように進化のプロセスを辿り、現在のような姿に行き着いたと考えたわけです。
これが、神によって創られたアダムとイブを人類の祖と見なすキリスト教の創世神話とは、真っ向から対立する考え方であったことは、指摘するまでもありません。
このような、近代という時代に共通する人類の「進歩」へのまなざし―私たちの地上の生を、人類の輝かしい未来へと向かうプロセスの重要な一部として捉えるスケール感―が、神秘思想にも取り入れられることで、近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観が生まれたと考えられるんです!
ダーウィンの「進化論」が、生物学の領域において、太古から未来へとつながる直線的な時間軸に沿った「ヒト」の進化を示唆するものだったとしたら、近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観は、直線的な時間軸に沿った人類の「魂」の進化を示唆するものだったと言えるでしょう。
この連載においてすでに何度か参照している竹倉史人氏は、1857 年に発表されたアラン・カルデック『霊の書』(「世界三大霊訓」にも数えられる霊訓集)を取り上げ、そこに示された「霊的進化」としての「輪廻転生」観の背景に、近代に共通する「進歩」思想があったこと指摘しています。
神の創造の御業からしだいに遠ざかる「劣化する未来」から、進歩しながら神的な完成へと向かう「輝かしい未来」への決定的な転換をもたらしたのは、「人間は憚ることなく理性を行使してもよいのだ」と訴える近代⻄洋の啓蒙主義でした。
(竹倉史人『輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語』、講談社現代新書、2015 年、127-130 頁)
(中略)
カルデックが編纂したリインカネーションの思想は、心霊主義ブームのさなかに偶発的に生み出されたものではなく、その予型はすでに前世紀の啓蒙思想のなかに胚胎していたといえるでしょう。カルデックの業績は井戶掘り職人のそれに比することができます。
※筆者による註
・「リインカネーション」…直訳すると「再受肉」。「生まれ変わり」、「輪廻転生」を指す言葉として、近代スピチュアリズムにおいて頻繁に用いられた。
神の国における救済を夢見るのではなく、この地上の世界で、「理性」を駆使し、神的な理想状態へと向かうことを目指そうとする思想が、近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観のベースになっていた、というわけですね。
・神智学における「輪廻転生」
「霊的進化」としての「輪廻転生」観は、カルデックだけではなく、多くの神秘思想家やスピリチュアリストに共有されました。
その代表が、神智学協会の創始者である H・P・ブラヴァツキーです。
(ブラヴァツキーに関しては、「ハイアーセルフ 再生」シリーズでも詳しく触れています↓)
神智学協会は、その名の通り、神聖な「智」としての真理の探究を目的とする団体。
新プラトン主義をはじめとする⻄洋神秘主義の流れを汲みつつ、バラモン教や仏教といった古代インド思想を積極的に取り入れたことも、その特徴です。
後のニューエイジ思想などにも大きな影響を与えたこの神智学においても、「輪廻転生」は、人類の「霊的進化」のために必要なプロセスとして明確に定義されています。
次回はこのあたりのお話からはじめて、近代スピリチュアリズムにおける「輪廻転生」観を深掘っていきます!
お楽しみに。
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